第13話

「きゃー!!かわいい!!この子どうしたの!」


レンが吾輩を強く抱きしめながら言う。

く、苦しいのである!!背骨が折れるのである!!


「おっ、おい、レン。そんなことしたらクロマルが……」


「お友達が欲しいの?いいよ、私がなってあげる!わたしはレンっていうの。あなたクロマルっていうのね。かわいい名前!触り心地もとってもいい!あなたはなんていう……ゴホッゴホッ」


リンは畳み掛けるようにしゃべっていたかと思うと、突然せき込んだ。

吾輩はリンがせき込むのと同時に解放された。危うく死ぬところであった。


「ほらほら、そんなに興奮するんじゃない」


ランドはそう言って、近くにあった水差しからコップに少し色のついた水を注ぐ。

そして、その水の入ったコップをリンに差し出す。


「ほら、ゆっくり飲みなさい」


コップを渡されたリンはそれをゆっくりと飲む。

あの飲み物は何であろうか?ジュースのようなものであろうか?


吾輩が興味深そうにその水差しを眺めているのに、ランドが気付く。


「なんだ?のどが乾いたのか?」


のどが渇いたわけではなかったが、肯定のニャーをする。


「しょうがないな。少しだけだぞ」


そう言ってランドは片手を器のようにし、そこに水差しからそれを少しだけ注ぐ。

そしてその手を吾輩の目の前に差し出した。

吾輩は少しの期待を胸にそれを飲む。


ただの水であった。いや、どこかで嗅いだ匂いのする水だった。

なんだこれは?うまくもなんともないである。

吾輩はがっかりした眼差しでランドを見つめる。


「ははっ、うまいもんだと思ったのか。ポーションを薄めただけの水だよ」


ポーション?回復草から作る薬だったな。

道理で嗅いだことがあるはずである。


「ごめんなさい。落ち着いたわ」


コップの水を飲みほしたリンが吾輩たちにそう言った。


「ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃった」

「あぁ、ちょっと驚いてしまった。リンにそんな一面があったとは」

「クロマルちゃんがあまりにも可愛すぎて……」

「そ、そうか。まあ、落ち着いたのであればそれでいい」


吾輩は全然よくないのであるがな!

本気で命の危険を感じたのであるぞ!!


吾輩が抗議をしようとすると、誰かが階段を上がってくる音が聞こえた。



「あなた、リン、それとクロマルちゃん。ご飯の準備ができたわよ」

「あっ、お母さん」

「なんだが騒がしかったわね。どうかしたの?」

「なんでもない。では、下に降りるか」


そう言って、ランドはさっさと下に降りていく。

リンはそばにあった上着を羽織るとのろのろとベッドから降りる。

そして、ゆっくりと部屋を出ていこうとする。


手伝わなくて大丈夫なのであろうか?

ランドであれば、リンを背負って階段を降りそうなものだが。

吾輩はリンが部屋を出ていく様子ををじっと眺める。

すると、リンが吾輩の様子に気づく。


「どうしたの、クロマルちゃん?ご飯食べないの?」


吾輩は階段の方をじっと眺める。


「あぁ、クロマルちゃん、もしかして階段降りられないの?」


そんなことはないのである。むしろ階段を下りるのは得意である。


「おとーさん。クロマルちゃん、下に下ろしてあげて!」


リンが階段の下に向かって、大声を出す。

ランドが階段を上ってくる。


「なんだ、クロマル。お前、階段降りられなかったのか?」


ランドの問いに吾輩は首を横に振る。


「だったら、どうしたんだ……?あぁ、リンのことか」

「わたしのこと?」

「リンが階段を下りられるのか不安だったんだろう」


吾輩は首を縦に振る。


「リンの病気は身体的なものではなく、魔力的なものなんだよ。だから、逆に体はある程度動かしておいた方がいい。だから、家での活動は基本的に自分で全部やらせるようにしているんだ」


なるほど、そうだったのであるな。

道理で娘が大好きなランドにしては、らしくない行動するなと思ったのである。


「ふふっ」

「どうしたんだ、リン

「クロマルちゃんって、優しんだなって思って。ありがとね、クロマルちゃん」


吾輩は顔を見られないように、全速力で階段を下りていった。




ランドたち3人がテーブルに座り、昼食が始まった。

吾輩はランドのイスの近くで食事をしていた。

吾輩のメニューはなんと2皿もあった。

吾輩が何が食べれれるか分からないから、奥方は2種類用意してくれたのである。

実に気が利くのである。ランドの嫁にしておくにはもったいないであるな!


