クラスメイトがやべえ

 豪華にも程がある学生寮を出て、死ぬほど豪華で綺麗な学園内を歩く。上流階級の世界過ぎて俺が異物だよここ。


「言い忘れていましたが、ここは元女子校です。小・中・高・大と揃っております」


「元って、いつくらいから共学なんだ?」


「今日からです」


「はあぁ!?」


 そんな急に共学化ってできるもんなのか? 今年からじゃなく今日?


「大和様が入学なさるので共学になりました」


「えぇぇ……無茶してんなあ」


「ご安心ください。男一人では気まずいでしょうから、大和様のクラスだけはちゃんと男子生徒もいます」


「だけって言いました?」


「はい、しっかりと。なんか少し前のラノベみたいな環境ですね! どうですか? 実際に体験するとどうですか?」


「まだ体験してねえよ。お前のその偏った知識なんなの?」


 不安だ。もう不安しかない。そいつらと仲良く慣れなかったら地獄だな。


「こちらが大和様が一年間を過ごすことになる一年XYZ組です」


「もう後がなさそうな組だな」


「後がないのは組ではなく大和様の来ない勢力ですけどね」


「プレッシャーを与えるのはやめてくれ」


 ちょいちょい意味わからんジョークぶちかますのやめて欲しい。心臓に悪いぞ。


「では、行きましょうか」


 まだ決心つかないけど行くしかないのか。これからなにが起きるか不安だよ。


「今日は新しいお友達を紹介します。入ってきてー」


 小学校かここは。呼ばれて入らないのもアレなんでちゃっちゃと入って教壇の前に立つ。


「えー……暁大和です。アカツキでもヤマトでも好きに呼んで下さい。突然入学が決まりまして、戸惑っています。まだ何もかもが理解できていませんが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」


 全員が俺の勧誘のことを知っていると聞いていたので、それを含めた挨拶になる。

 みんな拍手で迎えてくれた。ここまで歓迎されるのは複雑だ。ちょっと申し訳ないかな。せめて迷惑かけないようにしたいぜ。


「じゃあ大和君はユナちゃんと人川君の間かな」


 メガネで中学生くらいの背丈してる先生に言われてユナの隣に歩き出す。

 先生がチャイナ服だし仙人の武器みたいなの持ってるけど見なかったことにしよう。足が地面についてないけど気のせいだ。


「よろしくお願いしますね大和様」


「ああ、よろしく。結名が頼りだ」


 左隣の結名にすがりつきたい気持ちを抑えて挨拶する。


「よろしく。大和って呼んでいいかな? わからないことがあったらなんでも聞いてね」


 右側から爽やかさ全開な男の声で話しかけてくるのは…………ふよふよ浮いている青白い人魂だった。


「全部だよ。もうこの状況の全部がわっかんねえよ。幻覚見えてるわ俺」


「はっはっは! そりゃいきなり連れてこられたもんね! なんとかフォローするさ、よろしく」


「いやそこじゃなくて……いやそこもだけど……よろしく。大和でいいよ」


「困ったときは言ってくれ。夏場とかに洗面所の鏡に映るくらいはしてあげるさ」


「絶対やめろよ!?」


 なんかいいやつっぽいけど、せめて人の形しててもらいたい。会話できていいのか? 俺は霊能力とか無いはずだよ。


「おや、握手はしてくれないのかい?」


「できねえだろ!? 手はどこにあんだよ!! ええっと……人川?」


「ゴメンゴメン名乗っていなかったね。僕は人川魂男だよ」


「ひとがわたまお!?」


「略して……川男だね」


「人魂じゃねえんだ!?」


 周りを見ると頭に天使の輪っかあるやつとか猫耳あるやつとかわんさかいる。ええ……人間はいないの? 俺と結名だけかもしれないの?

