VRMMOで勧誘
余計なことは言うもんじゃない。俺はまだ、本当の意味で状況を把握できていなかった。だから……うっかりちょっと寝不足ですとか言ってしまったんだろう。
「えー大和くんが寝不足ということで、今日は急遽VRMMOの世界にやって来ましたー!!」
「うおー!」
「わーわー!」
「余計なこと言うんじゃなかった!!」
俺の本体はヘッドギア的なものをかぶって旅館で寝ている。そして目の前にはでっかい城。完全にRPGの世界だこれ。
「えーちなみにここで死ぬと現実でも死にます」
「うそお!?」
「大丈夫ですよ大和様。死ななければいいんです」
横で光り輝いている結名がなんか慰めてくれるけど全然安心できない。
「それに死んでも閻魔も冥界の神もこっち側ですから。いくらでも生き返れますよ」
「まず死にたくないんだよ!!」
「そこはしょうがないさ。いいかい大和。このゲームはリアルを追求している。だから死んでしまう。その理由だってリアルなんだよ」
「死ななきゃならないほどのリアルな理由ってなんだよ?」
そんなとこにリアルさいらねえよ。運営なに考えてんだ。発売できねえだろ。
「それはあれだよ」
「あれ?」
「…………運営がクソなんだよ」
「リアルな理由だ!?」
「もう本スレとか大百科的なやつで完全にクソゲーの烙印押されてるよ。『あの苦行』で通じるからね」
「なんでそんなクソゲーやらなきゃなんねえんだよ!!」
「みんなでやったら面白いかなって」
「思いつきか!!」
そんなわけで俺・ジェイク・人川・結名でパーティー組みましたよ。俺は軽鎧の戦士だ。日本刀と西洋剣の二刀流。ここまではなんかかっこいいし、ちょっとやる気も出てきたぞ。
「ジェイクはスナイパーか。RPGで銃使いとかいいんかい」
黒いスーツにサングラス。本職だからか、デザートイーグルだっけ? そんな名前の銃とスナイパーライフル持ってビシっとポーズとられるとキマっている。流石現役スパイ。
「いいのさ。運営がクソだからな」
「さては今回全部それで通す気だな」
「察しが良いね大和は」
ちなみに人川は神官だ。ヒーラーだな。お前浄化される側だろ! というツッコミはしておいた。
「私は唯一神です。データをちょっとだけいじったりできますよ」
羽衣まとって和風の神様っぽい出で立ち。しかも後光がさしてらっしゃる。眩しくてウザイ。なのに似合っている。巫女だからだろうか。似合っているのがまたうざい。ドヤ顔をやめろ。
「職業じゃねえだろそれ。いいのか勝手にいじって?」
「チートもなしにこんなクソゲーやってられませんよ」
「今まさに開始しなきゃなんねえんだけど……」
仕方ないので狩りに行く。装備は結名が出した。唯一神だからね。ゼロからやってたらテンポ悪いし。
「ぬるぬるの触手が来ましたよ。倒しちゃってください」
紫色でぬるぬるした触手がいる。キモイ。まず触手がやってくるという状況に疑問を持て。本体どこやねん。
「なんで触手?」
「ネトゲは女キャラが多いだろう? だからだよ」
「安直だが客寄せとしては効果的だな。ん? じゃあなんでクソゲー? 少なくとも触手ゲーとして需要ねえの?」
「ちょっと僕がダメージ食らってあげるよ」
人川、といってもオッサン神官なんだけど。オッサンが触手に当たりに行く。この時点で帰りたい。
「いたっ! あいたたた……」
人川の上に10とかダメージが出た。エフェクトが派手だな。無駄に派手だ。
「ん? そんだけ? 今触手動いたか?」
「触手のモーションが存在しないんだ」
「クソゲーだこれ!?」
「敵のやられモーションは50種類あるぞ」
「その手間を触手にかけろ!!」
しばらく狩りをしまして、次のエリアに行く。道中の敵は本当に微妙だった。敵キャラのデザインって大切なんだなあ。
そしてたどり着いた世界はなんだか黒く暗い……魔界とはこういう場所だろうか。
「この先のエリアが魔王の城です」
「近いな!?」
「気をつけるんだ大和。五大四天王のうち最も強いやつらが待ち構えているぞ」
「五大四天王て!? 四天王どんだけいんのさ!!」
