第20話 ベテラン

 ブノワとニコルがまだゴブリン退治をしていた頃……。


 アリスとソフィが警備に来ていたホテルでは、第3ホールにたくさんのテーブルとソファのセットが屏風では切られ並べられて、各テーブルにはピンク色のフリフリがいっぱいついたミニスカート姿の女性が、貴族達に酒をふるまいながら談笑している。


 アリスは手慣れた手つきで、ハンカチを取り出しコースターにし、上に置いたコップいっぱいに氷を入れていた。


 マドラーでかき混ぜ、隙間ができたら氷を追加し、


「なみなみ注いでくれ」


 でっぷり太った中年の貴族が、ほろ酔いの声でアリスに言う。


「かしこまりました」


 アリスは、笑顔で返事するとなみなみ注いでいった。


 そしてコップについた水滴をコースーターにしていたハンカチで拭き、貴族に差し出すと、


――あっ貴族様が汗をおかきにっ。


 気づいたアリスは、


「お願いします」


 手を上げ、両手で捻じるジェスチャーをして、おしぼりを求めた。


 メイド服を着たソフィがおしぼりを、ゆっくり持ってくる。


 この子、新人ね。さっきから動きが鈍いわ、まったく……。


 おしぼりを受け取ると、アリスは貴族へと差し出した。


 ソフィは首をひねり、去っていく。


「ぐへへ、アリスちゃんはおっぱい大きいねぇ」


 おしぼりで首を拭いている貴族の手が、アリスの大きく開かれた胸へと延びた。


「もうダメですよっ」


 さっと膝を貴族の方に向け座り距離を取る。


「良いじゃないのっ」


 なおも触ろうとする手を取り、


「だめですよぉ」


 自分の膝の上に置いた。


 困ったわ……これだから教養のないおっさんは……。


「ぐふふふ、そんなこと言わずにさぁ」

「ダメだってばぁ」


 ぎゅっと手を握ったままにして、肉で丸々膨らんだ手を抑える。


「むほほほほほほ」

「うふふ」


 まったくもって教養は身につけておくべきね。教養がないと冗談のレパートリーが、セクハラとパワハラと下ネタだけになる。ホントに嫌。


 はぁ……ロシュフォール様みたいなステキなおじさまはいないかしら……。


「アリスさん、お願いします」


 ボーイに呼ばれ、アリスは、


「呼ばれちゃった。でも、ここに居て良いですかぁ」

「んー……」


 貴族が俯き苦い顔をして悩みだす。と、


「良いよ、ずっといなよぅ」


 パッと笑顔でアリスに言った。


「ありがとうございまーす」


 めんどくせー。そう思いながらも、アリスは満面の笑みを作り、


「お願いしまーす」


 笑顔でボーイに場内指名の合図を出した。


 その様子を、ソフィは物陰から首だけ出して見る。


 アリスの様子がおかしいわ……あんなこと……それとも庶民の方は、皆できるのかな?


 ソフィは考え込む。


 いえ、そんな事よりも。パーティと言われてきたけど、なにこれ?パーティじゃない。男性しかいないし。女性ばかりに、あんな恰好させて密着さして接待させて、こんなにお酒を飲むなんて。


 一体、ラギスールとかいうお方は何を考えているのでしょう!貴族にあるまじき行為っ!こんなことだから庶民から反発を受けるのだわっ!


「ソフィちゃん、なにサボってんの!」

「きゃっ、びっくりしたっ」

「早く厨房を手伝ってきなさい!」

「はいっ、かしこまりましたっ」


 さっきからずっと働かされているだけ……警備なんかしてない……。


 あーあ、乱暴者をぶった切れるとおもったのになぁ。


 ……よし。やめたやめ。


 ラギスールを調べて来よう。王族として、貴族のこんな事態をほおっておくわけにはいかないわ!きっと他にも悪さをしてるに違いない、暇だし全部暴いてやる!


 という事で、


 ここを抜け出して、ラギスールの部屋に侵入よ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る