似た者同士②
俺は夢原さんと友達になった。
みんなが知る学園の王子様じゃなくて、ただの夢原さんと知り合って、友達になったんだ。
だからというわけじゃないけど、俺たちが友達になったことは、他の誰にも話していない。
彼女が演じている彼女らしさを守るためにも、この関係は隠したほうが良いだろう。
そういうわけで、学園の中じゃほとんど接点はない。
席が隣同士だけど、休み時間は取り巻きの女の子たちに占領されるし。
酷い時なんて、こっちの席まで押し寄せてきて、男の俺には居場所がなくなるんだから困りものだ。
そんな感じだから、学園の中で話す機会なんてほとんどない。
だから俺たちはこっそりと……。
タクマ:今日も学校帰りにあの喫茶店で良い?
スマホを取り出し、夢原さんにメッセージを送る。
すると一瞬で既読がついて。
ユウキ:りょーかい!
と、元気のいい返事がきた。
あの日、夢原さんとゲーセンで会った時に連絡先を交換しておいたんだ。
どうせ学園の中じゃロクに話せないだろうと、俺も彼女もなんとなく予想していたから。
学園じゃ出来ない話をしたり、学園での愚痴を聞いたり。
あとはみんなにバレずに約束を伝えたりする。
◇◇◇
放課後。
部活にも入っていない俺は、普段なら真っすぐ家に帰る。
それかリョウスケに誘われて遊びに行くとか。
基本的にはその二択。
「なぁタクト、ゲーセン寄ってかね?」
「悪い。今日はちょっと予定があるんだ」
「そうなのか。んじゃまた今度だな」
「ああ」
ただ、最近は二択でもなくなった。
リョウスケからの誘いを断るのは申し訳ないけど、先約があるから仕方がない。
俺はリョウスケが去っていくのを確認して、少し間を置いてから同じ方向へ歩き出す。
あいつも同じ方向の電車に乗るからな。
下手に一緒に行くと、目的地までついてくることも考えられる。
そうなったら困るんだよ。
俺はさながら罪を犯して逃げる犯人のように、周囲に視線がないかびくびくしながら駅に向かった。
電車で向かったのは隣町。
あのゲーセンから少し行ったところに、古いけどおしゃれなカフェがある。
俺には似合わない場所だと理解しつつも中へ入る。
ガラガラの店内で一席、一番奥に見つけた人影に、俺は声をかける。
「夢原さん」
「白濵君!」
「待たせてごめんね」
「ううん。私もさっき着いたばかりだよ。注文もまだだから先にしちゃおっか? 私はアイスティーにするけど白濵君は?」
「じゃあ俺はコーヒーにするよ」
「りょーかい! すみませーん!」
夢原さんが店員に声をかけ、二人分の注文を済ませる。
その間に俺は、彼女と向かい合わせに座った。
程なくして、店員がアイスティーとコーヒーを運んできた。
二人して一口飲み、気の抜けた息を吐く。
「はぁ~ やっと落ち着けるよ」
「今日も大変そうだったね」
「本当だよ! まぁ自分の蒔いた種だし、誰を責めることもできないけどさ」
「あははっ、それはそうだろうね」
コーヒーを飲みながら、学園での愚痴を聞く。
最近ではこれが放課後の日課になり始めた。
文章だけでは発散できない感情を、こうして直接口に出して話すことで発散しているわけだ。
「ここ良い所だね。静かだし、雰囲気も」
「でしょ? 私のお気に入りの場所なんだ。前からよく一人で来て、学園での反省をしてたんだ」
「反省って……」
そんなことまでしていたのか。
真面目というか、神経質というか……。
「一人になってゆったり考え事が出来るから良いんだ」
「そんな場所を俺に教えて良かったの?」
「うん! 白濵君はお友達だからね! こうやって愚痴も聞いてくれるし、やっぱり誰かに話したほうがスッキリするよ。ありがとう」
「これくらい、どういたしまして」
頼られるのは嫌いじゃない。
だからこうして話し相手になるのも、悪い気分じゃなかった。
むしろ光栄とすら思う。
誰かの愚痴を聞いたり、相談を受けたり、こんなこと……俺には縁遠いと思っていたよ。
ましてや何の接点もなかった学園の王子様と。
「実はね? 私、最初から白濵君のことが気になってたんだ」
「……え?」
唐突に聞こえた彼女の一言に、思わず俺は動揺する。
一口飲もうと手に取ったコーヒーカップの動きを止めてしまうほど。
気になってた?
それって、え、どういう意味?
らしくもなく頭の中でテンパる。
まさかの可能性が脳裏に過って動揺するなんて、俺も思春期の男の子なんだと改めて自覚する。
ただ残念ながら、頭に浮かんだ想像はあくまで可能性でしかなかった。
彼女はゆっくり口を開く。
「なんていうか、似てる気がしたんだ」
「似てる? 何が?」
「私と白濵君が、だよ」
「俺たちが……似てる?」
夢原さんはこくりと頷き、続きを話す。
「白濵君ってさ、あんまり自分を表に出さないよね? 誰かと話している時も、相手に合わせてリアクションを取ってるだけ。楽しい会話をしてても、顔は笑ってるけど心からは楽しめていないように見えたんだ」
「それは……」
当たっている。
彼女が言うように、俺は他人との会話を楽しめていない。
楽しい風を装っているだけで、上辺だけの付き合いだ。
「相手に踏み込むこともしないし、相手に踏み込ませることもしない。いつも一線引いて話してる。仲良くなれなくて良いから、敵にはならないように」
「……まったくその通りだよ。よくわかるね」
「わかるよ。私も同じだから。自分を出さないように、嫌われないように……そこがほら、似てるって思ったんだ」
「夢原さんに比べたら、俺なんて大したことないと思うけどね? でも……そうだね。確かに似てるかな」
俺と夢原さんは似ている。
置かれている立場こそ違うけど、やっていることは同じだ。
自分を隠し、偽って、上辺だけの付き合いをする。
そうやって生きてきた。
俺も、彼女も……。
「なら、俺たちは似た者同士だな」
「うん! だから友達になりたいって、思えたんだと思う」
「……そっか」
だとしたら、俺たちがこうして出会い友達になったことは、単なる偶然じゃないのかもしれないな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
ご愛読ありがとうございます。
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