俺が覚醒したら所属した勢力が世界の覇権を握ってしまうらしいのでみんなが全力勧誘してくるそんな高校生活

白銀天城

俺の力で世界がやばい

 どうしてこうなった。パジャマのまま見知らぬ部屋に連れてこられた今の俺が言えるのはこの一言だけだ。


「聞いていますか? 大和様」


「ああはい、聞いてます」


 俺の目の前には巫女さんがいる。なんか凄い伝統ある神社がどうのこうのらしい。

 黒髪ロングで、本場の巫女服を着た美少女がそこにいる。本来なら喜ぶ場面かも知れないが、とてもそんな心境にはなれやしない。


「聞いていなかったようなのでもう一度説明します」


 小さく咳払いしてからゆっくりと語り出す巫女さん。それだけでちょっと胸が揺れる。無駄にでかいな。何食ったらこんな乳になるんだ。


「本日より学園のウルトラスペシャルゴージャス寮に入居が決まっています。なお、転校・無断外出は聞き入れられませんのであしからず」


 いきなり連れてこられてこの説明だ。これだけでもしんどい。

 今俺がいる部屋が死ぬほど豪華であること。入学金タダで飯もタダ。両親が大量に金を受け取って了承したこと。

 色々あげればきりがないが、そんなことは些細な事だ。


「来週の予定は西洋魔術師連盟会長との面談、未来警察本部の見学です。護衛には本多忠勝と呂布、守護星戦隊ゴエイジャーのゴエイレッド。今月の専属守護神はオシリスとゼウスです。帰りに竜宮城で晩餐会に出席していただきます。なお、偉人チームは女体化が認められておりますのでご自由にお選びください。修学旅行はヴァルハラか第六地獄かVRMMOの世界が候補にあがっています。申請書を私に直接お渡しください」


 これに比べりゃ大分マシってな。意味がわからん。何度聞いても理解できる気がしない。むしろしたくない。


「ではこれより本格的な説明に入ります。しゃきっとしてください。なんでパジャマなんですかもう」


「お前らが寝てるとこ連れてきたからだろ!?」


「その件に関しては私にはお答えできかねます」


「ここにきて事務的な対応だと!?」


「そういえば名乗っていませんでしたね。一人目のお世話係の夜桜結名です。これから身の回りのお世話をすることになりました。一緒に頑張りましょうね。ちなみに同じクラスです」


 見る者を癒やす優しい笑顔も、この状況では癒やし効果八割減だ。


「大和様は中学卒業の日、太古の昔から続いている裏の戦いを見てしまった。そして人質にされかけた際に大声で『やめろ』と言い放ったところ。全員が指一本動かせなくなったと報告があがっています」


「ええまあ、その通りですが」


「そのことから推察するに、私達のような裏の存在。特に女の子に指示できて超パワーアップさせる能力という結論に達しました。これが貴方の第一の能力です」


「第一の? なんだよ第二があるみたいな」


「謎が多いのですが、複数の能力があると研究班は見ています。これにより全勢力が揉めに揉め、一時的に休戦協定を結びました」


「その結果が俺を捕まえて接待すること? イマイチ繋がらないんですが」


 俺が危険な存在なら殺せばいいんじゃないのか。だだっ広い部屋で巫女さんにお世話される意味がわからん。


「普通なら人知れず始末して解決するところですが……」


「それが普通という所が怖いわ」


「正直戦うのが馬鹿らしくなるレベルで強化されるんですよ」


 神宮寺さんの顔が露骨に曇る。どこか遠くを見つめて全てを諦めたようなどんよりとした雰囲気を漂わせている。俺のせいなのかこれは。


「大和様にわかるように説明しますと。入ったばかりの新人で、腕立てが百回できない子がいたとします」


「ド新人ですね」


「ド新人です。その子が指パッチンで地球の半分を地図から消せるくらいの力を持ちます」


「やばいな!? バランスぶっ壊れるだろ!?」


「壊れましたよ? ええ壊れましたとも! もう台無しなんですよ色々と! やってしまいましたね!」


「うん、なんかごめん」


 巫女さんからドス黒いオーラが吹き出ている。やけくそ感満載でお届けされているので謝っておこう。


「大和様が所属した勢力の勝ちが確定します。何千何万何億年も続いた戦いがポッと出の高校生によって決着です。誰でも大首領レベルに強くなるのですからね。新人がそのレベルまで強くなるということは幹部はどのくらい強くなるのでしょうね?」


