第7話 デーモンの手下を追跡

「ブノワ君終わったよ、レベル上がってたぜ、はやくしなよっ」

「はい」


 ニコルが神水晶から離れる。


 僕らはギルドに戻って、早速レベルを上げに来た。


 腕輪を神水晶にピトッとつけると、


 モンスター退治依頼を達成しました。

 冒険者ランクが上がりました。

 恩恵数を回復しました。


 と文字が出て、次に、


 冒険者ランク.2

 耐久値:11  加護により無効化するダメージ量

 魔力値: 2  加護により与えられる魔法使用権利数。


 依頼達成の報酬、レンス銅貨200枚。


 冒険者ランクが上がったことで恩恵数が1ずつ上がっている。報酬も表示された。受付にこの腕輪の表示を見せに行って貰ってこないと。


「ランク上げも終えたし、今日は引き上げるかっ」

「はぁ……」

「なんだい?」

「いや、宿屋どうしようと思って、探してないんですよ」


 もう日が暮れかけている。


 暗くなる前に探せるかな。


「ニコルはご両親と一緒に住んでいるんですか?」

「えっああ……まぁ、そうだよっ……って泊まるところっ。ニコルが知ってるところ紹介してあげるよっ」

「ホントですか、助かります」


 ニコルに案内されて、ギルド近くの宿屋に来た。アディ宿と、汚い看板が出ている。立地からか一階のロビーには冒険者達でいっぱいだ。


 何を話してるんだろ。やはりパーティ間を越えて交流はあるな、僕も入りたいな。


「おい、泊んのか」


 受付の、肌の全ての毛という毛がない、つるっつるのチョッキ姿のおっさんが無作法に聞いてくる。


「泊まりです」

「空いてるよ、月籠り区切りで清算だ。金のある限りずっと止まってけるぜ」

「じゃあ月籠りまで」

「前払いだ、てめぇらはいつ死ぬかわからないからな。一泊銅貨3枚、15泊分で45枚だ」


 計算早っ。街の人はさすがだな。しかし、月籠りまで10泊ちょいだ思うんだけど……。


「多くありません?」

「多めにとるんだよ、月籠りがいつかなんて正確にわからないだろうが。取った分は返すよバカだな」

「ああそう言う事ですか」

「新米か……」


 おっさんの顔が曇る。


 なんだ?新米だと嫌なのかな。


「宿帳に名前書け」


 そう言っておっさんが背を向け、奥の棚で何やらごそごそしだした。


「じゃあブノワ君、私はここで。4刻でギルドの中庭で待ち合わせだ、良いねっ」


 ニコルさんがウインクする。


「わかりました、さいなら」


 ニコルが手を振って去っていく。おっさんが振り向きこっちを見てきた。


「お前、誰かと話してないか?」


 急に神妙な顔つきで尋ねてくる。


「誰って……なんですか?」


 おっさんは僕を睨みつけるように見つめてくる。


「パーティの仲間とですが?」

「おい!そいつはどこににいる!」


 いきなりおっさんが怒鳴ってきた。


「は?今さっき帰りましたけど……」

「その見えている奴を追え!」

「へ?」

「良いからっ分けは後だ!そいつはデーモンの手下だ!」

「……えっ?」

「早くしろ!」


 気圧されて、急いで宿屋を出る。何がなんだかわからない。遠くに大通りを歩くニコルさんの後ろ姿を見つけた。声を掛けようとしたその時、


「おい見つけたか!」


 宿屋のおっさんが後を追って飛び出して聞いてくる。


「はい……でも……」

「よし後をつけるぞ、これはチャンスだ、デーモンの居場所を突き止める」

「ホントなんですか?」

「デーモンは今、人間の街を侵略している……皆気づいてないが、本当の事なんだ……信じてくれ」


 おっさんは、懇願するような眼で僕を見つめ言った。


 ……そんな……。


 とりあえず身を隠し、ニコルをつけだした。ニコルは大通りを北に、中央区へと歩いている。


「説明してください、なぜデーモンの手下だと?」

「最近、冒険者になったばかりの新人ばかり何人も失踪しているんだ」


 僕の後をついてきながらおっさんが耳打ちするような小さな声で言った。


「それならギルドが動くでしょう」

「新人が居なくなるのなんて日常茶飯事なんだとよ、それで何もしやしない」


 おっさんが怒りのこもった声が耳元で響く。


「それがデーモンの仕業となんでわかったんですか?」

「俺の宿に新人がやってくる。たまたまその中の新人が誰もいないのにしゃべっているのを見たんだ、お前のようにな。そして、そういう事をしてた新人は全員いなくなった」


 つけているニコルをよくよく見てみれば、通行人がニコルさんを避けようとしてない。ニコルが先に避けるのを繰り返している。それどころか視線が一切ニコルに向かない。


「皆には見えてないのは本当っぽいな……」


 ……そういえば、ギルドの酒場の人もニコルを紹介してなかったし……依頼の兄妹が僕にしか話しかけてなかったような……。


「きっと姿が見えない何かに襲われているんだ。姿を消せれるなんて事ができるのは、天界の奴らだけだ。そして人間を襲うのはデーモンだ」

「伝説に出てくるデーモンの仕方そのまんまですね」

「まったくだ、まさか現実に起こるなんてなっ」


 ニコルは夕焼け空の中、大通りをフラフラ歩いていたとおもったら立ち止まった。


 露店の色づいたリンゴをよだれを垂らして眺めて、やがて頭をプルプルとふり名残惜しそうに去っていった。


「おいどうした、急に隠れて」


 おっさんが何事かと尋ねてくる。


「あの果物屋の前で、物欲しそうにリンゴを眺め続けてるんです」


 しばらくして、やっと諦めがついたといった感じで歩き出した。


 通りを東へと歩きだし、やがて街並みがマノン城の城壁に変わる。


 どこへ行くんだ?


 マノンの街のど真ん中、マノン城の正門前広場に来た。巡回中の近衛兵が僕らを不審そうに見てくる。おっさんと2人、笑顔で挨拶をして不審者でないアピールをした。


 こんな所、冒険者が来るところじゃない。


 民の憩いの場に場違いな僕らは、すれ違う人達全員から避けられている。そんな中、ニコルが正門から城の中へと入っていた。


 ……どういうことだ?


 おっさんが正門前で立ち止まった僕を不審そうに見てくる。


「城の中へ入って行きましたよ……」


 小さな声でおっさんに伝えた。


「なんだって?」


 おっさんも小さく驚く。


「なぜデーモンの手下が城に……」

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