第6話 洞窟のお化け退治

 マノン郊外北は地平線まで農地が続いている。


 北城門から出てすぐ、畑が広がり農家がぽつぽつと立っている場所に地下深くまで続く洞窟があった。


「ホントに冒険者なの、お兄さん、すげー!」

「あたち達の依頼、受けてくれてありがとー!」


 依頼者は、7歳くらいの兄とその妹。


 2人に腕輪を胸の前に出し、冒険者のポーズをとり依頼任務への忠誠を誓う。


「僕達ね、お化けを見たの!」

「そうなの!探検してたの!」


 兄妹は僕たちが来たことに興奮しているらしく、さっきから足をバタバタさせ叫び続けている。


「で、どこで見たの?」

「こっちだよ!こっち!」

「ついて来て!案内してあげちゃう!」


 松明を持って、兄妹が揃って洞窟の奥へと走っていった。


 こんな所で遊ぶなよ……まぁ魔物は駆逐されてるだろうけどさ。


「パッカ使いましょう」

「松明で良くない?」

「頼りなくないですか?相手はお化けなんですよ?光が苦手かも知れないですし」


 パンフレットを取り出し、呪文のページを見ながら右腕を上げ、


「ラルーチェ、デラルナブリラ、プラメンテスディメ、マリミオクオレ、オペルソ、エトアビボ――――」


 僕の体からうっすらと薄いもやが出てきた。


 これが魔力湯気ってやつか。体から湧き出している、すごいな。


「――パッカ!」


 伸ばした手の先から、ピカピカッと光る光の玉が現れ、回りを明るく照らした。


「さて行きましょう」


 慣れた感じで走っていく兄妹のあとを追いかけていく。


「パッカを使ったから僕の魔力値は0です」

「怖がりめ……絶対パッカの玉を消すなよふにゃちん野郎っ」

「あんたも怖いんでしょ」

「うるさいっ」

「……どんなんですかね……おばけ……」

「筋骨隆々の男の霊だったら即逃げるよっ」


 ニコルは矜持を持ったようにそう言う。頼りになるなぁその言い方、この子とパーティになって良かったなぁ。


「そうですね、何にせよ先手必勝、そうでないなら逃げましょう」

「わかってるじゃねぇか、ブノワ君」

「で、先手を取れるとして、戦う基準はどうします?女性、子ども、年寄りなら立ち向かうとして……」

「男の人ならもう引こうっ」

「背丈にもよりませんか?」

「馬鹿、相手は幽霊だぞっ」

「それもそうですね……」

「そんなことよりブノワ君、お化け相手に剣なんか通じるのかなぁ、そこが心配でたまらないんだよなぁ」

「ホラノーは効くのかな?」

「ホラノーが効いたら剣も聞くだろ。火を熱がる幽霊だぞ、それが剣に刺されても痛がらないなんて事が起こるんだよ、バカだなぁ」

「決まった。じゃあちょっとホラノーで試してみて、駄目ならすぐ逃げましょう!」


 洞窟の狭くなったり天井が低くなったりする中を、兄妹の後を追いかけていくと、


「ここだよ!」

「ここで見たんだよ!」


 兄妹が揃ってダンジョン内の広い空間を指さす。指を指す方を見ると、脚のないお化けがフワフワ浮いて、ちゃんとうろついていた。


「でたああああああっ!」

「いたああぁぁぁっ!」


 兄妹が揃って叫び、入口へダッシュで逃げ出す。


 奴は全身真っ白でまん丸のフォルム、両手をだらりと前に垂らして、空中をふわふわと浮いていた。


 やばい、性別が分からない。


 体格は、ちょっと大きめ。逃げる基準的に、どっちか微妙なところでわからない。


 腰のロングソードを抜いた。


 お化けはこっちに気づいていない。


「先手必勝、奇襲しましょう」

「よしブノワ君、打つよっ」


 ニコルが右手を掲げ、ホラノーの呪文を唱えだす。


「ボグリオ、イリフュォコ、デルディオシェロ、コンクェォロ、チェ、シ、プオポータレス、ンナ、ランガストラダ――」


 体からうっすらと薄いもやが出てきた。


 パンフ見てない。呪文を覚えてるんだ。


 ……まぁ普通覚えるもんなんだけどな、冒険者たるもの……。


「オ、ピエガルロ、ア、ブルシァルロ、ヴィア。ホラノー!」


 ニコルの右手に小指大の火の玉が現れた。


「すげーっ、火をじかに持ってんのに熱くないっ」

「マジっすかっ、僕はちょっと熱さを感じますよっ」

「よし投げるぞ!」


 ニコルは足元の土を足で払うと片足を高く上げ、大きく腰の捻りを加えオーバースローでホラノーの小玉をぶん投げた。


 猛烈な勢いで火の玉は飛んで、狙いすまされたように、お化けの顔面に衝突する。


 何というコントロール。


「どうだ?効くか!?」


 僕らは目を凝らし見つめる。


「ぎゃああああっ」


 お化けは、つんざく悲鳴を上げた。


「よしっ行きまぁす!」


 お化けに向かって突っ込む。相手はまだ顔を抑えていた。


――今の、この隙に!


「どりゃああああっ」


 モフモフするその体をひん掴み、ロングソードで何度も突き刺した。


「ぐらぁぁぁぁさぁっ」


 刺した部分から煙が吹き出す。


 効いてる!


「キシャァァァァァァ!」


 お化けが叫び声をあげ猛回転し始めた。


「ああっ!」


 遠心力で吹き飛ばされ、頭から壁に叩きつけられる。


「ああっくそっ、痛っ……くない……」


 あれ?痛くないぞなんでだ?


 あっ耐久値か!


「ダイジョブかい!?」


 ニコルが駆け寄ってきた。


「はい……耐久値のおかげで……」

「よくやった、依頼は達成だよっ」

「え?」


 お化けを見ると、体から煙を吹き出し消滅していってる。


 神託の腕輪が光った。


 50の数字が表示される。経験値だ。


 これを集めてレベルを上げて、強くなっていく。


 腕輪で加護を確認すると、


 冒険者ランク1

 耐久値: 3  加護により無効化するダメージ量。

 魔力値: 0  加護により与えられる魔法使用権利数。


 耐久値が7減ってる、これが叩きつけられたダメージ分か。


 神の力で一定のダメージを受けるまで無敵状態となれる耐性値。さっき身をもって体感した。壁に叩きつけられても痛くも痒くもない、こんなにすごいとは。冒険者となることの最大の利点だ。デーモンの強力な力を相手にも戦える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る