第2話 “言ノ葉綴リビト”

「私は、“言ノ葉綴リビト”。」



まっすぐ僕を見据えた少女は、そう答えた。


(言ノ葉綴リビト…)


さっき、学校で聞いた噂。


ー『言葉を嫌う者を見つけ、なぶり、痛ぶり、最後に殺す。

断末魔を快楽とする言葉の心酔者。』


彼女はさっき、なんて質問した?


『貴方は、言葉が好き?嫌い?』


僕は、何と答えた?


『答えはNoだ。』


つまり…


「貴方は、文字が嫌いと答えた。文字を嫌う者は、やがて暴言者を宿す、

言ノ葉破ルモノとなる。そうなってしまえば…」


殺される…?


「好きになるまで添うしかない」



・・・・・・・・・


(は?)


今、彼女は何と言った?


(添う?殺すの間違いじゃなくて?)

「私達言ノ葉綴リビトは、言ノ葉破ルモノ…つまり言葉を嫌う者が、暴言者によって

心を喰われないように、その人にとって嫌いな、執着している言葉を倒しながら、

その人に歩み寄って添う役割を担ってる。ようは…言葉のかうんせらー?。

だから相手は常に言葉を嫌っている人。貴方みたいに喋れない人もいるから…

心の声を聴くことも出来る。」


歩み寄って、添う。ただ言葉を嫌う者を殺す、殺人鬼ではなかったのだ。

しかし、新たな問題が生まれた。


(心の声を聴けるってことは…!)

「さっきからずーっと聴こえてた」


恥ずかしい。いや、思考回路を巡らせていただけで、実はあまり心の声を

発してはいないわけだけど…


(じゃあ…なんであんな噂が流れたの?)

「分からない。まず、誰が流した噂か。私達の誰かか、元々

言ノ葉破ルモノだった、もしくは今そうで、傍に言ノ葉綴リビトがいるのか

私達は元々、そういった者にしか会おうとしないから。知る人間は限られる」


誰かが面白がって流したとしても、それは今言った範囲内の者…なのかな。

でも、


(私達、ってことは…他に誰かいる…?それに、君の名前は)


そうやって心の声を発すると、しっかり届いたようで、


「私達言ノ葉綴リビトは、10人。皆それぞれ名前の頭文字がA~Jで始まっている。

私は、言ノ葉綴リビトが4番目。“Diana”。」


10人、言ノ葉綴リビトがいる。Diana…ダイアナ。4番目ということは、

A、B、C、“D”…の順ということだろうか。


「名前順。1番目から、ABCと続いていく。」


『Aria(アリア)』、『Basil(バージル)』、『Charlotte(シャーロット)』、

『Diana(ダイアナ)』、『Elvis(エルヴィス)』、『Fiona(フィオナ)』、

『Gary(ギャリー)』、『Helena(ヘレナ)』、『Isabelle(イザベル)』、

『Jessie(ジェシー)』。


「これが、私達言ノ葉綴リビトの名前。男女5人。キレイに分かれて存在してる」

(キ、キレイに…。)

「私は、言葉を嫌う貴方を見つけた今、貴方に添わなければならない。」

(契約、みたいなことするんだ…)

「契約とは、少し違う。簡単に言うのなら、「とっかえひっかえ」。添う必要が

なくなれば、即座に離れる。そしてすぐに他を見つけて、その人に添う。」


ーそうしなければ、こうしている間にも暴言者に喰われてしまうかもしれないから。


そうして傷だらけの、黒い少女…4番目の言ノ葉綴リビトである

ダイアナは、僕にある程度の説明をしてくれた。まず、


・僕は言ノ葉破ルモノだということ。

・言葉を嫌うだけならばそうはならないが、暴言者が宿った瞬間、

言ノ葉破ルモノになるらしい。

・僕がもっとも嫌い、執着しているのは【キモチわるい】という言葉。そして、

数多の言葉による暴言。知ってたけど、僕はやっぱりメンタル弱いんだな。

・そう言った暴言者を倒すには、宿主自身がその言葉を克服せずとも打ち勝つこと。

ダイアナ達が倒すことも出来るが、本人がその言葉に執着してしまっている場合、

何度も暴言者が生まれてきてしまうそうだ。

・ダイアナ達は暴言者が宿っている人の肩をたたくこと。肩に宿るらしい。たたいて

外に引きずり出した後は、その暴言者の吐く言葉に対応し、暴言者の精神を

削って、小さくする。大きい場合は“必殺技”なるもので倒すらしい…。


先程、何かを渡された。何かというか…


「ん。」

(?)

「持ってて。貴方は狙われやすい」


右手、と言われだした右手に、カラン、と木製の物が発する特有の音が響いた。

ダイアナの手がひき、あらわになった自身の右手の上には、


(鍵…?)

「それは、“Key”」

(“Key”?やっぱり、鍵じゃないの?)


