黒猫クロマルの異世界さんぽ

さちかわ

クロマルと村の幼女レベッカ

第1話

吾輩は猫である。名前はクロマルと言う。

吾輩はある特別な力を持っている。

それは「人間の言葉を理解する力」である。


吾輩はこの力をうまく使い、今までうまく生きてきた。

子どもが「なでさせて」と言えば、なでさせて食い物をもらう。

老人が「暇じゃ」と言えば、遊び相手になって食い物をもらう。


子どもや老人相手にエサを巻き上げるのは、簡単だった。

もし食い物をもらえなければ、お腹を見せてニャーとでも言えばいい。

人間はすぐに吾輩に魅了され、食い物を貢ぐようになる。


吾輩はこの天才的な頭脳で、この能力を使いこなし生きてきた。



ある日、吾輩が常連のスーパーのゴミ箱を見に行く。

このスーパーの店長は弁当にこだわりをもっていたようであった。

そのため他の店よりも弁当の味が明らかにワンランク上である。

だから吾輩も巡回ルートにはこの店を入れていたのであった。

吾輩はグルメであるからな!


特にサバの塩焼きは吾輩のなかではトップ3に入るぐらいのうまさだった。

塩味がちょうどよく、身もとてもほくほくとしていた。

骨がのどに刺さることがないように骨の処理もきちんと丁寧にされていた。

あれを始めて食べたときは感動で、ゴミ箱の周りを走り回ったほどである。



今日も期待に胸を膨らませ、ゴミ箱のところに来た吾輩は困惑した。

なぜなら、いつものゴミ箱はなく、代わりに謎の黒い箱があったからである。


少し考えた結果、天才である吾輩はこの箱の正体に気づいた。

これは最新型のゴミ箱であると!


ふう、吾輩としたことが動揺してしまったのである。

店長がゴミ箱を新しいものに変えたのであろう。

確かにあのゴミ箱は壊れかけていたからな。

まあ、理由は吾輩がゴミ箱をよく倒してしまっていたからなのであるが。


と言うことは、おそらく吾輩のサバの塩焼き弁当はあの中にあるだろう。

しかし、吾輩には別の疑問が生まれた。


この箱はどこから開けるのであろうか?

その箱にはふたも開け口も見当たらなかった。


その箱の周りをグルグル歩いてみたが、よくわからない。

どこから見ても、ただ黒いことしかわからなかった。


こいつは本当に黒くて四角いな。「クロシカク」であるな。

ちなみに吾輩は黒くて丸いから「クロマル」である。

公園の子どもがそう呼んでいたのをそのまま使っている。



そして再び少し考えた結果、天才である吾輩は仕組みに気づいた。

これはセンサーで反応するゴミ箱だと!


ずいぶん店長は最新のゴミ箱を買ったのであるな。

このスーパーはそんなに稼いでいたのであろうか?

正直、そんな風には見えなかったが……



まあ、そんなことはどうでもいい。

箱に触れたら、どこかが開く仕組みであろうか?

そう思い、吾輩がその黒い箱にそっと触れた。


その瞬間、吾輩の体はその黒い箱に吸い込まれた。


一体何が起こったのであるか!!

