お似合いって何?
彼女が告白された日の放課後も、俺たちは当たり前のようにカフェで集まった。
俺が見ていたことを彼女は知らない。
覗いていたと思われたくないし、知らないフリをしようと思う。
向こうから話さない限り、その話題も出さない。
もっとも表情を作るのは上手い彼女だ。
なんだかんだ今日も、いつも通りの時間になる気が……。
「……はぁ」
していたんだけど……。
明らかに普段通りじゃない。
王子様でもないし、無邪気な女の子って感じでもない。
言うなれば、悩める乙女だ。
「夢原さん何かあった?」
「え?」
「え、じゃないよ。どう見ても何かあったよね」
その態度は聞いてくれと言ってるようにしか見えないな。
俺も気になっているから、聞けてラッキーだけど。
「あー……その、実はね? 今日の昼休みにさ……告白されたんだ」
「へ、へぇ~ また女の子?」
知っているのに白々しく俺は尋ねた。
すると夢原さんは、モジモジしながら答える。
「それが、男子生徒なんだよ」
「そう……なんだ」
知ってるよ。
偶然だけど、そん現場を見てしまったからね。
「相手は?」
「三年生で、朱雀慎二っていう先輩。結構有名って本人が言ってたんだけど、白濵君は知ってる?」
「いや、知らない名前だね」
これは本当に知らない。
上級生との接点は皆無だし、そうでなくても俺は自分から他人に関わらない。
夢原さんのように身近な有名人でもなければ、多少知られていても俺には届いていないと思う。
「そっか。私も初めましての人だったんだけどさ? なんか、付き合ってほしいって言われちゃった」
そう言って少し照れる夢原さん。
女の子ばかりに告白される彼女にとって、男子生徒からの告白は喜ばしいことなのだろうか。
なんだこれ、凄く嫌だな。
「そっか。良かったね。この間話してたことが実現してさ」
「え、うん。それはそう……なんだけどさ。返事をまだしてないんだ。突然のことで驚いちゃって、ちゃんと返せてない」
「……そうなんだ。どうするつもりなの?」
「うーん……」
ドクッ、ドクッ――
なんでこんなに心臓がうるさいんだ。
緊張しているのか?
どうして?
別に俺には関係のないことだろう。
これは夢原さんの問題なんだから。
ただ……ざわつくんだ。
「断るつもりだよ」
「――え」
「あ、あれ? 断るって変だった? こういう場合って断っちゃ駄目なの?」
「いやそうじゃない! ん? 断っちゃ駄目なルールとかあるのか? ないよ普通! でも、ちゃんと決めてるならその場で返事すれば良かったのに」
自分でもわけがわからない。
断ると聞こえて、胸の奥にあったざわつきがさっと消えた気がする。
「そうなんだけど、どう断れば良いのかわからなくて。だから……白濵君にね? 相談しようと思ってたんだ」
「俺に? 俺に聞かれてもそんな経験ないし、普通に断れば良いんじゃないかな? 別に、好きとかじゃないんでしょ?」
「うん。だって知らない人だし、告白は驚いたし嬉しくはあったけど、好きでもない人とお付き合いは出来ないよ」
「そっか。ならそれをそのまま伝えれば良いんじゃないかな?」
重たい空気から一変して、自然と会話が続く。
俺の中にあった奇妙な苛立ちも、胸のざわつきも、今はどこかへ消えてしまった。
どうしてだろう?
考えても、そのどちらも消えてしまって感じられないからわからない。
結局、この日は断る言葉を一緒に考えて、翌日に返事をすることを決めた。
夢原さんには、不安だから近くで見ていてほしいとも言われた。
もちろん俺は良いと答える。
告白も見てしまったし、ちゃんと断れるかも見ておきたい。
この時にはもう、告白の問題は片付いていた。
俺と夢原さんの中では……。
◇◇◇
「ねぇねぇ夢原さん! あの朱雀先輩に告白されたって本当!?」
「え、なんでそれ……」
「やっぱりそうなんだ! すっごーい! 朱雀先輩ってこの学園で一番格好良い男子だよ! 学園のもう一人の王子様!」
翌日の朝から、その話題で持ちきりだった。
彼女の周りに集まっている女子たちがしきりに告白の話をしている。
(……どういうことだ?)
いつの間に噂が広まった?
他にも見ていた人が誰かいたのか?
「すっげー賑わいだな」
「リョウスケ……」
「タクトも知らなかったのか? 告白の件」
「いや俺は……というかどうやってみんな知ったんだ?」
「ん? なんか三年で本人が公言してたらしくてな? それが速攻下の学年まできたんだよ」
「なっ……」
自分から告白したことを周りに話したのか?
凄い勇気……自信だな。
別に本人がしたことだし、それを誰に言うかは本人の自由ではあるけど……。
けど、相手は夢原さんだぞ?
「言えばお祭り騒ぎになることくらい予想できるだろ」
「わざとなんじゃねーかなー?」
「わざと?」
「だって、ほら見ろよあれ」
そう言ってリョウスケは群がる女子たちを指さす。
「いいないいな夢原さん! 朱雀先輩に告白されるなんてすごいよ!」
「えっと、ありがとう」
「そうよね! 夢原さんに告白とか身の程をって普通なら思うけど、朱雀先輩は格好良いしなんか優しそうだしさ! 言われてみればお似合いの二人だよね!」
「そ、そうかな……」
女子の周りから飛び交っているのは、ほぼ全て肯定的な意見ばかりだった。
俺は眉を顰める。
「あれじゃ本人がどうあれ、断る感じじゃないだろ?」
「……そのためにわざと話したのか」
「知らねーけどな。ただ自信満々に話しただけって線もあるし、俺もその先輩のことそんな知らねーからさ。けどあんだけ周りが盛り上がっちまうとなぁー」
リョウスケの言う通りだ。
周りの意見はもはや、夢原さんが断るなんて眼中にない。
彼女に彼氏が出来るというニュースに湧き上がっている。
やれお似合いの二人だの、羨ましいだのと。
そんな言葉ばかりが飛び交っていた。
「……お似合いって何がだよ」
ぼそりと口にしたとき、スマホが震える。
画面を見ると、夢原さんからだった。
周りが湧き上がっている隙をついて、俺にメッセージを送ってきたらしい。
内容は……。
ユウキ:どうしよう白濵君!
みんな私が付き合う感じになっちゃってるよ!
救いを求める内容。
チラッと彼女の方を見ると、困っているのは伝わった。
だけど、この時の俺は消えていたはずの苛立ちに苛まれていたんだ。
タクト:俺はわからないよ
それは自分で考えれば良いと思う
イラついて、ざわついて。
行き場のない怒りをそのまま彼女に向けてしまった。
なんでこんなに苛立つのか?
その答えから逃げるように……。
俺は彼女から目を逸らした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
ご愛読ありがとうございます。
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