直訳すると、Keyは“鍵”だ。しかしこれは…木で出来ている。一般的には

鍵は金属であるはず。そしてこの鍵、恐らく十字架だと思うが、


になっていて、十字架の左側だけが残っている。


「それは、鍵であって鍵ではない。」

(どういうこと?)

「言ノ葉破ルモノは、綴ルモノとの寄り添いが決まった瞬間、

暴言者に狙われやすくなる。」


寄り添うと決まった瞬間、暴言者の好物が、その体にたまるから。

そう言って僕の体をビシ、と差した。


(好物?)

「暴言者は身の内に巣くう暴言のほかに、寄り添うことで溜まる、“言霊”が好物。」

(“言霊”?)

「言霊は、文字を自動で生成する。いわば、言葉の魔力。本来暴言者には

ないもので、普通の人間にはあるけれど微力しかない。でも寄り添うことにより

影響しあって、寄り添う相手にも溜まってしまう。」


だから、ほら…

そう言うが早く素早くダイアナが僕の肩を叩いた。今度は、素手ではなく。


「捕れた」

(包丁…いや、短剣?)


短剣で結翔の肩から暴言者を切り離したダイアナは、結翔に見せつけるように

切り取った暴言者を見せた。


(うっ…!)


その暴言者は、デカイくまのぬいぐるみ、といっても過言はないほどデカかった。


「さすが。一番最初、大物」

(それは褒めてるのか褒めてないのか…)


ハア、とため息をつき、ダイアナに疑問をふっかける。

(大きいときは言葉による精神攻撃じゃなく、物理攻撃?)

「そう。大きいと、その暴言者のメンタルも強いって事だから。付き合ってたら、

私達の方のメンタルが枯れちゃう」

(そ、そうなんだ…)

「だから、こうする」


暴言者を素手につかんだダイアナは、持っていた短剣で‥‥




その暴言者を、・・・ぶっ刺した。



暴言者をぶっ刺した少女は、そのまま横へと手をスライドし、横に切った。

すると暴言者は、悲鳴を上げることなく、普通に【キモチわるい】と繰り返しながら

炭のように消えた。


(何、これ…)


先程、ダイアナを拾って連れて帰ってから、寄り添われることになって、あげくに

刺すシーンまで見せつけられてしまった。


「暴言者は、ただ暴言を吐くだけだから、痛みもないし悲鳴もあげない。

ただ、言霊が得られない、言葉による破壊で消える。」


言霊は、言葉の魔力。だから言霊を使うことによって、言葉の生成が出来る。

普通の人間にはすでに出来上がった言葉が体内に宿っているらしい。


その中から暴言の言葉を探し出し、喰って、しだいに宿主の心も喰っていく。

寄り添われた者は、綴リビトと細い糸で繋がるらしい。お互いの同意がなくとも、


相手が言葉を嫌っていて、それに綴リビトが気付けば自然と寄り添う決定だそうだ。

そしてその糸を通って、次第に寄り添われた者の体内に言霊が溜まっていく。


それを暴言者が喰えば、喰った分の言霊が尽きない限り、暴言者の体内でも言葉を

生成し、喰うことができるそうだ。だから狙う。


「さっきみたいに、大きければ大きいほど、いわば言葉へのメンタルが

高くなってくる。暴言者を倒すための反論の言葉も、ある種の暴言。

暴言を多く食べていれば、その言葉を食べているから。」


その暴言を喰い、克服し、次第に暴言者は大きくなっていく。


「その場合、コレで殺やるしかない」


そう言ってギュ、と左手で短剣を握るダイアナ。この短剣は、ダイアナが体内に

ある言霊で作ったものらしい。


「とは言っても、色んな武器が作れるわけじゃない。」


ダイアナが右の手のひらを上に向けると、光が集まった。(それがきっと言霊だろう)

やがてそれは黒色の手帳になった。


「綴リビトになった時から、持たされている物。この中には、今まで添った人に

ついて、すごく強かった暴言者について書かれている。…あと反論の仕方」

(反論に仕方あるんだ…)

「今は使ってないけど…何百年もやってれば論破しやすい。」

(何百年?)

「綴リビトは不老不死だから」


聞いてない、聞いてないと目でダイアナに問う。そんなに長く生きてるなんて…

でも、先程ダイアナは「綴リビトになった時から」と言った。どれほど前に

生まれたのだろう。


「武器は一個しかない。これをもらった時、私は“短剣”と決められた。」

(決められた?誰に)

「そう。誰かは…言って良いか、私には分からない」

(ダメなの?)

「…狙われてしまうから。」

(暴言者に?)

「そう。…“あの人”はとてつもない言霊をもっているから…。」


そう言いながら短剣を手帳にバン、と押し付けるダイアナ。短剣はベシャ、と光の粒子に

なり、手帳の中へと吸い込まれていった。


(その“あの人”って言うのが、ダイアナ達を綴リビトに?)

「そう。」


普通に、そっけなく答えるダイアナに、僕は疑問が沢山浮かび上がっていた。

当然だ、出会ってすぐこんなことになっているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る