第14話

冒険者ギルドに行く途中、ランドは吾輩にギルドについて語った。

まとめるとこんな感じである。


・冒険者のランクは最高Sランク~最低Eランク

・この町にはSランクはいない、Aランクは1人、Bランクは数人いる

・その数人のランクBのうちの1人がランド

・魔物を倒したり、依頼をこなすとランクが上がる


ランドのやつ、思ってよりやるではないか。見直したである。

背中の大剣は伊達ではないのであるな!使っているところは見たことないが。



ランドは大きいが、少し古びた建物の前で立ち止まる。

吾輩の想像通りの冒険者ギルドであるな。


「よし、ここだ。入るぞ」


ランドはそう言うと、吾輩をカバンに入れたまま、その建物に入っていった。


ギルドの中は見た目通り、古臭い匂いがした。

だが人がほとんどおらず、あまり活気にあふれているという感じではなかった。


なんだ。もっと人があふれんばかりにいるものかと思ったのである。

思ったよりさびれているのだな。


ランドは受付の方にまっすぐ進んでいく。

すると、受付嬢が近づいてくるランドに気が付いた。


「あっ、ランドさん、お帰りなさい」

「おう、戻ったぞ。報酬を確認しに来た」

「ティムさんから依頼の完了を承っております。少々お待ちください」


そう言って、受付嬢は奥の部屋に入っていく。

そして、少しすると手に硬貨の入った袋と箱を持って戻ってきた。


「お待たせいたしました。こちらが報酬の硬貨とポーションです」

「わかった。確認させてもらう」


そう言って、ランドは袋の中に入った硬貨の数を数え始める。

そして、数え終わると箱の中身を確認する。

吾輩も中を覗くと、箱には濃い緑色の液体が入った入れ物が数本あった。


「硬貨の数もポーションも確認した。ありがとう」

「こちらはすぐにお持ち帰りになりますか」

「後でいい。時間があるから、簡単な討伐依頼があればやろうと思ってな」


そう言って、ランドは辺りを見まわす。


「にしても、今日はなんか人が少なくないか?」

「みなさん、魔物の討伐に行かれていますよ」

「みんな?そんなに魔物が出現しているのか」

「明らかに数がおかしいです。ギルドマスターが調べていますが、原因不明です」


この町の周りにはそんなに魔物があふれているのか。

なにかとても嫌な予感がするであるな。

吾輩は絶対に町から出ないようにしておこう。


「じゃあ、オレも魔物討伐に行った方がいいのか?」

「いえ、むしろ町にいていただけると助かります」

「ん?なんでだ?」

「実はほとんどの高ランクの方が魔物討伐に行ってしまっているのです」

「なるほど、何かあったときの為か」

「はいそうです。よろしくお願いします」


なかなかランドは頼られているのであるな。吾輩も誇らしいぞ。


「じゃあ、町の中でできる依頼は何かないか?」

「依頼ではありませんが、ティムさんから伝言を預かっております」

「伝言?」

「はい。時間があるときにティムさんのお店に来てほしいとのことです」


なんであろうか?昨日別れたばかりだと思うのだが。

美味しいものが手に入ったのからおすそ分けだといいのである。


「了解。そっちの用事を済ますとするか。ありがとな」

「いえ。こちらこそいつもランドさんに助けていただいておりますので」

「じゃあ、討伐には行かないから、報酬はそのまま持って帰ることにするよ」

「かしこまりました。こちらをどうぞ」


そう言って、受付嬢はランドに硬貨の入った袋とポーションが入った箱を渡す。

ランドはそれを受け取ると、そのままギルドの外に向かっていった。


「よし、それじゃあ、ティムのところに行くか!」



しばらくするとティムの店に着いた。

外見では何の店かよくわからんな。雑貨屋であるか?


「ティム、いるかい?」

「あぁ、ランドさん!お待ちしておりましたよ」

「オレに用事があると聞いたんだが……」

「用事というかお見せしたいものがありまして。とりあえずおかけください」


ランドは受付にあった椅子に腰かける。

カバンに入っているのに飽きた吾輩もカバンから出て、受付の机に乗る。

やっぱり足が地面に着くと安心するであるな。


「クロマルちゃんも一緒だったんですね」

「あぁ。それで見せたいものってのは?」

「まずはこちらです」


そう言ってティムは手紙のようなものを取り出した。


「手紙?誰からだ?」

「村の長老さんからです」

「長老から?」

「はい。取引したものの中にいつの間にか紛れていまして」

「おいおい。そんなもの勝手に見てもいいのか?」

「それが私とランドさん宛の手紙なんです」


おお、長老か!なんだかついこないだのことだが、懐かしく感じるな。

吾輩のことも書いてあるのだろうか?


ランドと吾輩は長老からの手紙の内容を確認する。

そこにはとても短い文が数文書かれてあった。



ティム殿・ランド殿へ


旅人を1人同行させる。迷惑をかけるかもしれぬが、よろしく頼む。

詫びとして、欲しがっていたものを添えておく。


クルーツ村村長 ディルモンド・クルーツ



「旅人?」


ランドが首を傾げたとき、不意に吾輩と目が合う。


「おいおい、もしかして旅人って……」

「おそらくクロマルちゃんのことかと。ほかに同行した方はいないですし」

「まじかよ!たまたま乗ってきたのではなく、意図的なもんだったのか」


ランドは頭を抱えて、大きくため息をつく。

なるほど、長老は気を利かせて手紙を添えていたのか。さすが年の功である。

……もしかして、吾輩が途中で気づかれるのもわかっていたのであるか?


吾輩の頭に、長老の笑い声が聞こえたような気がした。


「ただ、添えられていたものがとても素晴らしいものでしてね」

「そういえば、書いて何か詫びのものを添えると書いてあったな」

「わたしにはこれです」


ティムはそう言って、奥の方から手のひらより少し大きい箱を持ってきた。

そして、その箱を開けると金色のリンゴのような実が1つ入っていた。


これはあのくそまずい実ではないか!

あの長老、こんなまずい実をあげるなんて、ティムがかわいそうではないか!


「こりゃ、もしかして魔力の実か!」

「そうです。あの食べた人間の魔力を増幅させると言われる希少な実です」


なんだと!魔力を増幅させる?

そんなすごい実だったのか!

ということはあれを食べた吾輩は天才魔法猫クロマルに……!


「確か食べた人間の魔力が高ければ高いほど、効果が高いんだろ?」

「そうです。魔力が低い人間が食べても意味はありません。しかもまずいです」

「まずいのか?」

「この実はおいしく感じた場合、効果があったと分かるそうです」


……なれなかった。天才魔法猫クロマル、完。


「なかなか面白い実だな」

「売れる人にはとても高く売れます。商売人の腕の見せ所ですね」

「にしても、長老はよくこんな希少な実を持っていたな」

「全くですね。不思議な方ですよ」


森の中にあるでかい木にたくさん実っていたが。

それを知っているのは長老だけなのであろうか?

とにかく、油断できないじじいであるな。


また吾輩の頭に、長老の笑い声が聞こえたような気がした。

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