第2話

思考にふけっていた吾輩は気が付くとレベッカの頭に乗っていた。

どうやらレベッカの手によって乗せられたようだ。

自分の世界に入り込みすぎていた。

天才猫である吾輩はこうやってすぐ考え込んでしまう癖がある。

気をつけねばならぬことをわかってはいるが……


レベッカはどうやら自分の村へ戻っているようである。

楽しそうによくわからない歌を歌いながら歩いている。

悩みがなさそうで、うらやましい限りである。


吾輩が来た方角には先ほどの巨木が多くそびえている。

だが、レベッカが向かっている方向にはそれほど多く木は生えていない。

どうやら吾輩は森の中心部にいたようである。

なぜ吾輩はそんなところにいたのか、ますます謎は深まるばかりであるな。



「レベッカ!」


レベッカを呼ぶむさくるしい声が聞こえる。


「お兄ちゃん!」


なるほど、こやつがレベッカの兄か。

レベッカと同じ金髪だが、体格が全く違う。

身長はおそらく180㎝ぐらいで、ジムで鍛えているみたいにマッチョである。


ちなみに吾輩はジムにいたあのマッチョどもは嫌いではなかった。

なぜならあやつらはよく鳥肉のささ身をエサにくれたからだ。

少し味が薄かったが、あれはあれでうまかった。

またいつか食いたいが、それは果たして可能なのだろうか?


「レベッカ、その頭にいるものはどうしたんだ?」


マッチョが吾輩を指さす。


「この子はね、クロマルっていうの!」


なんだと!なぜ吾輩の名前をレベッカが知っているのだ!


「黒くて丸いから、クロマルって名前を付けてあげたの」


子どもの考えはどこでも変わらないということか。

まあ、吾輩もこの名前に愛着を感じている。

よくわからないダサい呼び方をされるよりましである。



「名前を聞いているのではない、どこで拾ってきた」

「近くの川でお水を飲んでるの見つけたの!かわいいでしょ!」


吾輩のかわいさがまた一人の幼女を虜にしてしまったか。

天才でかわいい、まさに吾輩は完璧であるな。



「元の場所に戻してきなさい」


バカな、このマッチョには吾輩の魅力がわからないのか?

まあ、マッチョにモテても困るが。

あやつらはいいやつが多いのだが、力が強いのでなでるときに

少し痛いのが玉にきずである。


そして、兄弟げんかが始まってしまった。

マッチョ(名前はダニエルというらしい)が吾輩を森に戻してこいと言う。

そして、レベッカがそれに反対する。

それはともかく、吾輩は大きな問題を抱えていた。


腹が減ったのである!!


あのくそまずい実も1口しか食べていないので、空腹は続いている。

とにかく何か食いたいのである。

それを主張するため、伝わらないのを承知でニャーと主張してみる。


「ほら!クロマルもレベッカと一緒にいたいって言ってるよ!」


そんなことは言っていないが、メシをくれるなら考えてやろう。


「そんなわけないだろう、おおかた腹が減っているとかであろう」


なんて優秀な男なんだ、ダニエル。

ダニエルの言葉に同意するように再びニャーと鳴く。



「では、今日一日だけ家で面倒を見よう」


ダニエルがそう提案する。


「腹をすかせたまま森に返すのは、あまりにもかわいそうだからな」

「ほんと!お兄ちゃん!」

「ああ、でも今日だけだ。明日には必ず森に戻すからな」

「なんで!」

「こいつの親や仲間が探している可能性があるからだ」


残念ながら、吾輩は数年前から一人猫である。


「あ、そっか!そうだよね。じゃあ今日だけ一緒に寝ようね」


いつのまに一緒に寝ることになったのだ。


「明日になったら、レベッカがお友達、探してあげるね」


まず、見つかることはないであろうな。



吾輩はレベッカたちの家に着くとようやく食事にありつけた。

と言っても、野菜の葉っぱがちょぴっとだけ入ったスープだった。

もちろん、ネギのようなものは入っていないのは確認済みである。

正直、いつもの吾輩ではとても満足出来るものではなかった。

だが、空腹の吾輩にはたまらなくうまかった。


食事の後は、その借りを返すためレベッカと遊んでやった。

「一宿一飯の恩義」というからな、吾輩は恩知らずではないのだ。

いつもの公園の子どもと遊ぶように体をモフモフさせてやった。

サービスで尻尾パシパシもしてあげたのである。


しばらくレベッカは吾輩に夢中になっていた。

しかし、吾輩のぬくもりのせいか、途中からまぶたが閉じ始めた。

その数分後には、そのまま床に眠ってしまった。



「レベッカ?」


隣の部屋にいたダニエルがこちらにやってきた。


「なんだ、寝てしまったのか。仕方がないな」


そういってダニエルは床で寝ているレベッカを静かに持ち上げた。

そして、そのままレベッカの寝床らしき所に運んで行った。



「それにしてもこいつは何だろうな?」


ダニエルは吾輩を見つめながらつぶやく。


「まあいい、お前の寝床も用意した。そこのカゴを使え」


ダニエルは部屋の端にあるカゴを指さしながら言った。

吾輩は指示されたカゴに近づき、そのままそのカゴに入った。

そのカゴの底には布が敷いてあり、なかなか悪くない状態だった。

意外と気が利くな、ダニエル。褒めてやろう。

吾輩はダニエルに賞賛のニャーをかけてやった。


「意外と賢いんだな、まあいい、レベッカを起こすなよ」


そういってダニエルは元の部屋に戻っていった。



一人になった吾輩は改めて今の状況について考えてみた。

そしてこの吾輩の天才的な頭脳が導き出した可能性は以下の3つである。


・瞬間移動

・タイムスリップ

・異世界転移


1つ目はあの箱に入ったことにより別の場所に移動したという可能性である。

あんな金色の実がなる木など聞いたことがないが、世界は広い。

吾輩が知らないだけで、世界的には珍しいものではないのかもしれない。


2つ目のタイムスリップとは、ここが過去の「コシガヤ」である可能性だ。

吾輩の時代では森ではなかったが、昔は森だったのかもしれない。

さすがの吾輩も「コシガヤ」の歴史にはあまり詳しくないのである。

ただ、昔の「コシガヤ」にレベッカといった名前の人間がいたかは疑わしい。


そして3つ目の異世界転移とは、ここが別の世界であるということだ。

吾輩もそれほど詳しくがないが、別の世界に行くのは珍しくないらしい。

死んだ際に別の世界に生まれ変わったり、突然別の世界に呼び出されたりする。

そういう経験をしている人間は少なくないらしい。

と言っても公園にいた子どもの話なので、信憑性は高くないのだが。


とにかく今の吾輩の一番の問題は、情報が足りていないことである。

この天才的頭脳があっても、情報が少なければ考えられることは限られてしまう。

まず明日は情報を集めてみるか。

そう思い、次の日に備えるため吾輩はそのままカゴの中で眠りについた。

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