第15話

「それでオレ宛のものは何だったんだ?」

「あぁ、そうでした。そちらが本題でした」


ティムは店の奥の方に入っていく。

ティムのものはなかなかすごかったからな。

ランドは何がもらえるのだろうか?

もしかして、背中の大剣よりさらに大きな大剣だろうか?


吾輩は期待に胸躍らせて、ティムが戻ってくるのを待つ。

そしてティムが手に封筒のようなものを持って戻ってくる。

ティムはそれをランドに手渡した。


「こちらです。ある意味、魔力の実より貴重ですね」

「こりゃ、まさか!本当に書いてくれたのか!」


書いてくれた?また、長老からの手紙であろうか?

長老は手紙を書くのが好きなのであるな。


封筒の裏には長老の名前が書いており、表には「紹介状」と書いてあった。


「ありがてぇ!直接頼みに行ったかいがあったぜ!」

「護衛を引き受けてくださった理由の1つでしたからね。よかったですね」

「『考えておこう』で終わったからな。書いてもらえるとは思わなかったぜ」


吾輩は会話の内容が全く分からず、首をかしげる。

吾輩の困惑した様子にティムが気が付く。


「あぁ、これはですね。『学院』への紹介状ですよ」

「これがあると魔法都市の『学院』に入学することができるんだよ」


魔法都市の『学院』に入学?

魔法を教える学校みたいなものであろうか?


なるほど!ランドは魔法剣士になりたかったのか!

大剣を使う魔法剣士とはなかなか強そうであるな!

吾輩は炎をまとった大剣を構えるランドを想像する。


「『学院』は完全招待制で、招待状がないと絶対に入学ができないのです」

「入学生が問題を起こした場合、紹介者が責任を取る制度だからな」

「だからか、紹介状が書けるのは『学院』の卒業生に限られているんですよ」

「ウワサで長老が卒業生だと聞いてな。村に頼みに行って本当に良かった」


長老は『学院』の卒業生だったのか。

そんなことを言っていたような気がするが、あまり覚えていないのである。

まあ、ランドであれば長老に迷惑がかかることはしないであろう。


「それにしても本当に今回の仕事は得たものが大きいですね」

「あぁ、オレは報酬だけでなく、欲しかった紹介状ももらえたしな」

「わたしも回復草だけでなく、魔力の実もいただけるとは思えませんでしたよ」

「ちょうどタイミングが合ったからって、護衛で一緒に行ってよかったぜ」

「本当にとても幸運に恵まれましたね」


ランドとティムは吾輩に目を向ける。


「まあ、ある意味お前のおかげでもあるな!感謝するぜ、クロマル」

「そうですね。ありがとうございます、クロマルちゃん」


そう言って、2人は吾輩をなでる。

ふふん、よくわからないが吾輩に感謝するのであるな!


魔法都市であるか。なかなか面白そうであるな。

異世界と言えば、魔法であるからな。

ランドが出発するときに付いて行ってもいいかもしれぬ。

しかし、そうなるとリンや奥方はどうするのであろうか?


そう思っていた吾輩だったが、次のランドの言葉で勘違いに気が付いた。


「これであともう少し金を貯めれば、リンを『学院』に入れられるぜ!」


……ランドではなく、リンが『学院』に入るのであるか?

しかし、リンは病気なのではなかったか?

疑問が新たに湧いてきて、吾輩は再び首をかしげる。

そして、ランドに対して疑問のニャーを発する。


「なんだ?どうした、クロマル?」

「どうしてリンちゃんが『学院』に入るのかを知りたいんじゃないですか?」

「あぁ、クロマルにはリンの身体について詳しくは説明してなかったな」


そう言ってランドは吾輩にリンの状態を詳しく説明してくれた。

天才の吾輩がまとめるとこうである。


・リンは正確には病気ではなく、無意識に体内から魔力があふれるという体質

・その影響で常に体内の魔力が少なく、その影響でいつも体調がよくない

・体内の魔力が完全になくなれば死に至る


「一番の問題はリンが成長するにつれて、あふれる魔力の量が増えていることだ」

「現状はポーションの魔力回復効果で何とか補えているんですよね」

「あぁ、こまめに飲ませている。ただ、今後はどうなるかわからない」


なかなか大変な状態であるな。根本的な解決法はないのであろうか?

吾輩の心の声が聞こえたのかどうかわからないが、ランドは話を続ける。


「解決方法は単純なんだ。体内の魔力をコントロールできるようになればいい」

「その方法が学ぶことができるのが『学院』なんですよね」

「あぁ、長老にも確認したが、『学院』ではそういうことも学べるらしい」

「さすが『学院』ですね。ちなみに長老さんは教えられないのですか?」


それもそうであるな。長老は卒業生なのだから、できるのではないか?

村に行って、教えてもらえばいいではないか。


「『できなくはないが、おすすめはしない』だそうだ」

「どうしてですか?」

「今のリンの状態を考えると、なにかしらの事故が起こる可能性があるらしい」

「やっぱり簡単ではないのですね」

「安全性を考えれば、設備などが充実している『学院』の方がいいとのことだ」


なるほど。まぁ、そう簡単にはいかないのであるな。

なかなか魔力を扱うのも難しそうであるな。

ゲームやマンガなどでは簡単に使ってはいたが、現実は厳しいのである。


「まぁ、でもこれで問題は金だけになったな」

「入学金と授業料を合わせると、かなりの金額になりますからね」

「まあ、金に関してはコツコツ準備してたから、あと2~3年で何とかなる」

「Bランク冒険者のランドさんであれば可能でしょう」

「2~3年なら、リンの症状も今までの様子からそこまで悪化しないはずだ」


金の問題も時間がかかるが、なんとかなりそうでよかったのである。

まあ、2~3年後だと吾輩は別の町に行ってそうであるな。

元気になったリンには会ってみたかったである。


「ティム、ありがとうな。これでアニスにもリンにもいい報告ができる」


そう言って、ランドはカバンに封筒と吾輩を入れ、店の外に出ようとする。


「あっ、ランドさん!ちょっと待ってください!」

「なんだ?早くこのことを二人に知らせてやりたいんだが」

「実はもう1つありまして……」

「もう1つ?」


まだあるのか。長老はずいぶん太っ腹であるな。


「実はそのもう1つというのがですね……」

「なんだ、もったいぶって。そんなにすごいものなのか?」


「長老さんからクロマルちゃん宛のお手紙なんです」

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