第17話

その後、奥方が呼びに来て、夕食をみんなで食べた。

ただ吾輩はいろいろと考えこんでいて、あまり味を覚えていないのであった。

奥方に申し訳ないことをしたのである。

そして、いろいろ考えた結果、1つの答えを出した。


明日考えよう!と。


吾輩は決して考えるのをあきらめたわけではないのである。

要は情報が足りないのである。

吾輩はこの町について、ほとんど知らないのである。

もしかしたら、この町にお宝が隠されているかもしれないのである。

だからこそ、明日この町を探検してから作戦を練るべきであると。


明日の吾輩にすべてを任せた今日の吾輩は、リンのところに向かう。

なぜなら、リンの持っていた魔法の本が気になったからである。

あれを読めば、もしかしたら吾輩も魔法が使えるかもしれぬ。


しかし、そんな吾輩の行く手を阻むものがあった。

リンの部屋の前の扉である。


吾輩は何とか開けようと試みるが、なかなかうまくいかない。

仕方がないので、リンに気づいてもらうため、ドアをカリカリする。

すると、吾輩の背後から声がかかった


「クロマルちゃん、どうしたの?リンに何か用事?」


奥方!ちょうどよかったのである。

吾輩の目的を察した奥方は部屋をノックし、リンに声をかけてくれた。


「リン!クロマルちゃんが入りたいみたいだけど、入れていい?」

「クロマルちゃん?いいよー」


奥方がトビラを開けてくれたので、吾輩はリンの部屋に入ることができた。

そして吾輩はリンの部屋をきょろきょろと見回し、先ほどの本を探す。


「どうしたの?何か探しているの」


不思議な行動をしている吾輩を見て、リンが声をかけてきた。

吾輩は肯定のニャーを発する。


「あっ、もしかしてこれかな?」


そう言ってリンは吾輩に先ほどの本を見せる。


それである!

吾輩はリンのところに向かって歩いていき、そのままベッドに乗る。


「クロマルちゃん、魔法に興味があるんだね」


吾輩はリンの問いかけにうなずく。


「じゃあ、せっかくだから私が読みながら説明してあげるね」


吾輩はリンの説明を聞きながら、この魔法に関する本を読んでいった。

そして、とりあえずわかったことはこんなところである。


・魔法を使う方法①魔法具

魔法具に魔力を流すと、刻まれた魔法陣が反応し、魔法が発動する


・魔法を使う方法②魔法陣

魔法陣を描き、魔力を流すと、魔法が発動する

火の出す魔法陣に魔力を流すと、火が出る

水の出す魔法陣に魔力を流すと、水が出る


・魔法を使う方法③呪文

唱える呪文に魔力を流すことで、魔法が発動する

火の出す呪文に魔力を流すと、火が出る

水の出す呪文に魔力を流すと、水が出る


・魔法陣が大きくて複雑なほど、強力な魔法が発動する

・呪文が長ければ長いほど、強力な魔法が発動する


「この呪文に魔力を流すっていうのが一番難しいらしいの」


リンが吾輩の頭をなでながら言う。

呪文に魔力を流すとはどういうことなのであろうか。よくわからんな。

気合を入れて、叫べばいいのであろうか?

確かに、漫画やアニメでも必殺技を使うときは叫んでいたのである。


「『学院』では、その練習に体内の魔力を操作する練習をするんだって」


今度はリンは吾輩のアゴをこちょこちょしてくる。

ふにゃあ、気持ちいいのである。

……ではなく、その練習がリンの症状の改善につながるのであろうか。

魔力を体内に抑え込んだり、言葉に流したりするのであるか。

なんだか、やはり魔法は難しそうであるな。



この本はなかなか勉強になる本であった。

著者は誰であろうか?特別に吾輩が名前を憶えてやろうではないか。

そう思い、本の著者が書いてある部分を探す。

しかし著者の名前はかすれていて、最初の『ディ』の部分しか読めなかった。

まあいい、どうせ会うこともないだろうからな。

そう思い、リンになでられて眠くなっていた吾輩はそのままリンのベットで寝た。



吾輩はモコモコした感触とともに目を覚ました。

どうやらここは食事をとった場所の隅のようである。

どうやらあの後、吾輩はここに運ばれたようだ。

吾輩は洗濯カゴのようなもの中に入っており、下には毛布が敷いてあった。


吾輩はこのかごから出ようとしたが、足が掛り、カゴを倒してしまったのである。

もとに戻そうとするが、うまくいかないのである。

……まあいいであるか!

