第13話 毒見

 豪奢なシャンデリアが3つ吊られているホール内で、貴族達が華やかな衣装で談笑している。壁側にはテーブルが並べられ一つのテーブルごとに違う料理が置かれ、貴族達はおのおの好きなものを取っては食べていた。


 ……豪奢な邸の内装に負けじと着飾ってるんだろうかなぁ。貴族共の衣装を見てると目がチカチカしてきたっ。隣では、


「次の料理でございます」


 とニコルは盛られた皿を掲げ、


「シーフード・パエリアでございます」


 料理の名前をホール内に聞こえるよう大声でつげ、一口食べる。


 そして僕も一緒に一口食べる。


 そして耐久値を確認する。減っていれば毒があるという事だ。出される料理の紹介も兼ねていて、安全だと確認されると、テーブルに並べられ貴族達が食べ始める。


 もう何皿目だろ……。いっぱい食べるんだな、貴族は。しかも全部美味しいなぁ……。


 もし毒に当たっても耐久値でなんとかなる、だから冒険者にこういう依頼が来るんだろうどさ……加護の耐久値をこんな事に使って良いのか?


 ダメだろ!


 次の料理が運ばれてくる。どんだけ食うんだ、こいつらは。怒りが沸いてきた。横に座っているニコルは笑顔、料理名を宣言し食べ始める。


 テーブル横に執事の爺さんが付きっきりで僕らの食事マナーをとやかく直してきたせいで、ニコルが敬語を使っていた。食事マナーも徹底され、毒見中、音を一つも出してはいけない。


 宮廷のパーティだからしょうがない。衣服も上等なのもを着せられた。ニコルもドレスを着せられ、食事マナーを守って食事している。


 窮屈だ。


 なんだマナーって。どうして貴族はこんなに窮屈に食べるんだろう。ニコルも欲が満出来て――なんだ?――これ?


 んっんんんんん……っ。


 胃に違和感がして食べるのを止める。心臓が激しく鳴り始めた。


 おかしい!?苦しい!?息が!


「うっ!」

「ん?」

「うっ!くっ苦しいっ!ああああああああああっ!」

「どしたブノワ君!」

「うぐあぁぁぁぁああっ!」


 喉を抑え椅子から崩れ落ちる。執事が慌てて駆け寄って、


「ああ!警備兵を!毒が仕込まれていた!」


 僕をのぞき込み、叫んだ。


 ニコルもしゃがみこんで、僕の顔をのぞき込んで、


「ああっブノワ君!しっかり、医者かなんかを!あの、えっと……」


 と焦っては、何もできない、どうしたら良いかと、戸惑った表情をして辺りをキョロキョロ見まわしていた。


「ぐああああっ!」


 苦しい!涙が大量に流れ出るのを感じる。よだれも垂れている、でもどうしようもできない。体が硬直して動かせない!気管が勝手に締まる!息ができない!苦しい!


「耐久値がなくなっている、そんなに即効性で強い毒だったのか」


 執事が僕の腕を引っ掴んできて、執事が腕輪で確認している。


「ロシュフォール様を狙ったか……やはり来ているのを知っていたか……」


 ロシュフォール……?


 戦慄が走る。


「毒があったのか!?」


 その時、長身の真っ白な肌の初老の貴族が駆け寄ってきた。


「ああっロシュフォール様!」


 僕の腕を投げ捨て執事は起立し、その貴族に頭を下げる。


「毒でございます、狙いは――」

「――わかっている、だから来たのだ」


 ロシュフォール!?


 涙でにじむ視界から仇の姿を見定めた。黒いコート越しの体が逆三角形になって、分厚い胸板が服をパンパンにふくらまし、他の貴族とは全く違った隆々たる体をしている。


「この者が毒に……」


 ロシュフォールは屈んで、僕に優しく触れてきた。


 何だ!?触るな!


 しか僕の体は、どんなに動かそうとしても硬直したまま動かなかった。


「危険です、お命が狙われております、かくまりますのでこちらへ」

「結構だ、私はそれほど臆病ではない」

「しかし――」

「――ケロン(回復魔法)を使えるのはこの場で私だけだろう、早くしないと手遅れになる。さすがにリクッポ(蘇生魔法)はきついからな……」

「離れていてくれ冒険者……ん?お前は……」


 ロシュフォールは、何か驚いたようにしゃがんでいたニコルの顔を見た。ニコルが驚き、怖がったてるような表情でロシュフォールを見つめる。


「おい!どかないか!」


 執事が怒鳴ってニコルを引き離した。


「……クエスタ、ノッテディルナ、エ、チェアラ、エ、スプレンデンテ、ドポラ、ピオッグィア――」


 ロシュフォールが呪文を唱え始める。


 その筋骨隆々の体から魔力湯気が発生し始めた。


 赤い魔力湯気……多くの魔力値を使ってるんだ……。


「――スペロ、チェラヌンボレ、ノン、スボラッズィーノ、ディノォボ。ケロン!」


 時空がゆがんだように、視界がぐにゃりと曲がって縮んで広がって見えだす。


「がはぁっ!ごほっごほっ、……はぁはぁ……」


 急に呼吸が楽になった。普通に呼吸できるし苦しさも跡形もなく何もなくなった。


「さすがはロシュフォール様だ!」

「新国王はここまでの実力がおありとは!」


 回りには貴族が集まってきていて、一部始終を見て皆がロシュフォールを讃えだす。


 立ち上がろうとすると、何事もなかったように、すっくと立ち上がれる。


 助けられた?


 ロシュフォールを凝視する。


「バカ者!お前を毒から魔法で救った方、隣国の領主ロシュフォール様だ!間抜け!礼を言わんか!」


 執事が怒鳴ってきた。


「……ありがとうございます……」

「そちらの冒険者の方は大丈夫みたいでしたね」


 ロシュフォールがニコルに尋ねる。


「えっ?ああっロシュフォール様、ありがとうございますっ、ブノワ君の命の恩人でございますっ」

「ははは、礼なんて」


 ロシュフォールが居心地悪そうに笑って、


「我等のために命を張る冒険者、助けていただいているのは我等の方です、何も恩などと思わないでくださいよ」


 そう僕に言ってくるロシュフォールの、透き通った青い目をじっと見つめる。


「……どういたしました?」

「……失礼、僕はブノワ・ペローと申します。新人ですが冒険者として、これから加護を多く貰えるように奮おうとおもいます。助けていただき、感謝いたします」


 僕は頭を下げた。


 ……こいつが人を助けるなんてありえない。貴族達に良いカッコがしたかったか?


 ロシュフォールを再び見る。


「こっちの冒険者にだけとは、つまり第2厨房を調べないと」


 執事が独り言を言って、


「ロシュフォール様、パーティは中止といたしましょう、こちらへ、馬車を用意いたします」

「そうか。では失礼、ペロー殿」


 ロシュフォールが執事と警備に囲まれ、貴族達の賞賛の中、去っていった。


 ……僕に気づかなかったか。ペローって名前だけじゃ、わからなかったか。気づいたら面白かったのに……。


 パーティは中止となり、僕らは帰される。邸を出たところで神託の腕輪が光った。経験値を50、取得したが、今回は、これだけではランクは上がらなかった。

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