第19話 天使の使命

「酷いっ酷いよ、ブノワ君っデーモンなんてっそんなわけないじゃないかっ」

「いったいなぜ天使が人間界に来たんですか?」

「話をそらすんじゃないよっ。ニコルにあんなマネしといて。ホントなら天罰で死んでるんだよ君はっ」

「すいません……」


 ニコルはずっとふくれ顔だ。僕はずっと正座状態だ。


 とりあえず正座しニコルに頭を下げるも、全然許してくれはしなかった。


 当たり前か……でも怪我も治ったんだし良いじゃないかなぁ。


 回復値が、冒険者に与えられるものをはるかに凌駕する値をもっている天使たちは、怪我なんて瞬時に治癒することができるらしい。


 そうだったから良かったもののっ、とニコルは、でも痛みは感じんだからっ、と怒り続けた。

 

「いきなり突き刺すかねっ、普通っ」

「隙があったんで、先手必勝だと思いまして……」

「なにが必勝だよっ」

「いえでも、天使が人間界にってのもそれはそれでありえない出来事です、一体なんでなんですか?」


 僕はもう一度、話を遮って質問した。


「……ったく……それはね、アマレナ様よりデーモンを討伐するという使命を与えられて、使わされたんだよニコルはっ」

「使命?」

「そうっ。3年前デーモン一匹を、堕天使が協力して天界から人間界に移動してしまったのさ」

「堕天使?」

「堕天使が着包みのスキルを宿したクリスタルをどっかで手に入れてね。それをデーモンに使わせてクリスタルを進化させる気なのさ」


 クリスタルは堕天使たちにとって、使うことはできても力を溜めれない……それでデーモンに使わして……ということか。


「そのデーモンはどこに?」

「隣国の領主、ロシュフォールだって事は判明してる。本物は殺されて食べられてる」

「……そうなんだ。やっぱりそうなんだ。ロシュフォールはデーモンだったんだ!」

「ど、どした?」

「父さんは、食われたんだっ、デーモンにっ。ロシュフォールにっ!」

「父さん?」

「そうです、1か月ほど前です。僕の父が重税に耐えかねて領主の元へ直訴しに行き、死体になって帰ってきました。それも八つ裂きにされた……それで僕は復讐を誓って村から飛び出したんです……」

「そうだったのか……」

「昨日、会ったと時は驚きました……」

「ニコルもびっくりしちゃった。天使ってバレて殺されないかとビクビクだったよ」


 そう言えば、なぜだ?


「……僕……助けられました……」

「演技だぞ、騙されるなよ」

「……そうですよね……分かってます、相手はデーモンですからね」


 ただ、なんだろ……この違和感……。


「人間界に追いかけてきて、ロシュフォールが怪しいと睨んだのは、腹ペコで食べ物を盗みに忍び込んだ王宮で、ソフィに出会ったからなんだ」


 ニコルが話を続ける。


「黙ってたけど、ソフィはこの国のお姫様なんだよ……」

「え?……そんなバカな……」


 いや、待てよ。さっき掲示板に出てた名前……名字がティエルだったような……それどころじゃないとスルーしてたが……。


「ソフィはデーモンから求婚を受けてた。ある日、デーモンはソフィに姿を見せたんだって。自分はロシュフォールの姿をしているが本当はデーモンなんだって言って、着包みを脱いで本当の自分の姿をね」

「……意味が分からない、何で言ったんですか?」


 ニコルさんも首をひねり、


「さぁ、何か理由があるんだけど、何なんなのかはニコルもわかんない、用心しといた方が良いね。そしてそれで、結婚に乗り気だったソフィは混乱してしまった」

「そりゃそうでしょうね、デーモンなんかに求婚されては」

「正義感の高いのも見て分かったから、ニコルはソフィに討伐の手助けを求めたんだ」

「お姫様に助けを?」

「好意を寄せてる相手なら隙を見てポーンっとできると踏んだのさ」


 妙案だろっと、鼻を高くして言ってくる。


「だからソフィにはそのまま結婚を承諾したふりをさせてたのさ……」


 と思ったら急に意気消沈した。


「どうしました?」

「きっと演技してるのがばれたんだ、だからソフィは殺されたんだ……」

「……そんな簡単にポーンはできませんよ」

「デーモンと言えど、私達と違って耐久値もない生き物だよっ、首をポーンと跳ねれば一発さっ。でもあのロシュフォールは……」

「ロシュフォールは?」

「隙なんてない、相当強いのをマリーは連れて来たね」

「マリー?」

「堕天使の名前、私と同期だったんだ」


 ニコルは続けて、


「それで婚約までちょっと時間もあるし、ギルドで恩恵をもらって、私らの命を失っても必ずデーモンを討伐しようって誓ったんだ」

「……そうだったんですか……」

「あと、仲間集めね。ブノワ君にもあらたまって話すつもりだったんだよ。私の使命達成に協力してほしいってね」

「それじゃ、どうして姿を隠してたんですか?」


 それでこっちはデーモンの手下だと疑う羽目になってたんだ。


「マリーに私の存在を知られたくなかったからさ。奴らならニコルが人間じゃないのなんてわかっちゃうからね」

「昨日、ロシュフォールと会いましたよね」

「デーモンや魔物にはわからないよっ、私を誰だと思ってんの、天使だぜっ」


 ニコルが自慢げに胸を叩く。


「まぁあん時、隙を見てやっちゃても良かったんだけど、ブノワ君が助けられてたからね」


 それにしてはビクビクして、青くなって離さなくなったような……まぁいいや、言うとめんどくさいから黙っとこ。


「でもソフィがやられちゃった……一体どこで知られたんだろう、愛してるなんて言っといて、やっぱりデーモンなんだっロシュフォールはっ」

「悔やんでる場合じゃありません。アリスがまだ無事なんです。急がないとっ」

「そ、そうだね。急いで助けに行こう」


 ニコルが手を差し伸べる。ぎゅっと握り僕は立ち上がった。


「アリス達の行ったパーティにロシュフォールがいたんでしょうか?」

「だとおもう……」

「……対決になるかもしれないんですね」


 急にニコルが抱きしめてきた。


「どうする?今戦っても……」

「アリスを助けるためには、覚悟を決めてます。それに戦わずに済むように行動しますよ」

「……ごめん……デーモンの力は昨日見た通り、強大だ。でも相手は生身の体なんだ」

「僕達のように神の力で守られてませんからね」

「もし対峙したら奴の隙を狙うしかないっ」

「構いません、道連れにしても殺します」


 僕は抱き着いてるニコルを見つめた。


「僕らにスベガミ神のお導きを」


 そして祈りの言葉を口にすると、


「スベガミの導きとかやめてよっ。ニコルの主神はアマレナ様!」

「ああっ……そうだったね。裏切られたんだっけ」

「そうっ、考えてよねっ名前出すのも禁止!」

「すいません……」

「まったくっ、ほら行くぞ、祈りなんていらない、天使が直々に協力するって言ってんだからっ」

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