初めてな二人①

「そういえば夢原さん、この間買ってた漫画ってもう読んだの?」

「もちろん! 今回も良い胸キュンだったよぉ~」

「そ、そうなんだ」


 夢原さんは好きな少女漫画の話になると、目が蕩けてうっとりするな。

 

「あの作者の描く女の子がとにかくカワイイの! 女の子らしくてキラキラしてて憧れるなぁ」

「随分惚れ込んでるね。じゃあ他の作品も読んでるの?」

「ううん、まだだよ。いっぱい出してる作者さんだからさ。昔のも含めると中々揃えられなくて……」

「だったら貸そうか? 俺の家にあると思うよ」

「本当!?」


 恐ろしいほど素早い食いつきを見せた夢原さん。

 テーブルに身を乗り出して顔を近づけてくる。

 瞳はキラキラしていて、あの日と同じ期待を俺に向けてくる。


「あ、うん。もしよければ」

「ぜひ! でもなんで白濵君が持ってるの? 白濵君も少女漫画読むの?」

「あー、俺は上に姉ちゃんがいてさ。その影響で少女漫画もあって、小さい頃から読んでたから知ってるんだよ。だからそれなりに話は分かるほうだと思う」

「そうなんだ! じゃあ今度おすすめの少女漫画について語り合おうよ!」

「俺のおすすめで良いなら」


 夢原さんは元気よく「もちろんだよっ!」と答えてくれた。

 漫画を貸す約束も、一先ず俺が選んで数冊持ってくることになった。


「いいねいいね! 白濵君と少女漫画の話が出来るなんて思わなかったよ」

「俺もだよ……」


 たぶん、夢原さんより俺のほうが似合わない。

 少女漫画は女の子が読む物で、男が読むような物じゃない。

 偏見かもしれないけど、そう思う人が多いことは事実だ。

 少女漫画が好きってだけで、女々しいとか男らしくないとか思われそうで……。

 人前では話せないことだと思っていたから、こうして夢原さんと話が合うことにホッとしている。


 彼女と友達になって二週間と少し。

 こうやって放課後に隠れて会う機会が増えて、いろんな話をしてきた。

 お陰で少しずつ、彼女のことを知れたよ。


 夢原さんは可愛い物が大好きだ。

 ぬいぐるみとか、フリフリのドレスなんかも好きらしい。

 漫画も大好きで、少女漫画だけじゃなくてバチバチの少年漫画も大好物。

 作品によっては俺より詳しいまである。

 それからゲームも好きらしい。


 女の子らしい乙女ゲー、はそこまでらしくて、シューティングとバトル系のゲームのほうが好きだそうだ。


 聞けば聞くほど、彼女らしくない。

 俺が学園で見ていた彼女は、そういう娯楽とかには興味がなさそうだった。

 漫画やゲームをするより、スポーツをしているほうが好き。

 一人で遊ぶより、誰かと一緒に話しているほうが良い。

 そういう風に見えていた。

 けどそれは、周囲から押し付けらえたイメージで、本当の彼女は別にある。

 王子様らしくない彼女と接して、こうして話をしながら、俺にもようやくわかってきた。

 

 何より感じるのは……。


「じゃあさ! バトル漫画でおすすめはある? 出来れば派手なやつ!」

「あるよ。そっちも選んでおく」

「やった! ありがとう白濵君」


 好きな物を語る時に見せる笑顔はとても自然で、偽りのない本物の感情が溢れ出る。

 その笑顔は可愛くて、女の子らしいと思う。

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