「は、ははっ……地球がやばいくらいですか?」


「宇宙がやばいレベルです」


「想像以上にやべえ!?」


「全次元のパワーバランスが完全に崩壊します。なので戦いは中止。在学中に決まった時間内で勧誘合戦を行い、最終的な所属勢力を決めてください。卒業式の日が期限です」


 その日までに色々な場所に行っては勧誘を受けるらしい。学園は一般人が一切知る術のない場所にあり、俺の生活は保証されているとのこと。


「ちなみに私は陰陽結社チームや東洋の神秘チームなんですけど……お世話係がどこかに所属しているとまずいので大和様チームとなりました」


「俺だけ個別……はまあいいとして。夜桜さんも……」


「結名と呼び捨てで構いませんよ。同い年ですから」


 女を名前呼びする習慣がないんだけどなあ。呼ばないと進まないぞーというオーラが出ている。


「じゃあ結名。勢力ってそんなにいっぱいあんの?」


「ありますよー。ざっと神族・魔族・現代特殊部隊・未来警察・童話・偉人・惑星連合……」


「神族魔族の段階でアレだけど、わくせいれんごう?」


「宇宙人はいます」


「そんなサラっと!? やっぱ宇宙人って銀色で目がでかいんですか?」


 アメリカだかどっかの両手を持たれている銀色宇宙人の写真を思い出す。


「メチャンコピッカピカ星人のことですか?」


「なんだその名前!? ほぼ日本語じゃねえか!!」


「彼らはすごく光っているのが特徴です」


「名前でわかるわ!! あいつらなんで光ってるんだよ体質なのか?」


「いいえ、彼らの生き様が光り輝いているからです」


「理由かっこいいな!?」


 なんだよそのハードボイルドな連中は。超かっこいいよマジで。


「あと魔法もあります。西洋魔術連合チームとか。とにかく数えきれないくらいありますからね」


 その数えきれない連中に接待されるわけか。身も心ももたないな。不安しか無い。


「はっはっは、これが俗にいう悪い夢ってやつか」


「正にドリームチームですね」


「うまいこと言ったつもりか!?」


「ふっふっふ、今のは自信アリです!」


 この娘もどっかおかしいな。よく聞くと霊力のバカ高い戦闘もできる箱入り娘さんらしい。今後常識を破壊してくれそうな人間の一人であることは間違いないだろう。


「なんていうかさ、いきなり環境が変わりすぎてついていけないというか。本当に俺はここで暮らすの?」


「はい。ここが唯一安全な場所です」


 唯一と言い切られたよおい。つまり俺は相当危険な状況に置かれているわけだな。


「この学園を出た場合、全勢力が大和様の身柄確保のために血みどろの闘いを繰り広げます」


「最悪だな」


「ええ、最悪です。ここに何か不満でも? いい部屋ですよね。私も大和様の好みそうな女性の中から選ばれてお世話係になりましたし。物は試しですよ。こんな状況一生に一度あるかないかですよ」


「試し、ねえ……俺に期待されてもさ、された分の働きができるかわからないんだぞ? ぶっちゃけただのガキだ」


「その時はその時です。今どうしたいかですよ。どうせ特に今までの生活に未練もないでしょう?」


「いやそりゃそうだけども、ああわかったよ。俺に何ができるかわかんないけどやってみるさ!」


 正直新しい生活に期待している。今までの平凡で退屈な日常が少しでも改善されるなら。それも豪華で楽しい生活になるってんならやってやるさ。


「そうですか……よかった。ちなみに仲良くなって合意のもとであれば夜のお世話が解禁されますので」


「いらん。もっと自分を大事にしろって」


「ちなみに男性とお付き合いどころか手を繋いだこともありません。そして伝統ある神社の娘です! やりましたね!」


 巫女さんは処女性というものが大切だ。巫女さんじゃなくても大切だ。そこは否定しないよ。やりましたねには同意できないけど。


「そんな人に手を出したりしないから安心してくれ。結名がいなくなったら俺はここで生きていける自信がないよ。結名だけが頼りだ」


「そうですか……では張り切ってお世話します!」


 あまり張り切られても恐縮するのでほどほどにして欲しいけどな。


「ではこれから一年間を過ごす教室へ参りましょう」


「ああ……よろしく頼むよ結名」


「はい! 一緒に頑張りましょう!」


 こうして俺の新たな生活が始まるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る