とにかく飽きさせないために敵キャラをどんどん増やしていったらしい。必死さがなんか悲しいわ。末期のネトゲってそんななのかもしれない。
「なにをしんみりしているんです?」
「いや、ネトゲ運営って大変なのかもなって」
「はっはっは、大和は優しいね」
「さあ、魔王の城に行こうか。時間がないぞ」
「これ制限時間とかあんの?」
時間切れで死んだりしたくないぞ。いくら蘇生できるっていっても死ぬのは怖い。
「いや、修学旅行のしおりによると、あと一時間で昼ごはんだ」
「急に現実に戻すなや……」
そしてやってきました魔王の城。ここまで戦闘があったけど、壊滅的につまんなかった。だって敵の種類が三種類しかいないんだもの。色違いが二十種類くらいいて、すげえ水増し感があったし。
あと遠距離から攻撃するのが必勝法なのでつまらん。近距離で百ダメージなのに魔法で五千とか入るんだもの。
「もうほんとクソゲーだな!!」
クソゲーだ。これただの苦行だよ。どうして売れると思ったんだよこれ。これ作った陣営には入らないでおこう。そう心に決めた。魔王倒す決心よりも重く決意した。
「あの赤い触手は……まさか!」
人川がなんか反応している。なんだよレアモンスターか?
「理由あって触手四天王を除名された、伝説の触手……レッド触手!」
「触手に伝説もクソもあるかあ!!」
「いやいや、あれは凄いんだよ」
「凄くねえよ普通だよ! ここまでよく見てきた触手だよ!」
「いや本当に凄いんだって。バックストーリーが」
「知るかあああぁぁ!!」
ゲームの公式サイトに、こいつの短編小説あるらしい。どこに需要があるのさ。クソゲー作ってる会社ってやっぱ狂ってんなあ。
とりあえず遠距離攻撃で倒した。
「まあやっぱ弱いんだよな。うん」
「弱いんじゃないよ。バランスが壊れているんだ」
「より悪いわ」
「だがここからは難しいぞ。エリアボスのホワイトギガワイバーンがいる」
「急にかっこいい名前が」
三人が深刻な顔で準備をしているので、それなりにやばいんだろう。
なんでも白くてでっかい西洋のドラゴンらしい。
「おぉ、ちょっと見たいなそれ。ちゃんとしたのもいるんじゃん」
「開発陣が経営やばくなってな。焦ってちゃんと作ったんだ。そこに今回大和が遊ぶということで、それなりに改良を加えてある」
「なぜそれを最初に出さなかった?」
「大和様がクソゲーマニアの可能性を考慮しました」
「おぉ、なんて言えばいいか分かんねえ」
「はい敵が来ましたよ!」
白くてでっかいドラゴンだ。こりゃかっこいい吼えると迫力がビリビリ伝わってくる。まるで時間が止まったように感じて……ドラゴンが止まっている気がする。
「ドラゴン止まったんだけど」
「フリーズバグだね」
「クソが!!」
「はいちょっと修正入りまーす。少々お待ちを」
「ああ、それでいい。ドロップ? 余計なことは考えるな。経験値も不要だ。今回限りのゲームなんだ、ああ、頼んだぞ。解像度を下げろ」
ジェイクがなんか通信している。その結果、少し敵のグラがさがった。
「よし、さらに援軍を呼ぼう。今回だけ特別に10連召喚を無料でさせてあげるよ」
「チュートリアルガチャだこれ!?」
「やったぞ! SSR人川だ!」
「もう本人いるけども!?」
人魂が黄金に光り輝いている。じゃあ横にいる人川のキャラはどういう存在なの?
「これが聖なる輝きだよ。あらゆる不浄を清め、天へと帰す聖なる光さ」
「成仏とか、なさらないんですか?」
「友達のピンチに成仏なんてしてられないさ」
「お前かっこいいな」
「ファイナルゴールデンスピリットアターック!!」
そして人川が全部もっていった。結局俺は何もしていないんだけど、これでいいのだろうか。逆に申し訳ないわ。
「大丈夫ですよ。ソシャゲのプレイヤーって大抵見る側で戦闘に参加しないでしょう?」
「うんまあお前らがいいならいいよ」
次はいよいよ魔王なんだけど、こんな盛り上がらないことってある?
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