初めてな二人③

 誰にでも向き不向きはある。

 運動が苦手な人もいるし、勉強が苦手な人もいる。

 どっちも苦手な人も、まぁ少なからずいる。

 しかし何事も限度というものは存在していて、それを越えるもしくは下回る場合、ふざけているとしか思えない。

 今回の場合もそれに当てはまって……。


「え? ふざけてる?」

「ふ、ふざけてないよ! ちゃんと真剣に狙った結果がこれなの!」

「へぇ……なるほど」

「もう、だから苦手だって言ったでしょ!」


 プンプン怒りながら悔しそうにムスッとする夢原さん。

 確かに苦手とは聞いたけど、想像以上だった。

 狙いが外れたことはこの際置いておこう。

 あれだけ敷き詰められたぬいぐるみたちに、アームがかすりもしないなんて。

 これはこれで才能がいるな。


「はぁ……何度やっても上手くいかない」

「でも夢原さんゲーム好きなんだよね? シューティングとかってそれなりにプレイスキル必要でしょ?」

「そうだけど、私は別に上手いなんて一言も言ってないよ」

「ああ、そういえば」


 つまり下手なのか。

 そこを突っ込むつもりはない。

 下手でもゲームを好きと言えるのは、本当に好きだという証明だからな。

 いや、そうじゃなくても意外ではある。


「夢原さんってスポーツも得意みたいだから、こういうタイミングを計るゲームも得意だと思ってたよ」

「べ、別に……私はスポーツが得意なんかじゃないよ。むしろ苦手だよ」

「え、苦手? あれだけ動けるのに?」


 よく体育の時間とか、女子にキャーキャー言われてるぞ。

 俺も凝視したわけじゃないけど、何度か目立つ良いプレーはあったと思うし。

 噂じゃ部活にもスカウトされたって聞いたけど。


「あれはその、練習したんだよ。格好悪いって思われないように」

「そ、そうだったんだ……」

「うん。結構頑張ったんだよ? 昔から男の子と一緒に遊んでる時も、体力なくてすぐばてちゃうし。足も遅いから鬼ごっこすると誰も捕まえられないし」


 次々に出てくる昔話。

 見た目やイメージとは裏腹に、運動が苦手だった夢原さん。

 笑われたくなくて、影で努力を重ねていたようだ。

 素直に凄いと思った。

 自分の苦手と向き合って、得意だと思わせるくらい成長するなんて。


「俺とは違うな」

「え? 何か言った?」

「いやなんでも。だったらクレーンゲームだって練習すれば上手くなるんじゃない?」

「そう思うけど……これはほら、お金が減っていくから」


 その一言でなるほど、と理解した。

 一回に百円は高校生にとって少なくない。

 一万円も溶かしていたら、俺なら発狂ものだ。


「失敗したらお金が無駄になるって思うと、余計に緊張しちゃうんだよ」

「なるほどね。じゃあさ? 俺がタイミングは教えるから、もう一回やってみない? タイミングのコツさえ掴めれば上手くなると思うんだよ」

「それ良いかも! ご指導よろしくお願いします先生!」

「先生って……」


 結構こういうノリも良いんだよね、夢原さんって。

 彼女からの提案で、一人百円ずつ入れてプレイすることにした。

 なんだか二人の共同作業って感じで変に緊張する。

 夢原さんの方は気にしていないのか、むしろワクワクしているみたいだ。

 

「じゃあいくよ」

「うん!」


 夢原さんがボタンを押す。

 アームが正面に来たところでストップをかける。

 続けて奥にアームを移動させる。

 左右から覗ければ楽だけど、ゲーム機の位置的にそれは難しかった。

 これに関しては感覚で、自分の距離感を頼りに選択する。


「ストップ!」

「はい!」


 あとはアームを下げるだけだ。

 パッと見、いい位置にアームがきている。

 ウィーンと下るアームはぬいぐるみの頭をガシっと掴み、そのまま穴へと落とした。


 カラカラコンッ!


「やった! 取れたよ白濵君!」

「そんなに喜ぶこと?」

「嬉しいよ! だって初めて自分で取れたんだもん!」

「そっか。なら良かった」


 思った以上に喜んでもらえて嬉しい。

 半面、ちょんと照れくさい。

 しかしさっきの落下音、金属っぽい音が混じっていたような気が……。


「あれ? もう一つ落ちてるよ?」

「え?」


 夢原さんがぬいぐるみを下から取り出す。

 どうやらほしかったぬいぐるみ意外にもう一つ、キーホルダーが落ちていたらしい。

 さっきの落下音はそういうことかと納得する。


「こっちもぬいぐるみだ!」

「同じクマの小さいやつだね。カバンとかに着けれるタイプだ。たぶん動かすときの衝撃で一緒に落ちたんだろうね。ラッキーだよ」

「うん! でもこれ……」

「夢原さん?」


 彼女は手にした大小二つのぬいぐるみを見つめる。

 可愛さに見惚れているわけでもなく、何かを悩んでいるようで……。


「決めた! こっちは白濵君にあげる!」

「え!?」


 そう言って差し出してきたのは、大きい方のぬいぐるみだった。

 あげると言われたことも驚きだけど、大きい方は彼女がほしかったものだ。

 渡すなら偶然手に入れた小さい方じゃないのか?


「い、いや、これは夢原さんがほしかったものでしょ?」

「うん。でも取れたのは白濵君のお陰だから! それに私はこっちの小さい方を貰うから良いよ! これは私からの御礼だから」

「お、お礼?」

「うん。私に付き合ってくれてる御礼!」


 夢原さんはニコリと笑い、楽しそうに話し出す。


「私さ、こんな風に誰かと……好きなことを一緒にやれるって思ってなかった。友達と遊ぶことはあっても、みんなの前では王子様だから。でも今は違う。ちゃんと……私のままで遊べる。だからすっごく楽しいんだ!」

「夢原さん……」

「こんなに楽しいのは白濵君のお陰だと思う。初めて……ちゃんと友達と遊べた気がするよ。だから御礼、受け取ってくれると嬉しいなぁ……なんて! 取れたのは白濵君のお陰だし、こんなんじゃ御礼にならないと思うけど」

「……いや、そんなことないよ」


 ぬいぐるみなんて俺には似合わない。

 嫌いじゃないけど、好きでもない。

 貰っても部屋に飾ってあったら不自然だって想像も出来る。


 それでも、これは受け取るべきだと。

 受け取りたいと思えたんだ。


「ありがとう。御礼はちゃんと受け取るよ」

「白濵君……」


 彼女は、これが初めてだと言った。

 たぶん俺も同じなんだ。

 今日に限った話じゃなくて、彼女といる時間は初めてのことがたくさん起こる。

 それは楽しくて、眩しい日々で。

 願わくばずっとこの先も、続いてほしいと思うから。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


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