放課後の日課

 ゴールデンウィークはあっという間に過ぎた。

 長期連休とか言われてるけど、前後の大きな休みに比べてば短いものだ。

 出された課題に取り組んでいたら、なんだかんだですぐ終わってしまう。

 去年と同じ、何もない休み期間……。


 と、言うわけでもなかったのが不思議だ。

 夢原さんと過ごした一日……正確には数時間でしかないけど、楽しい時間だった。

 たった数時間があったお陰か、今年のゴールデンウィークは充実している。

 そんな気がする。


 あとは最終日の夜に、リョウスケから電話が来たくらいか。

 内容は案の定、宿題やってないから見せてくれ、だった。

 もちろん、自分で頑張れとエールを送って切ったよ。


 そうして俺のゴールデンウィークは終わり、登校日になった。


 朝、いつものように支度を済ませて学園に向かう。

 出発前に夢原さんに言われたことを思い出したけど、時間的に余裕がなかったから断念して、いつものように電車に乗った。

 ちょっとは歩く意思があったんだ。

 次からは……うん、気が向いたら挑戦してみようかな。


 電車に揺られ、最寄りの駅に到着した。

 学園からは二つの駅が近くて、俺がよく使う液は学園の西側。

 ゲーセンへ行くときは、学園の東側の駅に行く方が近い。

 駅を出るとチラホラと、同じ制服を着た人たちが見受けられる。

 しばらく歩いて、学園の建物が見え始めた頃。


(そろそろかな?)


 大体いつも同じ時間に、彼女は元気よくやってくる。


「おはよう!」


 声だけで誰かわかる。

 いや俺じゃなくてもわかるだろう。

 彼女は学園の王子様だから。


「白濵君」

「おはよう、夢原さん」


 彼女は毎朝、登校の時に知り合いを見つけるとこうして挨拶をくれる。

 別に自分が特別ってわけじゃない。

 クラスメイト、同学年ならみんな受けられる恩恵、みたいなものだ。

 それでも今は、ちょっとだけ嬉しかったりする。


「今日も元気だね、夢原さんは」

「私はいつも元気だよ? そういう白濵君は?」

「俺は普通」

「そうじゃなくて――」


 ふいに耳元で、俺にしか聞こえない声量で彼女は呟く。


「ちゃんと運動しなきゃ駄目だよ?」

「――!?」


 サボったことがもうバレてる?


「ら、らじゃー」

「ふふっ、じゃあまた教室で!」


 そう言って彼女は走り去っていく。

 次に見つけた人にも挨拶をして、他愛のない会話をしているのだろう。

 王子様として、みんなが満足する対応を。

 今の一言だけは、王子様としてじゃなかっただろうけど。


「なんでわかったんだ?」

「何が?」

「いや、運動して――ってリョウスケ!?」

「うお! そんな驚くなよ! オレまでびっくりするじゃん!」

「わ、悪い……」


 いつの間に来てたんだリョウスケの奴……。

 全然気づかなかったぞ。


「で、運動がどうしたって?」

「いや別に。俺も偶には運動したほうがいいかなって思っただけだよ」

「へぇ~ そんなこと夢原さんに言われたのか?」

「え? なんでそうなるんだよ」

「だってなんかさっき話してたろ?」


 リョウスケにしては鋭いと思ったら……。

 そこから見られていたのか。

 

「違うよ。夢原さんとはー、単に世間話してただけ。ほら、宿題やったかとか」

「うっ……宿題……聞きたくない」

「それは休み前にも聞いたセリフだな」


 この様子じゃ、結局どうしようもなかったんだろうな。

 自業自得だから同情も一切しないけど。

 宿題という単語のお陰で話題は切り替わり、夢原さんのことは以降聞かれなかった。

 一先ず変な誤解はされずにすんでホッとする。

 今後は俺も気を付けないと。

 あらぬ誤解をされたら、きっと夢原さんも迷惑だろうし。


 そんなことがあり休み明けの一日目。

 気を付けるとか言っても、そこまで学園の中で接点はない。

 隣の席という状況も、押し寄せる女子たちでかき消されているし。

 特に何事もなく放課後を迎えた。


夢原:今日もよろしく!

白濵:ラジャー!


「……よし」


 今日も放課後は夢原さんとカフェに行く。

 休み中も王子様として女子たちの相手をしていたっぽいし、かなり愚痴も溜まっていそうだ。


「なぁタクト! 偶にはどっか遊びに行かね?」

「え、これからか?」

「おう。ゲーセンでも行こうぜ!」

「なんだ二人とも、これから遊びに行くの? ならあたしも行く!」


 俺たちの所にサキもやってくる。


「おっ、珍しいな。部活は良いの?」

「今日は休みなんだよ。それでちょうど暇だったからさ」


 サキは軽音部に所属している。

 普段は部活で忙しくて、放課後に遊ぶなんてほぼない。

 ひと月に一回か二回ある程度のレアな日だ。

 そういう意味では惜しいけど……。


「悪い。俺、このあと予定あるから」

「お、そうなのか?」

「へぇ~ タクトが放課後に予定あるって珍しいね? なんかやらかした?」

「人聞き悪いこと言うなよ。リョウスケじゃあるまいし」

「オレもなんもやってないぞ!」


 そうだろうな。

 やってないだろうな……宿題も。


「というかリョウスケお前、宿題終わってないだろ? まさか終わってた……とか」

「安心しろ! 一ミリも終わってないぜ!」


 安心の意味って知ってるのかな?


「だが補修は明日からなんでな。だから今日くらい遊ぼうと思ったんだけど……予定あるならしゃーないな。んじゃサキちゃん!」

「イヤだ」

「まだ何も言ってないのに!?」

「お前と二人で遊ぶとかないわ~ タクトならまだしも……身の危険を感じるし。後ちゃん付けキモイからやめて」

「酷っ!」


 やだやだあっち行けとジェスチャーするサキ。

 割と本気で嫌がってそうな顔がリアルだ。


「つーか身の危険ってなんだよ! オレが手を出すとでも思ったか? うぬぼれるなよちっぱいが! お前みたいなちっぱ――ぐえっ」

「悪霊退散」

「今のはリョウスケが悪いな」


 サキの拳が鳩尾にクリーンヒットして倒れ込むリョウスケに合掌。

 この二人はいつも賑やかだな。

 二人と一緒にいる時間も嫌いじゃないし、楽しくはある。

 誘いを断るのは勿体ないけど、今はどうしても外せない予定が……いや、日課があるんだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


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