第18話

しまった!

そう思った吾輩だったが、持ち前の反射神経で素早く姿勢を立て直す。

そして、吾輩は井戸の底に華麗に着地する。


ふう、危なかったであるな。

さっきの声はランドだったであろうか?

全く、脅かせおって!吾輩でなければ、大けがであったぞ!


間一髪でけがを逃れた吾輩は、井戸の底の様子を観察する。

井戸の底はじめじめしてはいるが、水はほとんどなかった。

怒らく水が枯れてしまったため、放置されてしまったのであろう。


「おーい!クロマル、無事か!」


ランドが井戸に向かって大声で叫ぶ。

吾輩は返答のニャーを大声で発する。


「無事か!よかったぜ。一旦、オレも降りるから端によっていてくれ」


上の方から新品のなわがおりてきた。

ランドが井戸に降りる準備をしているようだ。

井戸に降りて吾輩を拾い、そしてなわで地上に戻るのであろう。

吾輩が自力でこの井戸をよじ登るのは不可能であるからな。


おっと、ランドに踏みつぶされてはたまらん。

そう思い、吾輩は井戸の壁に自分の体を寄せようとして、


そのまま壁に飲み込まれた。



な、なにが起こったのであるか!

吾輩の目の前には暗く広がった道が伸びていた。

それほど広くなく、人が二人並んで通れる程度の道である。

そして、近くの床に魔法陣らしきものが描かれてあった。


なんだここは?ただの井戸ではなかったのであるか?

吾輩は先の方を見渡すが、うっすらと道が見えるだけだった。

すると、吾輩の背後からランドの声が聞こえた。


「あれっ、クロマルはどこ行ったんだ?」


吾輩は声が聞こえた方向に向かう。

すると先ほどの井戸の底に戻ってきた。


「うおっ!クロマル、お前どこから出てきた?」


ランドが吾輩に問いかけるので、吾輩はもう一度同じ壁の方に進む。

すると、吾輩の体はその壁をすり抜けた。


「おい、なんだそりゃ!」


そう言って、ランドもその壁に手を伸ばす。

すると、ランドの手もその壁をすり抜けた。

そのまま進むとランドと吾輩は先ほどの暗い道に出た。


「なんだここは?こんな場所があるなんて聞いたことがないぞ?」


ランドは周囲を見渡し、吾輩と同じく魔法陣を見つける。

そして、ランドは魔法陣と先ほどの壁を交互に何度も見る。


「……こりゃあ、もしかして『認識阻害』の魔法陣かもしれんな」


認識阻害の魔法?吾輩は首をかしげる。

そんな吾輩を無視して、ランドは一人で考え込んでいる。

そして、少し考えてからランドは吾輩に手を差し出して言った。


「いまからお前を地上にあげるから、悪いが1人で家に戻ってくれ」


1人で?ランドはどうするのであろうか?

吾輩はランドに疑問のニャーをする。


「あぁ、オレか?オレは少しここを調べてみる」


吾輩はそれを聞いて、ランドの手にパンチをした。


「うおっ、なんだ?もしかしてお前も一緒に行くっていうのか」


吾輩は強くうなずく。当たり前である。


なぜなら、こういう場所にはお宝があると相場が決まっているのである!

そして、それを見つけて売れば、2~3年も待たずに済むのである。

こんな場所を見つけるなんて、さすが吾輩、なんて運がいいのあるか!


「お前もこういう冒険が好きなんだな。わかった、一緒に行くか」


吾輩はランドの誘いにうなずく。

そして、吾輩とランドはそのくらい道をゆっくりと進んでいた。




「町の地下にこんな場所にあるなんてな」


ランドは慎重に通路を進みながら、ぼそりとつぶやく。

とにかく静かで暗い場所であった。

生き物の気配もまるでしない、不気味な場所である。


「何かがありそうだな。オレの勘がそう言っている」


吾輩の勘もそう言っている。何かがあると。

吾輩はおそらく昔の王様か貴族の隠し財産ではないかと考えている。

理由はない。猫の勘である。



さらにしばらく歩みを進めると、吾輩たちの目の前にトビラが現れた。


「やっぱりな。ここに誰かがここに住んでいやがる」


なに、こんな暗いところに人が住んでいるだと!

