クロマルと町の冒険者ランド

第11話

吾輩は今ピンチに陥っていた。


「おい、お前。なんでこんなところにいるんだ」


吾輩は冒険者のランドによって宙づりにされていた。



吾輩は行商人のティルの荷物に紛れて、町に向かっていた。

吾輩もバレてはいけないと、最初はティルやランドの行動に気を配っていた。

しかし、途中から吾輩の悪い癖が出てしまった。


飽きてしまったのである。


吾輩とてよくないのはわかっておる。

むしろ、あいつらが悪いのである!

あやつらは食事時ぐらいしか荷台を確認しないのだ。

だから、最初は緊張感があって楽しかったのだが、途中から慣れてしまったのだ。

ふかふかな回復草の上で居眠りをしたとしてもしょうがないではないか!



「ティム。こいつ、どうする?」


ランドが吾輩をぶら下げたまま、ティムに尋ねる


「どうすると言われましても。いまから村に戻るわけにはいきませんし……」


ティムは困った顔をして答える。


「とりあえず町まで連れていきましょう。どうするかはそのあと考えましょう」


ティムは吾輩の扱い方を考えるのを先送りにした。




「良かったな。おまえ」


ランドが吾輩からぱっと手を放す。

吾輩はネコとしての本能が発揮し、すたっと着地する。


「おっ、結構身軽なんだな。確かクロマルだったか?」


ランドが吾輩の動きに感心する。

ふふん、すごいであろう。あまり吾輩を見くびらないでほしいな。


「たしか、レベッカちゃんがそう呼んでいましたね。頭もいいみたいですよ」


ティムが吾輩の頭をなでる。

吾輩の優秀さがわかるとは。ティムはなかなか優秀であるな。

吾輩はティムに賞賛のニャーをしてやる。


「それより夕食の準備をしましょう」


ティムがランドに声をかける。


「あぁ、そうだったな。こいつのせいで忘れてたぜ」


そう言って、そのまま2人は食事の準備を始める。



「明日にはテレーサに着きそうだな」


食事を終えたランドが片付けをしているティムに声をかける。

ちなみに食事は村の時よりも少し具の多いスープとパンだった。

ティムは吾輩の分もちゃんと用意してくれた。

少しだが肉も入っていて、なかなかうまかったのである。


「そうですね。大きな問題も起きずにテレーサに着けそうでよかったです」


テレーサとはおそらく町の名前であろう。


「小さな問題はあったがな」


ランドが吾輩に目を向けて言う。



「もしよければなんだが、クロマルはオレが預かろうか?」


ランドがティムにそう提案する。

なんだ?町に着いたら考えるのではなかったのか?


「そうしていただけると正直助かります。でも、どうして?」


ティムも急な提案を疑問に思ったようである。


「あぁ、クロマルだったらアイツの遊び相手にちょうどいいと思ってな」

「アイツ?あぁ、リンちゃんのことですね」


リンちゃん?前もそんな名前を言っていた気がするのである。


「クロマルなら小さいし危険性も低そうだしな」


そう言ってランドは吾輩を持ち上げる。



「リンちゃんの体調はいかがですか?」

「すぐにどうこうなるわけではないが、少なくとも良くはないな」


ランドは吾輩をなでながら、ティムの質問に答える。

こやつ、なかなかなでるのが上手であるな!


「そんな状況なのに、護衛を引き受けていただきありがとうございます」


ティムがランドに礼を言う。


「気にしなくていい。クルーツ村の回復草はリンの治療に必要だからな」


ランドが吾輩のアゴの下をなでる。


「もしかして、だから護衛を引き受けてくださったんですか」

「あぁ、あの村の回復草が町に届かなかったら、おれが一番困る」


どうやらあの村の回復草はなかなかいいものだったらしい。



吾輩が覚えているのはそこまでであった。

ランドがなでるのが上手すぎて、いつの間にか眠ってしまっていたのである。




ざわざわする雰囲気に吾輩は目を覚ました。

うーん、良く寝たであるな。


吾輩はゆっくりと体を伸ばす。

そして周りを見渡すと、そこにはたくさんの人間が歩いていた。

どうやらいつの間にか町についていたようである。


家や店などもたくさんあり、武器屋や宿屋などの看板も出ていた。

ちなみに、今更だが吾輩は文字も読めるのである。

公園で子どもと一緒に本を読んだこともある。

吾輩は好きだったのは名前がたくさんある猫が出てくる絵本である。

あやつはなかなか強そうであったな。


というか吾輩、異世界の言葉が読めるのだな。

村では文字がほとんどなかったので、気にしてもいなかったのであるが。

……まあ、吾輩は天才だからな。読めてもおかしくはないだろう。


「おっ、クロマル。ようやく起きたのか」


ランドが吾輩が起きたのに気づき、声をかけてくる。


「クロマルちゃん、おはようございます」


ティムも続けて吾輩に朝のあいさつをする。

吾輩もニャーと返事を返す。



どうやら二人はもう別れるところだったようだ。


「ランドさん。ありがとうございました。報酬はギルドで受け取ってください」

「あぁ、また依頼があればいつでも言ってくれ」


そう言って、ランドは吾輩をいつの間にか持っていたカバンに入れる。

……体がすっぽりはまって、なかなか気持ちいいであるな。


「そういっていただけると助かります。では、またいつか」


ティムはそう言って、ランドにお辞儀をし、吾輩に軽く手を振って去っていった。




「さて、まずは家に戻るぞ」


そう吾輩に声をかけ、ランドは足早に進んでいく。


「カバンの中で暴れまわるんじゃないぞ」


吾輩をなんだと思っているんだ。紳士な吾輩が暴れるわけがなかろう!



ランドは家に戻るまでに、自分たちのことを吾輩に色々と語った。

天才の吾輩が簡単にまとめるとこうである。


・ランドは妻のアニス・娘のリンと3人で暮らしている

・ランドは冒険者の中ではそこそこ優秀である

・アニスはそこそこ美人

・リンはめちゃくちゃカワイイ

・リンはあまり体が丈夫でない


まあ、こんなところである。まあ、途中からリンがカワイイ話しかしてなかったが。




「……というわけで、そのときのリンがかわいかったわけだ。わかるか?」


ランドが気持ち悪いぐらいにやけた顔で吾輩に話しかける。

わかるわけなかろう。見たこともない娘のことなぞ。

というか、周りから見ると1人でなんかぶつぶつ言っている不審者に見えるぞ。



話に飽きてきた吾輩は改めて周囲を観察する。

街中には露店が出ていて、いろいろな商品を売っていた。

果物、肉、野菜などはもちろん、それを料理したものらしき物も売っていた。

ここならなかなかうまそうなものが食えそうであるな!

吾輩は期待に胸を膨らませる。

ちなみにランドは案の定、周りから変な目で見られていた。



だらしない顔をしながらしゃべっていたランドの顔が急に真剣な表情になった。


「よし、ついたぞ。ここが俺の家だ」


ランドはそう言って、とある家の前に立ち止まった。

思っていたよりも大きいであるな。

ランドの家は家族3人で暮らすには十分な大きさだった。

2階建てであるので、階段で遊ぶこともできそうである。

吾輩は階段からゴロゴロ降りて遊ぶのも意外と好きなのだ。



「クロマル。オレは今までの様子からお前が言葉が理解できると確信している」


ランドが真剣な表情で吾輩に語りかける。


「だからこそ、お前にお願いがある」



「クロマル、リンの友達になってくれないか?」

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