吾輩は恐怖のあまり、目をつむり、体を丸くする。



そして、気が付くと吾輩は薄暗い森の中の中にいた。



森である。右を見ても、左を見ても木である。

それも公園に植えてあるような貧相な木ではない。

その2倍も3倍も太さがあるような木である。

そんなバカでかい木が数えきれないぐらい生えているのである。


いったいここはどこなのだろうか。

というより吾輩はなぜここにいるのだろうか。

確かにあの黒い箱の中に入ったと思ったのだが……


そう考えこもうとした瞬間、吾輩の腹が音を立ててなった。

そうだった、吾輩は食べ物を探していたのだった。

ここがどこかは今のところよくわからない。

森なのであれば、なにかしらの木の実などの食い物があるだろう。

そう思った吾輩はよくわからないまま、森を歩き始めた。



大体1時間ぐらい歩いただろうか。

空腹と疲れでボロボロだった吾輩の目に、急にまぶしい光が飛び込んできた。

その金色のところに何かがあると感じた吾輩がそちらに進んでいく。


すると、そこには多くの金色のリンゴのようなものを実らせた巨木があった。

周りの木もとてつもない大きさだったが、この木はケタが違う。

人間が住んでいた10階建てのマンションと同じぐらいの大きさだったのだ。

この木を見て、吾輩は思ったのである。



木があまりにも高すぎて、実が取れないのである。



吾輩は天才猫である。したがって、木登りも別に苦手ではない。

しかし、さすがにこれは高すぎるのである。

いくら吾輩が猫でも、この高さを上り下りするのは容易ではない。

ましてや、今の吾輩は空腹状態で力が発揮できる状態ではない。

そう考え、吾輩はこの木に実っている金色リンゴをとるのをあきらめた。


しかしその時、ふとそばにあるものが落ちているのに気が付いた。

それは金色リンゴであった。


神が吾輩の味方をしてくれたのだ。ありがとう猫神様よ!!

そう猫神様?に感謝をした吾輩はその金色リンゴに飛びつき、かじりついた。

そして、衝撃を受けるのである。

その金色リンゴのまずさに。


それはこの世の苦みを集約したような苦さであった。

よく人間は「腹が減っていればなんでもうまい」と言っていた。

しかし、吾輩は今日それが間違いだったということを知ったのであった。


吾輩は一口かじったその実をそのまま放り投げる。

そして、すぐにその場所を全力で立ち去った。

そして、その勢いでで森を駆け抜けていったのであった。

口の中を洗い流せる水を探すために……



水、水はどこであるか!

吾輩は水を求め、一心不乱に走り抜ける。

その時、吾輩の嗅覚がついに求めていたものを感じ取る。

これは川のにおいである。

そのにおいの方向に走っていくとそこには、小さな川が流れていた。


吾輩はそれを見つけるや否や、全速力で走った。

その川に自分の顔を突っこむ。

そして口の中の苦さをすべて飲み込むような勢いで水を飲み続けた。


にゃんじゃったんだ、あの苦すぎる実は。

あんなもの今まで食ったとこがないぞ、だましたな猫神様め!

心の中で怒りをぶつけていると、ふと誰かに見られているの感じた。


その視線の方にちらりと目をやる。

そこには吾輩のことをジーっと見つめる金髪の幼女がいた。



なんだ、この幼女は。なんで吾輩を見ているのだ?

幼女はおそらく人間でいう7~8歳、つまり小学1~2年生ぐらいだろう。

ところで、人間はなぜあの年齢になるとランドセルを背負うのだろうか?

どう考えても、体とサイズが合っていないのではないか?


吾輩が全然関係ないことを考え込んでいると、


「こんにちは!あなたはだぁれ?」


と幼女が話しかけてきた。

名乗ることはできないので、代わりにニャーと返事をしてやった。


「かわいい!どこから来たの?」


この幼女はアホなのであろうか?

今ので吾輩が人間の言葉が話せないのが、わからなかったのか?

とも思ったが、よく考えれば人間の子どもはいつもこんなものだったな。

仕方がなくもう一度ニャーと返事をしてやった。



こんな感じで幼女が話しかけてくるのに対し、しばらくニャーと返事をする。

その間に得られた情報はこうである。


・この幼女の名前はレベッカ。

・この森の近くにある村に兄と二人で住んでいる。

・村の名前は「クルーツ村」というらしい。

・今日は川に水汲みに来たらしい。



この話を聞いたとき、吾輩は明らかにおかしいことに気が付いた。

なぜなら吾輩がさっきまでいた場所は「コシガヤ」と言われていたはずである。

エサを求めて探し回ったときにも「クルーツ村」など聞いたこともなかった。

というか、そもそもこんな森はなかった。

一体、吾輩はどうなってしまったのであろうか?

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