1つ目は野菜を使ったスープである。

村でのスープと違って、たくさんの野菜が入ったスープである。


2つ目は焼いた肉を吾輩が食べやすいようにほぐしたものである。

ティムにもらった干し肉とは違い、とても柔らかそうであった。


まず、吾輩は2つ目の肉から食らいついていく。

……うまいのである!触感は鶏肉に近く、味付けも食材本来のうまさを生かすものになっている。火は通しているが、決してパサついているわけではない。ほんの少しだけ生の感じが残っていて、吾輩好みの火の通し具合である。さらに吾輩の口の大きさに合わせ、きちんとほぐしてある。そのため、次々と口に入っていくのである。また、少し冷ましてあるので、非常に食べやすくなっているのである。とにかくうまいのである!


吾輩は肉が入った皿をあっという間に食べつくす。


「なんだ、なんだ。すごい勢いだな。そんなに腹が減っていたのか」

「クロマルちゃんはお肉が好きなんだね」

「あら、じゃあご飯はお肉中心の方がいいのかしら?」


吾輩は続いて2つ目の皿に取り掛かる。

しかし、その皿の野菜を食べようとする吾輩の鼻が嫌なにおいを感じ取る。

これは……ネギである!

正確にネギかはわからないが、間違いなくその仲間である。

そうだと吾輩の鼻が言っているのである。


以前吾輩は酔った黒い服を着た男に牛丼と呼ばれるものをもらったことがある。

それ自体は味が少し濃かったが、うまかった。

しかし、数日後に吾輩は体に全然力が入らなくなった。

その数日後には元に戻ったが、原因はネギだと分かった。

近所のおばさんが「ネコにネギは駄目よ」と言っていたからである。


吾輩は野菜スープに入ったネギらしきものをくわえ、空になったさらに移す。

それをスープの中のネギがなくなるまで繰り返す。


「あら、クロマルちゃん。どうしたの?」

「なんだ、クロマル。お前、ギーネが食べられないのか?リンみたいだな」

「お父さん!私はギーネは食べれるよ」


これはギーネと言うのか。覚えておこう。

そのあと、吾輩はギーネを取り除いた野菜スープをすべて飲み終える。

まあまあであるな。ネギの匂いが少し気になるのである。


ふう、うまかったであるな。

奥方の腕は素晴らしいし、気配りも見事であった。

決めたのである。ここをしばらくわが宿にすると!


おっと、とりあえず奥方に食事の礼をしておくか。

そう思い、吾輩は奥方の席の近くにいき、感謝のニャーをする。


「あら、どうしたの?もしかして足りなかった」

「あんだけ食って足りないことはないだろう。礼でも言っているんじゃないか」


吾輩はランドの言葉にうなずく。


「そうなの?賢いのね。お口には合ったかしら?」


吾輩はその言葉にうなずく。


「よかったわ。お粗末様でした」


お見事であったぞ、奥方!



リンが食べ終わり、食事の時間は終わった。


「よし、腹も満たされたし、冒険者ギルドに行ってくるか!」

「もう少し休んでいったら?」

「簡単な仕事だったら、この時間からでもできそうだ。ちょっと顔を出してくる」


ギルドであるか。マンガなどでよく出てくるところであるな。

面白そうであるな。

吾輩は出かける準備をしているランドをじーっと見つめる。

鎧のようなものを身に着け、背中に剣を背負う。

準備が終わったランドはそんな見つめる吾輩に気づく。


「クロマル、お前も行くか?」


吾輩はランドの言葉にうなづく。


「よし、じゃあ一緒に行くか!」


すると、ランドは吾輩を来るときに入っていたカバンに入れる。


「じゃあ、行ってくるぞ。夜には戻る」

「あなた、行ってらっしゃい。クロマルちゃんも」

「クロマルちゃん、行ってらっしゃい!ついでにお父さんも」


ランドは家を出ると、突然、カバンに入った吾輩の頭を小突く。

なんでであるか!なんでで吾輩は殴られたのであるか!


「よし、じゃあ行くぞ」


納得がいかないである。説明を要求するである!

ランドは抗議する吾輩を無視して、冒険者ギルドに向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る