というかランドはなぜここに人がいるのだと分かったのか?


「魔法陣が新しかったからな。昔に書かれた魔法陣ではなかった」


それをなぜさっきに言わないのだ!

てっきりランドも隠し財産を探しているのだと思っていたのである。


「そして、こんなとこに隠れているってことはまともな人間ではない」


ランドは持っていた荷物を置き、装備を整え、背中の大剣を抜く。

そして、吾輩に語りかける。


「クロマル。お前も気づいて、オレと一緒に戦おうとしてくれたんだろ」


いや、吾輩はてっきり財宝探しをするのかと……


「こういった悪党をやっつけるは冒険の醍醐味だからな」


まあ、確かにそうではあるが……

もうここまで来たら仕方がないのである。

予定変更である!


おそらくこんなところに隠れているのであれば、相当の悪党である。

となれば、それなりに価値あるものを持っている可能性が高いである。

それを奪ってしまえばいいのだ!


それにこちらにはこの町に数人しかいないBランクのランドがいる!

負けることなどそうそうあるわけなのである。


「それじゃあ、トビラを開けるぞ。クロマルはオレの後ろに隠れていてくれ」


そう言って、ランドは扉を開ける。



部屋の中は広々とした部屋だった。

おそらく倉庫として使われていた場所だったのであろう。

部屋の両端には大きな箱が積み重ねておいてあった。


ただ、その奥には倉庫には似つかわしくないものがあった。

それは大きな魔法陣である。

入り口で見た魔法陣とは比べ物にならないくらい大きく複雑だった。

その上には子供の背丈ぐらいの台座があり、大きな水晶が置かれていた。

そして、その手前にはローブを着たやせた男が立っていた。



「お前は何者だ。ここで何をしていたか話してもらおう」

「おやおや、人の家に入ってきていきなりですね」

「ここはお前の家ではなかろう」

「そういえばそうでしたね。一本取られましたね」


男はにやりと笑う。

吾輩はランドの陰から見つからないようにこっそりと男を観察する。

やせ細った男である。年齢は20台であろうか。

ローブをまとっていて、右手に杖、左手には指輪を2つしているのである。

分かりやすいぐらい、魔法使いらしい恰好をしていた。


「まあいい、悪いが冒険者ギルドまで来てもらおう」

「断ったらどうしますか」

「無理やりにでも来てもらう!」


ランドはいきなりその男に突っ込んでいき、持っていた大剣を振り下ろす。

しかし、それに対し男は杖を構え、呪文を唱える。


「障壁!」


杖が光り、魔法が発動する。

ランドの大剣は突如現れた魔法の壁に阻まれてしまう。


もう戦闘であるか!展開が速いのである。

吾輩は急いで、壁際にあった荷物の陰に隠れる。

相手は魔法使いのようであるが、ランドは大丈夫なのであろうか?

どっちが強いのかよく分からないのである。


ランドはいったんその男から距離をとる。


「ちっ、やっぱり魔法使いか」

「見てのとおりですよ。そんなこともわからないんですか」


ランドはその言葉を聞き、ひと呼吸を置き、言葉を発する。


「……いや、違うな。お前、『学院』の落第生だな」

「貴様ぁ!生きて帰さんぞ!」


男はランドの言葉に激しい怒りを表す。

そして、男は再び持っていた杖を構え、呪文を唱えた。


「炎よ!」


杖が光り、矢のような形になった炎がランドを襲う。

しかし、ランドはその炎を大剣で一振りで切り捨てる。

ランドはこんなに強かったのであるか!


「カマをかけただけだったが、当たりだったようだな」


男は怒りの表情で顔を震わせている。

逆にランドは余裕の笑みを見せている。


そして、ランドはこう言い放った。


「お前が本物の魔法使いなら、『呪文』で魔法を使ったらどうだ?」

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