初めてな二人②

「はぁ~ 今日もいっぱい話したぁ~」

「お疲れ様」

「今日も付き合ってくれてありがとう! ごめんね? 私ばっかり話しちゃって」

「気にしないで。俺だって嫌々来てるわけじゃないから」


 夢原さんと話す時間は、正直に言って楽しいんだ。

 普段は見せない彼女の姿が見られて、優越感を感じるってこともそうだけど。

 話している内に、お互い意外と趣味趣向が似ていることもわかったから。

 単に話の合う友人が出来て嬉しいんだと思う。


「俺も学園じゃ出来ないような話が聞けるし、これはこれで楽しいよ」

「そう? なら良かった」


 そう言って夢原さんはカップに残っていた紅茶を飲み干す。

 話していると喉が渇くからペースは速い。

 俺もいつの間にか、カップが空になっていた。

 

「白濵君、今って何時?」

「えっと、六時半だね」


 俺の位置から店内に壁掛けされている時計が見える。

 時計の長針がちょうど三十分を越えた所だ。

 

「思ったより早いね。もっと時間が経ってると思ってた」

「俺も。意外と経ってなかったんだな」


 いつもなら話が終わる頃、大体七時半くらいになっていた。

 ちょうどそのくらいの時間が、そろそろ帰ろうっていう雰囲気になる。

 今日も同じだと思っていたのだけど……。


「どうする? 今日はここまでにする?」

「うーん……でもまだ時間の余裕はあるし、せっかくだから何かしたいなぁーって思う」

「何かねぇ」


 いつもの時間に解散するなら、あと一時間くらいか。

 普通にこのまま話を続けても良いけど、夢原さん的には他のことがしたいっぽいな。

 せっかくだから、なんて夢原さんの口から出るなんて意外だった。

 いや、嬉しかったのか。

 俺と一緒にいるこの時間が、彼女にとって嫌いじゃないって再確認できたから。


「あっ! それならあそこ行こうよ!」

「あそこ? どこ?」

「私たちが偶然会った場所!」

「ああ、ゲーセンか」

「うん!」


 夢原さんは無邪気に返事をして頷いた。

 確かにゲーセンなら時間を潰すにはもってこいだ。

 俺たちはカフェを後にして、近くにあるゲームセンターに足を運んだ。

 中に入ると、他にお客さんの姿はない。


「この前もそうだったけど、お客さん少ないな」

「うん。ここはいつ来てもこんな感じだよ」

「それ……大丈夫なの? 経営的に」

「さぁ? でもかなり前から続いてるみたいだし、きっと大丈夫だと思うなぁ」


 確かに建物は古い。

 スマホで調べたら、二十年以上前から営業しているそうだ。

 だから大丈夫、ってことはないし、むしろいつ潰れてもおかしくないのだけど。

 出来ればずっと続いてほしい。

 学園の生徒もいないし、夢原さんが楽しめる穴場だからな。


「わぁ~ やっぱりこのぬいぐるみ可愛いなぁ~」


 ガラスケースに顔を近づけて、中身のぬいぐるみを見つめる。

 こんな夢原さんが見られるスポットを失うなんて、もったいないだろ。


「それ、もう持ってるよね?」

「うん! この前白濵君がくれたからね! あの時はありがとう!」

「それは良いよ、お詫びだったし。持ってるなら良いんじゃない?」

「ダメダメ、こういうのはいっぱい並ぶともっと可愛いんだよ?」


 そういうものなのか?

 俺にはあまりピンとこないけど、夢原さんが熱心に語るくらいだし、そういうことなんだろう。


「はぁあ~ 出来ればここにあるの全部並べたいなぁ~」

「ぜ、全部って……」


 ケースの中には大小それぞれのぬいぐるみが並んでいる。

 全部なんて揃えたら、シングルベッドがぬいぐるみで埋まるレベルだぞ。

 そもそも……。


「そんなに取っても持ち帰れないけど?」

「うっ、そんなのわかってるよ。冗談だよ、じょーだん」

「そうかのか」


 それにしては本気でほしそうな顔をしていたけどね。

 夢原さんの可愛い物好きは俺が思っている以上なのかもしれない。


「まぁ一つか二つくらいなら持って帰れるんじゃない?」

「そ、そうかな? 一つくらいなら良いかな?」

「うん。ほしいなら挑戦してみたら?」

「それは……無理だよ」

「え?」

 

 今の流れでどうして否定?

 とか思ったけど、理由はすぐに彼女の口から語られた。


「私その、こういうゲームって苦手だから」

「苦手って、何度かやればそのうち……あっ、そういえばあの時も……」


 確か、あの熊のぬいぐるみに挑戦して一万円くらい溶かしたんだっけ?

 今も同じぬいぐるみはある。

 見るからに大きくて、凹凸もあるし位置も落としやすそうだ。

 

「あのさ、試しに一回やって見せてくれない?」

「え、私がやるの?」

「うん。だってほしいのは夢原さんでしょ?」

「そ、そうだね……うん! 頑張るよ!」


 ガッツポーズをした夢原さんは財布から二百円を取り出し、クレーンゲームに入れる。

 ボタンは三つ。

 横移動、前後移動、アームを降ろす。

 タイミングさえ合っていれば、そこまで難しいわけじゃない。

 今のぬいぐるみの位置なら、アームが当たるだけでも倒れて落ちそうだ。


「よ、よし」

 

 アームが横に動く。


「こっちで……」


 ピタリと止まり、今度は奥へ。


「ここだ!」


 狙いを定めて、アームが開き下降する。

 ウィーンと音を立てながら下がったアームは思いっきり空を掴み、何に触れることもなく元の位置に戻った。


「あ……」

「夢原さん……下手過ぎじゃない?」

「うぅ……」


 悔しそうな顔を見せる夢原さんを見て思う。


 ごめん、ハッキリ言うつもりはなかったんだけど……。

 あまりに下手過ぎて我慢できなかったよ。

  

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