第9話 アリス・ド・アディ
宿屋に戻ると、おっさんが自室に呼んできた。
おっさんの部屋はテーブルや棚が一列に並んで配置してあって、部屋の真ん中で仕切り、向こうでは奥さんだろうか、おばさんが椅子に腰かけ手編み物をしている。
「これからどうするべきか……」
おっさんがため息交じりに呟く。
「もちろんデーモンを倒すんですよ!」
「それをどうやってと言ってんだ、たくっ」
「相手は城に入り込んでいるんですよ!一刻を争います!」
「誰も信じないよ、デーモンが城に入り込んでるなんて事なんて……」
おっさんが俯いて、呟くように言ってきた。
「ありえないからですか?実際に城にはいっていったんですよ、やっぱりそうなんだっデーモンはここまで侵攻しているのかっ」
ロシュフォールもデーモンなんだ。絶対そうだ。やはり冒険者になってよかった。
「……不都合すぎる」
「えっ?不都合?」
「実際そんな事があればこの街は終わりだ。王族にデーモンがいるなんて。そんな事はあってほしくないと、そう皆が思うだろう。皆があってほしくないと思う事を言ってみろ、俺たちは牢屋にぶち込まれるだけだ。決定的証拠もないからギルドも動かない」
「そうですよ、決定的証拠だ!それさえ手に入れれば良い!」
「どうやってだよ」
「……デーモンは僕を食べる気なんですかね?それで接触してきた……」
「そうだろうな」
「よしっ返り討ちにします!」
こぶしを握り締め言い放つ。
「新人のくせに何言ってんだ」
「レベルを上げれば良い……ちょっと待って、どうしてデーモンの手下なのにギルドに登録できるんだ?」
そういや気づかなかった。
「ははははっ、できたんだろうね、お笑いだぜ、まったく」
おっさんはやけになったように、
「スベガミ神が人間にこの世界を探検、開拓するのにせっかく加護をくれたってのに、デーモンが理由してるとはなっ、はははっ」
まぁデーモンが人間界に来るのは想定外か……。
「新人ばかり狙ってるって事は……弱いのかもしれない……実際あのデーモンの手下も弱そうでしたし」
「……どうだかな……」
おっさんは眉間にしわを寄せる。
やがて、
「……よし!」
おっさんはおもむろに服を脱ぎ始める。
ズボンのベルトを外すと、たるんだ腹がぽこんっと出てきた。
「ふっー、苦しかったぜ」
「……何やってんですか?」
「今からお前に、真の俺を見せてやる」
とズボンを脱ぎ始める。
「何で見せる!」
「うるせぇな!良いから後ろのホック外せ!」
おっさんが後ろを向いた。
「ホック?」
「首の所だ、早くしろっ」
訝しんで見ると、たしかに、言われたところに金具がある。
なんだこれ?皮膚にめり込んでる……。
まさかこれはっ!!
「……これ……ですよね?」
恐る恐る指先でさわりながら尋ねる。
「そうだ」
「いきますよっ」
恐る恐るホックを外すとおっさんの首が勢いよく裂けた。
やっぱり中に人がいる!
「すまないな」
「えっ?」
今の声なんだ?すごく可愛い声……。
着包みの中からした。
おっさんがもぞもぞすると、外したホックの穴から細くて白い手がにょきっと出てくる。次に長い髪を束ねた頭が出てくる。続いて大きな胸がボンボンッと出てきた。
女の子……?
窮屈そうに、丈の短いズボンで露わになっている真っ白な太ももにぐっと力を入れ、脱皮するように脱ぎ終える。
かけた大きなメガネがずれたのを直し、
「ということで、これは着包みだ」
丁寧に畳みながら、
「改めて、私はアリス、このアディ宿の長女だ」
と可愛い声で僕に挨拶をする。
「着包み……初めて見ました……びっくりしたぁ。女の子なのにも、びっくりです……」
「そうだな、良く言われるよ」
女の子は可愛い声で、おっさんの時と同じ口調で言ってくる。違和感がすごい。
「……そのスキルを持ってるんですか……」
「いや持ってねぇよ、パパが持ってた着包み作りスキルで作った、遺品だ」
「亡くなってるんなら、スキルのクリスタルの継承権があるはずじゃ」
「……それがな、ギルドによる処刑だからクリスタルごとあの世に行ったよ」
「何やったんですか?」
しまった。こんなこと聞くべきじゃない、つい言ってしまった。
「ふんっ、10才の女の子に手を出したのさ、あのロリコン」
「……、……浮気ですか?」
「そうだ、恋愛に年齢が関係ないように、妻を持ったとしても自由に恋愛させてくれとか、訳の分からない事を言って3年前に処刑された」
「ああ、そうなんですか……」
そうだ、この国は浮気とかは死刑になる国だった。お父さんの意見に賛成とか、言いそうになってしまった……。
「それで、何で脱いだんですか?」
「俺がお前と一緒に戦う」
「へ?」
「お前のパーティに俺も入り、お前のランクを上げるのを手伝うのさ。それでお前ひとりで戦えるようにならせてやる」
こぶしを握り締め言い放ってきた。
「明日に冒険者登録するから、よろしくな!」
「よろしく、アリスさん。僕はブノワ・ペローです」
「はははっ、田舎者丸出しだな」
「ん、何でですか」
「名字まで言うなんて、貴族かでめぇはっ」
「ああ……そうなの……?」
たしかに、ティエル国はたしかそんな風習あったな……王族が領主の国だからな。
「アリスで良い、さんとかつけるのやめろ、仲間だろっ」
僕を見つめ、胸をドンと叩いて言ってきた。
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