第8話 ソフィ・ティエル姫

 マノン城の左塔は、本城から離れたところに1つぽつんと立っている。


 監視塔の役目だったのが、本城建て替えの際にもっと見渡せる塔を建てたので、いらなくなったのをソフィ姫がわがまま言って自分のものにした。


「どうしましたのチビ?」


 塔の最上階、部屋に戻ってきたニコルの表情が明るいのを見て、ソフィは尋ねた。


 金色という珍しい髪色をショートカットにしている。


 ソフィ姫は天井から吊り下げられたサンドバックを殴り続けていたが、


「新人の冒険者とパーティを組むことに成功たのさっ」


 と、ニコルがにっこりと微笑むのに、


「それは良かったっ」


 顔がパッと明るくなった。


「次は正体がバレないよう注意なさいよ、めんどくさい事になるから」


 心配そうに、確かめる。


「わってるよっ。ソフィもだよっ」

「私も協力しますわ」

「もちっ、仲間は多い方が言いに決まってるっしょっ」

「いつもチビにやらせてたわ……だから時間がかかったのよね……」

「城の抜け方もわかったんだよねっ」

「警備は甘いわ。攻め落とされても本城の城壁あるし、私も逃げだせるこの塔を守る理由がないからね。警備の1日2回の交代時を狙えるっ」

「よし、そん時行くぞっ」


 ソフィはニコルに抱き締める。


「中庭で何か光ったおもったら、片膝着いた素っ裸のチビがいた時はびっくりしたわ……」

「まさか人間界に来ると服がなくなんて、わははははっ」

「うっかり殺さなくて良かった」

「ソフィ、最後に聞くけど……」


 ニコルは真剣な目つきになった。


「ホントにいいんだよね、王族だし、もしもの事があったら、いや、一応――」

「――良いの、私は姫として、姫だからこそしなくてはならないの……ねぇロシュフォール殿の告白を受けた時からの覚悟よ」

「もちろん、結婚までもうちょっとだよ、そこも懸念なんだよなぁ」

「そう……今が、最後のチャンスなの。きっとスベガミ神がくれたものなのよ」

「違う!やめてよっ。スベガミなんて奴の名前だすのっ」


 ニコルが渋いものを食べた顔になる。


「ああ、ごめんなさい、チビとは敵同士だったわね」

「もう、何度も言ってるでしょ」

「ごめんごめん、でもしつこいわよ、その話しはもう禁止よ」


 ソフィがニコルを放す。


「チビのレベルは1ですわよね?」

「今日、2になったよっ」

「仲間になったって方はどんな方なの?」

「仲間になったのはブノワ・ペローって言うんだ」

「男の人?どんな人なの?」

「20後半くらいだね、ブノワ君もニコルと同じレベルで、でもね、頼りになるよ、魔物に慣れてる、なんかやってたね、ありゃ」

「明日も行くのよね?」

「もちっ、4刻にギルドで待ち合わせっじゃソフィ、ちゃんと起こしてよねっ」

「はいはい、じゃあ今すぐ、しっかり寝なさい」

「うっす。寝まっす、今日は疲れました。久々に魔法使ったのでっ」


 ニコルはもふもふのベットに飛び込む。


 横になった瞬間に鼻提灯を膨らませ寝だした。


 ……明日の4刻ね……。


 なんか緊張してきたっ。ああっ!しっかりしなさいっ。明日に備えて身支度よっ。


 ソフィ姫がドレスルームに入って、レイピアを取り出す。


 ロシュフォール様から貰ったレイピア……えっと名前は……んとね……なんとか、かんとかいうやつよ。ねだったかいがあったわ。


 刀身が背丈の半分を超える長大な両刃のレイピアを、ソフィ姫は慣れた手つきで構え、突きを繰り出した。


 私、やり遂げて見せるっ。


 右に薙ぎ払い、断ち切り、刺突、とレイピアを振るう。


 ロシュフォール殿……。


 ソフィ姫の心に迷いはない。


 ただ自尊心を失わない様にと、律していた。


 ソフィの心は締め付けられ、同時に燃えている。

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