第16話

「クロマルに手紙?」

「はい。それでどうすればいいのかと」

「どうすればって?」

「そもそもクロマルちゃんって手紙読めるんですか?」

「おぉ、それもそうだな。どうなんだ、クロマル」


ランドは吾輩に話を振ってくる。

吾輩はランドのカバンから机の上に飛び出す。

そして、その問いかけに対して自信満々にうなずく。


「ほんとですか!すごいですね!」

「お前、何者なんだよ。クロマル」


吾輩が何者かって?

それはもちろん、天才猫クロマルである!!


「では、この手紙は一人で読みますか?」


読まれて困ることはないであろうが、念のためまず一人で読むべきであろう。

吾輩はティムに手紙を机に置くように指示するため、机をぺしぺしする。


「ここに置けばいいのですか?」

そう言ってティムは机の上に手紙を置く。


吾輩はその手紙を口にくわえて、少し離れた場所に移動する。

そして、前足で何とか手紙を広げ、内容を確認する

そこにはとても短い文が書かれてあった。



クロマルへ


おぬしがいないとランドの娘さんは『学院』に入学できんからな。

おぬしもちゃんと一緒に『学院』に行くんじゃぞ。


長老



……?

どういう意味であろうか?

全く意味が分からず、吾輩は困り果てる。


「クロマル、なんて書いてあったんだ?」

「ランドさん、私たちが知っていい内容かわかりませんよ」


ランドたちであれば、この意味が分かるのであろうか?

その手紙を口にくわえ、ランドたちのところに戻る。

そして、ランドたちの目の前にその手紙を落とす。


「ずいぶん器用ですね」

「オレたちが読んでもいいのか?どれどれ……」


ランドとティムが手紙を読み、お互いに顔を合わせる。


「どういう意味か分かるか、ティム」

「…………もしかしたらですが」


おお、ティムはこの意味が分かるのか、さすがであるな!


「どういう意味だ?」

「実は『学院』の紹介状は貴重であるがゆえに、盗まれることがあるそうです」

「なんだと!」

「はい。盗んだ紹介状を売って、金にする奴らがいると聞いたことがあります」

「なるほど。確かに欲しい奴はたくさんいるだろうからな」

「ですので、盗品が使えないように入学の際に本人確認をするそうです」


本人確認とはどうするのであろうか?

たしか、前の世界の人間は自分の顔が描いてあるカードを使っていたのである。


「本人確認ってどうやって?」

「紹介状の中に紹介者の特徴などを書いておき、それと照らし合わせるようです」

「ちょっと待て!長老はリンと会ったことがないぞ!」

「ですので、長老は代わりに別の大きな特徴を書いたのではないでしょうか?」

「そりゃあ、もしかして……」


なんだか嫌な予感がするのである。


「『人間の言葉を理解する不思議な魔物と一緒にいる少女』と」


吾輩とランドとティムは2人と1匹で顔を見合わせる。

もしかして、吾輩といることがリンの本人確認の方法なのであるか?


「あくまで予想です。リンさんの特徴としてはあの症状もありますから」

「だが、あの症状がどれぐらい珍しいものなのか正直オレにはわからねぇ」

「わたしもここでは珍しいとは思いますが、他の都市でどうかは……」


もちろん、吾輩にもリンの症状がこの世界で珍しいかはわからない。

だが、吾輩については長老は『初めて見た』と言っていたからな。

そして、今のところ会った人間たちは誰も『猫』を知らないのである。


「まあ、とにかくリンとクロマルが一緒に『学院』に行けばいいんだろう」

「そうですね。長老がそう書いていますので、それが確実でしょう」

「じゃあクロマル。2~3年後ぐらいになると思うけど、よろしくな!」


……なんでこんなことにになったのであろうか?




長老の手紙を読んだ後、ランドは再び吾輩をカバンに入れ、店を出た。

吾輩はその間、ただひたすらに考えていた。


2~3年もこの町にいるつもりはないのである。

そもそも色々なところに行きたいから、あの村を出たのであるからな!

しかし、リンが『学院』に入れないのは、困るのである。

リンの命に関わるかもしれぬからな。


2~3年いなければいけないのは、金が足りないからである。

つまり、手っ取り早く大金が稼げれば一番いいのだが……

しかし、吾輩はお金なんぞ持っていないからな。

吾輩がカバンの中で悩んでいると、気付かぬうちにランドの家についていた。


「おう、戻ったぜ。いい知らせがあるぞ!」

「あら、あなた。ずいぶんと上機嫌ね」

「それもそうさ!アニス、これを見てくれ!」

「これってもしかして!」

「そうだ!『学院』の紹介状だ。村の長老が書いてくれたんだよ!」

「ほんとに!すごいじゃない」


ランドとアニスは満面の笑みで喜びを分かち合っていた。


「おっと、リンにも教えてやらないとな」


そう言って、カバンに吾輩を入れたまま、ランドは駆け上っていく。

そして、その勢いでリンの部屋の扉を開ける。


「リン!いい知らせがあるぞ!」

「きゃあ!お父さん、部屋を入るときはノックをしてよ!」


当然の主張である。ランドは浮かれすぎているな。

まあ、念願のものが手に入ったのだ。仕方がないであろう。


「悪い、悪い。おっ、またその本を読んでいたのか?」

「だって、他にやることがないんだもん」


リンの手元を見ると分厚い本があった。

何の本であろうか?

気になった吾輩はカバンから飛び出て、リンのところに向かう。


「あっ、クロマルちゃんもお帰りなさい。どうしたの?」

「その本に興味があるんじゃないか?クロマル、字も読めるみたいだからな」

「えっ、クロマルちゃん、字も読めるの?すごいね!」


その本はだいぶボロボロな本だった。

題名には『子どもでもわかる、魔法基礎!~入門編~』と書いてあった。

魔法に関する本であるか!面白そうである。


「前に依頼で魔法都市に行ったときに買ってきたんだよ」

「結構、値段が高かったって言ってたね」

「そんなボロボロなのにな」

「これを読んでも魔法が使えるわけじゃないのにね」

「ああ、ただ『学院』は入ったときの準備はしておいた方がいいと思ってな」

「でも、紹介状がないと結局『学院』には入れないけどね」


リンはぎこちない笑顔をしてそう言った。

やはり、紹介状を手に入れるのは簡単ではないのであるな。


「そう、その通りだ!この紹介状がなければな!」


ランドは持っていた紹介状を天高く掲げる。

さすがにテンションが高すぎではないだろうか?


「えっ!紹介状!なんでお父さん、紹介状を持ってるの!」

「クルーツ村の長老が『学院』の卒業生でな。紹介状を書いてくれたんだ!」

「わたし、そんなの聞いてない!」

「駄目だったときに、がっかりさせたくなくてな。黙っていたんだよ」


リンはその言葉を聞いて、涙を流していた。

そんなリンをランドは無言で抱きしめた。



……勝手に出ていくのは、絶対に無理であろうな。

この世界には宝くじなるものはないのであろうか?

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