温泉旅館で勧誘
俺のうかつな一言で、高校生活初日から修学旅行に来ることになった。転送魔法で。こんなもん予想できるかい。
「はい、というわけでまずは温泉旅行でーす!!」
「ちくしょう滅多なこと言うんじゃなかった!!」
「だから発言には気をつけてくださいって言ったのに……うわあこれまた老舗旅館に来ましたね」
さっきのは移動魔法らしい。俺達は生涯泊まることなど出来ないような高級感バリバリな温泉旅館のロビーに立っていた。
「俺は外出して大丈夫なのか? 学園が安全な場所なんだろ?」
「ここも学園の息がかかっています。それに護衛もちゃ~んとつきますよ」
「その通りだ大和君! 安心するがいい!!」
ロビーに現れた全身真っ赤な服……服かこれ? ヒーローもののリーダーみたいな赤い全身スーツっぽいものを着た男と、両隣にいる鎧を着込んだ男達。二人ともでかい。二メートル超えてるぞ。
「君を守る希望の星! 守護星戦隊ゴエイジャー……ゴエイレッド!!」
ビシッとポーズを決めるゴエイレッドさん。ほう……コスプレにしちゃクオリティ高いな。男の子としちゃテンション上がるぜ。
「すぐ裏切るぜ! 裏切りたくてたまらない! ゴエイ呂布!!」
「裏切るとか言ってるぞ!? ってか呂布!?」
「こいつを止めるだけで精一杯だ!! ゴエイ本多平八郎忠勝!!」
「仲間割れすんな!? うーわー戦国武将来ちゃったよおい」
物凄くごつい。まさに武将という風格だ。きっとチャージ攻撃で敵兵を五十人くらい吹っ飛ばせる。
「安心してくれ、君の安全は保証できないが、とりあえず全力で呂布は止めるよ」
「安心できねえな!? もうクビにしろや呂布!!」
「ダメだ。クビにしたら完全に敵になるから」
「タチ悪いなおい!?」
「流石はゴエイジャーですね」
「どの辺が流石なのさ!?」
もう意味わからん。最初から最後まで意味わからんことしか起こってないぞ。昨日からずっとこんなだよチクショウ。
「そういや戦隊なのに三人なんだな」
「残る二人は俺の赤兎馬を駐車場に停めに行ったぞ」
「自分で行け!!」
ゴエイレッドさんの腕輪が鳴る。ここからでは聞こえないけれど、会話していることから通信機なんだろう。
「仲間から通信が入った。もう赤兎馬多すぎるから停められないってさ」
「多すぎるってなんだよ複数いるもんじゃないだろ」
「仲間には呂布の力を受け継いだ男子高校生と三国時代から来た女性呂布がいるぞ。もちろんそれぞれ赤兎馬がいる」
「お前ら五分の三が呂布かよ!?」
「安心したまえ! この護衛レッドが君を呂布から守ってみせるよ!」
「敵から守れ!! もう帰ってくれ!!」
そんなこんなで俺の泊まる部屋についた。俺の家にはない畳の匂いがする、いかにもな部屋だ。
「はい、ここが大和様の泊まる『大和様が泊まる間』です」
「俺が泊まらない日は名前どうなってんだよ!」
「中は普通に高級温泉宿です。高級ですよ。最高級です」
「言わんでいい。見ればわかる」
三十畳はある部屋は、奥の大きな窓から外の景色が見渡せる。こいつが中々に絶景だ。景色が一面山ということはここは山奥の旅館なのかな。
うわあめっちゃ豪華ですわ。これ一生泊まることのないやっべえ上級国民様のお部屋でございますよ。和室ってこんなに豪華にできるんだなあ。
「ようこそおいでくださいました。私、当旅館の女将を努めております。大神・プラチナ・ザ・パトリオットと申します」
「名前が女将っぽくない!?」
女将さんは黒髪黒目で日本人だろう。耳も尖ってないし、羽も生えていない。名前さえ気にしなければいいのだ。旅館の説明をしてくれているしちゃんと聞いとこう。
「浴衣はそちらの棚に、お茶とお茶菓子はこちらに、そしてこの掛軸とそちらの絵画の裏にびっしりと御札がございます」
「最後のいりますかね!?」
うーわー掛け軸の裏にすごい量の御札……知りたくなかった。知りたくなかったよ俺は。そういえば幽霊っているん……だよなうん。クラスにもいたし。