吾輩は倒れたかごをなかったことにして、体をストレッチする。

では早速、計画通りに調査に出かけるのである!


と思ったが、そんな吾輩を再び拒むものがいた。

それは玄関のドアである。

2日にわたり、吾輩の道を阻むとは!許さぬぞ!

吾輩はこやつに挑むも、吾輩の攻撃はすべて弾かれてしまう。


ぐぬぬ、なんという防御力出るか。

吾輩の攻撃ではかすり傷を負わせるのが精いっぱいである。



数分間、戦い続けるも吾輩の攻撃ではやつはびくともしない。

諦めかけたその時、吾輩に強力な援軍が来たのである。


「クロマルちゃんどうしたの、お外に出たいの?」


奥方!助かったのである。

吾輩は奥方の問いに肯定のニャーをする。


「もうちょっとしたら朝ご飯だから、すぐに帰ってきてね」


そう言って奥方は玄関のドアを開ける。

輩は開けられたドアから飛び出て、そのまま歩いていく。

確かに本格的な調査は朝ご飯を食べてからいいであろう。

朝は今まで行ったことのないところを軽く下見するだけにするのである。

そう思い、冒険者ギルドやティムの家がない方向に歩いていく。

この判断がこの後に起こる大きな事件の始まりだったのである。



吾輩は辺りを見回しながら、てくてくと歩いていく。

10分ほど歩いたであろうか。

周りの様子が薄暗いさびれた様子に変わっていた。

冒険者通りやティムの店が表通りだとすると、こちらは裏通りあるな。

あまり楽しそうな場所ではなさそうである。


人気もあまりなく、周りの建物もボロい。

たまにいる人間も近寄っても食い物をくれるタイプではなさそうである。

吾輩をじろじろ見ている輩もいたが、それは無視をする。


さらに歩いた結果、吾輩はこちらの方向は見ても意味がないと判断する。

金の匂いが全くしないのである。


ちなみに吾輩は歩いている間に、効率的な金儲けの方法を考えついていた。

まず、金持ちの子どもを見つけ、その子どもを吾輩のかわいさで魅了する。

そして、貴重なアイテムや魔法具をもらい、それを売るという作戦である。


というわけで、この作戦をするのにはこの場所は全くふさわしくないのである。

お腹も減ったし、そろそろ戻るであるか。

そう思った瞬間、吾輩の視界にあるものが入った。



それは枯れた大きな井戸であった。

直径は人がぎりぎり2人ぐらいは入れそうな井戸であった。

だがその井戸はボロボロで、中心に一本のひもが垂れているだけだった。


吾輩はそれに近づき、中を覗くが、暗くて中の様子はあまりわからなかった。

だが、桶はついておらず、ひもだけになってしまっているようだった。

吾輩はその井戸にぶら下がっているひもをじっと見つめる。

そして少し時間を置いた後、吾輩は、


ひもをパンチした。


ひもが揺れる。パンチをする。揺れる。パンチ。揺れる。パンチ。揺れる。パンチ。揺れる。パンチ。揺れ。パン。揺れ。パン。


にゃはは!楽しいのである!

吾輩はヒモ遊びに夢中になってしまった。

これは吾輩の意志ではなく、猫としての本能がそうさせてしまったのである。

そして、それゆえに吾輩は背後から近づく存在に気が付かなかった。


「クロマル?何してんだ、お前?」


ひもに夢中になっていた吾輩はランドの声に驚く。

そして、そのはずみで足を滑らして井戸に落ちてしまった。

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