怪しい二人①
週末の金曜日。
明日からまた休みだからと喜ぶ生徒も多い。
そんな中、異様にテンションが高い男が目の前にいた。
「おっしゃ遊ぶぞぉー!」
「うるさっ! どんだけテンション高いのよこいつ」
「補習が昨日で終わったからだろうな」
「ああ……」
俺とサキで冷ややかな視線を送る。
それにも気づかずリョウスケはハイテンションのままだ。
そんなに補習が辛かったのか?
だったら最初から宿題を……と言っても無駄だから言わない。
「よーしタクト! 放課後は約束通り遊ぶぞ!」
「いや約束した覚えないけど?」
「そ、そんな! お前は快くオーケーしてくれたはず!」
「むしろ断ったよな?」
勝手な記憶の改ざんは止めてもらいたいな。
どう思い返してもちゃんと断っているよ。
「でもさタクト、予定が入るかもーって理由で断ってたじゃん? 昨日の段階じゃまだわかんない感じだったよね?」
「おーそうだった! そこに気付くとはさすが我が親友!」
「黙れ寄るな臭い」
「臭くはないだろ!」
サキに縋るように近づいたリョウスケ。
思いっきり顔面を蹴り飛ばされてるのによくめげないな。
こいつの無駄な根性だけは見習いたい所ではある。
無駄だけども。
「んで、タクトは結局予定入ったの?」
「まぁな」
「ふぅーん、そうなんだ」
「な、なんだよ」
サキは意味深に俺のことをじっと見つめてくる。
訝しんでいるようにも見える。
リョウスケの顔面は踏んづけたままだけど。
「最近多いよね? タクトが放課後に予定あるって」
「ま、まぁな」
「ぶっちゃけ何してるの? 無趣味なタクトが頻回に予定入るなんて信じられないんだけど」
「失礼だなぁ」
まぁ無趣味なのは本当だけどね。
実際あれがなかったら、放課後はまっすぐ家に帰るよ。
「それオレも気になってた! お前なんか始めたのか?」
「いや? 特に何もないよ。予定っていうのも……お遣いみたいなものかな?」
「お遣い? 姉ちゃんの?」
「まぁそんなとこ」
なんて、思いっきり嘘なわけだが。
俺の姉を知っているリョウスケなら、あながち嘘じゃないって思うはずだ。
ま、姉ちゃんは大学生で一人暮らししてるから、ほとんど家には帰ってこないけどね。
リョウスケは知ってるはずだけど……忘れてるだろ、たぶん。
「なるほどな! そういうことなら納得したわ」
よし騙せた。
こいつが馬鹿に単純で助かった。
「そういうわけだから一緒に遊べない。また今度な」
「お、おう……そうだった……じゃあ今日はサキちゃんとデー」
「するわけないじゃん? 土に還りたい?」
「だから酷いって!」
二人がイチャついてる間にささっとカバンを持って、逃げるように教室を出る。
誘いを断るのはやっぱり申し訳ない。
騙すのも本当はやりたくないけど、俺と夢原さんが一緒にいるなんて知られたら大変だ。
俺の命と、夢原さんのイメージが。
◇◇◇
タクトが教室を出て行く。
その後ろ姿をサキはリョウスケを蹴り飛ばしながら見ていた。
「はーあ、二人に振られちまったー」
「……あんたこの後暇なのよね?」
「え? そうだけど? はっ! まさかサキちゃん実はオレと――」
「ありえないから。キモイ妄想も大概にしろ?」
辛辣な言葉の刃がグサッとリョウスケの胸に刺さる。
リョウスケは膝から崩れ落ちる。
「じゃあなんだよ?」
「タクトのことなんだけどさ」
「タクト? はっ! オレじゃなくてタクトのこと――ぶへっ!」
言葉じゃなくてリアルな暴力。
サキの拳がリョウスケの右頬をとらえた。
「話進まないから続けるよ?」
「は、はいどうぞ」
いてーと言いながら頬をさするリョウスケに、サキはタクマが去った教室の出入り口を見つめながら尋ねる。
「ねぇリョウスケ、あんたタクトが何してるか聞いてないの?」
「ん? 何って?」
「……その感じホントに聞いてないのね。放課後だよ放課後!」
「放課後? それはさっき確認したじゃねーかよ」
けろっとした顔で答えるリョウスケに、サキは盛大にため息をこぼす。
「あんたねぇ~ あれが嘘ってことくらいわかるでしょ」
「嘘なの!?」
「当たり前じゃない。大体タクトのお姉さんって一人暮らしで家に帰ってこないでしょ? 距離だって結構離れてるし。なんで一週間に何回もお遣い頼んでるわけ?」
「た、確かにそうだ……」
忘れていたことを思い出したリョウスケ。
自分より近くにいる彼が忘れていたことに、サキはさらに深いため息をこぼした。
「じゃ、じゃあなんだ? 嘘までついて何やってんだあいつ」
「そこだよ。タクトが目的もなく毎日出かけるなんて不自然でしょ? あたしたちに隠したい何かがあるってことだと思うんだよね」
「オレたちに隠したい……はっ! あいつまさか彼女でも出来たんじゃ!」
「それならそれで良いんだけどね。あたしが心配なのはもっと別……あいつの性格知ってるとさ? 良くないことに巻き込まれてて、話せないんじゃないかって心配なんだよね」
頼まれたら断らない。
自分の意思が弱く、ハッキリしていない。
二人が普段見てきたタクトはそういう男だった。
悪いことだとわかっていても、押されれば引き受けてしまいそうな……そんな危うさがある。
中学から彼を知っている二人にとって、そこの認識は同じだった。
「そう言われると……なんか不安になってきたな」
「でしょ? だからさ、今から確かめに行かない?」
「え? 今からって?」
「タクトの後をつけるんだよ! どこに行ってるのか。何をしてるのか。良くないことに巻き込まれてるなら友達として見過ごせないでしょ?」
「確かにな! そんときはぶん殴ってでも止めてやる」
「それはさすがにやり過ぎ……って、あたしが言えることじゃないか」
サキも内心、そういうことも頭では考えていた。
「じゃあ行くぞ」
「おう! 放課後探偵団出動だな!」
「……そのくそダサい呼び方は二度としないでね?」
「酷っ!」
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