「この旅館はそれはもう知る人ぞ知るスポットでしたので」
「温泉のですよね?」
「心霊のです」
断言されました。うおうきっついな。今晩泊まるんだぞ。
「でしたということは消えたのでは? まったく邪気を感じませんし」
結名が言うんだからそうなんだろう。巫女だし。
「ええ、大和様がおいでくださるということで、霊を一掃しまして」
「できるんですね」
「はい、ゼウス・スサノオ・アマテラス・オシリスの連合軍で綺麗さっぱり天に帰しました」
少しだけ同情するぞ霊よ。よくわからんけど多分強いんだろうきっと。神話とか詳しくない俺でも知ってる連中やん。
「じゃあなんで御札はってあるんです?」
「心霊スポットとしても儲けていきたいので」
「銭ゲバですね」
「ふふっ否定できません」
「してください。できればしてください」
「では、これで失礼致します。ごゆっくり」
女将さんは颯爽と肩で風を切って歩いて行く。女将の歩き方じゃないだろ。アクション映画で敵の雑魚どもを蹴散らすときの風格だぞ。
「さて、温泉までのわずかな時間に、命がけでお部屋の説明しちゃいますね」
「普通にできねえのかお前は」
「まずエッチなチャンネルですが」
「まずでそれ!? 見ねえよ!!」
こいつ真顔で色ボケかましやがる。これがボケなのかマジなのか判断つかない。だって出会ったの今日だもの。
「えぇ……私が一緒に見るという覚悟もしてましたのに」
「いらん。なんで一緒に見るんだよ? 気を遣うなら俺一人にするもんじゃねえの?」
いや一人にされても見ないけど。それでも意味わからんしさ。
「同級生とえっちなビデオを見ていたら、怪しい雰囲気になって……というジャンルがあるそうですよ」
「ニッチすぎません!? ってそれ誰に聞いた?」
「先代巫女様からですが?」
ピュアな眼差しで首をかしげておられる。つまりその先代さんが原因だなこれ。
「とにかくいらん。普通に部屋の説明してくれっていうか女将がしてくれたろ」
「そうですけど、私のお役目が……まあいいです。では温泉に入りましょうか。そろそろ女子が入る時間ですから、急がないとみんなとお風呂に入れませんよ」
「あのなあ、その言い方だと女子と入るみたいだろ」
「そうですけど?」
「おかしいよな!?」
普通に温泉に入ることはできないのかもしれない。いや諦めるな。ここで倫理観を捨ててはいけない。清く正しい学園生活にしよう。
「これも勧誘の一環です。しかも温泉旅館ですから、気になる子がいたら思い切ってのアタックチャンスですよ」
「なんだよアタックチャンスって。女湯にアタックして出てくるのなんて警官くらいだろ」
「勧誘をダシにして一緒に入浴を強要するチャンスです!」
「最低か!! そんな汚い真似ができるか!!」
親指をぐっと立てていい笑顔をするんじゃないよこの子は。
「既にキレイ事では済まされない世界に片足突っ込んでますよ?」
「うわー抜けだしてえー。超抜け出してえよー」
「抜け出すも何も、今や全世界の命運がこっち側ですよ」
逃げ道ゼロってことですね。結名はどうしてこうもサラッと怖いこと言うかね。
「一応個室露天がそこらの温泉旅館の公衆浴場並みの広さでありますが……」
「よっしゃそこ行こうぜ! 個室最高だわ!!」
「護衛のため私も行きますからね。そこは譲れません」
「まあそれは仕方ないか……案内してくれ」
部屋へ来た道とは反対側に個室露天へと続く道がある。広いなー、高級旅館ってそういうもんなのかな? 温泉は好きだから自然と笑みが溢れる。
「楽しみだな」
「ドスケベですね」
「そうじゃねえって!?」
急ごう。スケベ扱いは避けたいからな。急いで早く落ち着く場所に行こう。ダッシュで。
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