 人間っぽい人もなんか上に数字出ていたり、豪華なドレス着ていたりするぞ。


「あの、数字出ている人いるんだけど、なにごと?」


「ああ、あの数字はHPです」


「HP!? あのゲームとかの!?」


「彼らはVRMMOで超パワーを持ったプレイヤーです。自分のキャラと融合しているんですよ」


 VRMMOって存在していたのね。俺はそんな技術があることすら初耳だぞ。


「別世界にはVRMMOが普及しています。ちょっと、HP消し忘れてますよ。設定変えておいてください」


 あ、いっけね。とか言いながら半透明の画面いじってるよ。あのメニュー画面どうやって出しているんだろう。


「別世界ね、便利な言葉だぜ」


「大丈夫ですよ。すぐに慣れます」


「すぐ慣れちゃダメだと思うぞーい。俺やっていけるのかね」


「心配しなくてもみんないい人……いいやつだからさ」


 人川が優しい声でフォローしてくれる。イケボだ。でもちょっとひっかかった。


「今なんで言い直した?」


「人以外がいっぱいいるからだよ」


 ですよね。聞かなくてもわかってましたよ。


「では一時間目は大和君への質問タイムにでもしましょうか」


 唐突な先生の提案に沸き立つ教室。一時間晒し者ということかこれは。俺の元へ集まるんじゃないクラスメイトよ。


「といってもほとんど調べてあるんだけどね」


「…………調べた?」


「暁大和、十五歳。勉強もスポーツも普通。ぶっちゃけ並。得意スポーツ水泳と長距離走。趣味ゲームと漫画。ゲームはソシャゲか自分で容姿と名前が決められる自由度高いヤツが好き。炭酸飲料よりお茶が好き」


「調べすぎてて気持ち悪いわ」


「女性の趣味もきっちり調べて夜桜さんが選ばれてるよ」


「えぇ……結名の選ばれた基準マジでそこ?」


「そうですよ。自分の好みの女の子がお世話係に選ばれている気分はどうです? 私としては複雑極まりないですが」


「俺も複雑だよ。いやもうほんとゴメン」


 俺のせい……と言い切っちまうのもどうかと思うがまあ俺のせいでもある。謝っておこう。そういう人生の狂わせ方を喜べない。


「いいんですよ。好きで手に入れた能力じゃないのは知っています。すぐに手を出そうとするエッチな人じゃなくてむしろよかったです」


「気をつけてね暁君。滅多なこと言うと現実になるよ」


「そうだぜ、まあ慣れるまでゆっくりやっていこうじゃねえか」


 励ましてくれるクラスメイトの皆様。ツノとかガッツリ生えてるんだけどいい人には違いないんだろう。もしくは俺の勧誘のために嫌々愛想をふりまいているだけかもしれないけどな。


「助かるよ。ゆっくり慣れていくさ」


「せめて僕たちは安らぐ空間を作ってあげようじゃないか」


「そっか、これからお偉いさんと会わないといけないんだよな」


「気楽に、といっても無理ですよね。肩がこったら揉むくらいはしますよ。私も肩こりは起きるタイプですので」


 人情が身に染みる。いや人じゃない方々が大多数なんだけれども。これが多様性というやつでしょうか。けど仲良くしてくれるみたいだし、俺からも心を開いていこうじゃないか。


「そんときゃ頼むわ。色々と巻き込まれて、結局春休みに旅行とか温泉行けてねえからなあ。リラックスできる空間は大事にしたい」


「旅行好きなんですか?」


「ん、まあ……結構好きだぞ。温泉に寄る予定で旅行の計画立ててたし。行く前に裏の戦いってのを見ちまったけどな」


 年寄り臭いかもしれんけど好きだ。落ち着くし、風呂自体も好きですとも。ゆっくり落ち着ける場所が好きなのかもしれない。今の状況と真逆ですよね。

 人川も温泉好きらしく同意してくれる。どうやって温泉つかるの?


「わかるよ、落ち着くんだよね……なんかゆったりしっとりしててさ。なんか天に昇るようだよ」


「お前が言うと成仏という単語がちらつくからやめろ」


「はっはっは、その時は……たまにでいいから思い出してくれるかい?」


「初対面でヘヴィな要求しないでくれるかい?」


「はーい積もる話はそこまででーす。一時間目は雑談ですが、二時間目から明日の六時間目までー」


 先生が突然乱入して魔法のステッキみたいなやつをグルグル振り回している。あれ中国拳法とかの棒術の動きだ。


「修学旅行にしまーす!!」


 その声と、足元に現れた巨大な魔法陣がクラス全体を包むのはほぼ同時だった。

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