第12話 姿形

「えっと…女の人の姿で、白色の髪に白色の目ですね」

「フィオナとソックリなんですよねぇホント。あ、顔は違いますが。

“あの人”もアルビノ姿ですから…」


聞くのは2回目のアルビノという言葉。たしかアルビノというのは

「先天的にメラニン色素が欠乏した」という人のことをだ。


メラニン色素は、瞳などの色を茶色くしたりするのに必要な…ようは絵具だ。

それが生まれつき不足しているために、そういった瞳が白くなったりする。


途中で「全て」尽きてしまえば、もう使える絵具はないのだから。

残った部分は白のままにするしかないだろう。


まぁ、新たに買って付け足すことが出来るのが、人の中にある

「メラニン色素」という絵具と普通の絵具との違いなのだが。


「確か見た目は、27歳ぐらいだったはずよ。身長は大体…えーっと……、

………ジェシー、いくらだったかしら」

「167cmですよ、イザベル。」


そうジョシュアが伝えると、イザベルはあぁ、そうでしたわねと

思い出せたらしく、満足そうにうなずいた。


「私、4年前、会う、会いました。パーカー、ジーンズ、スニーカー。

遊ぶ、回る、遊び回ってる、言った、言ってた」

「え?!アリア会ってたの?!?!」


ぽつりとアリアが告白した。アリアと朝陽が出会って、朝陽が寄り添いビトに

なったのかは知らないが、“あの人”と会ったことはどうやら知らないようだ。


「なんか…地味ですわね、服装」

「私、それ、思う、思いました」

「“あの人”の服のセンスは少しあれですからね…完全に

ダサいやつじゃないからいいんですけど…」


言葉の化身というイメージがあるからか、少し高そうな服装を想像していた…。


「ということは…それにサングラスとマフラーが入るってことですよね…?」

「壊滅的。」

「“あの人”ホンットに服のセンスどうにかならないかしら?!選んだ服に

サングラスとマフラーが入るってこと考えていませんの?!」

(…サングラスとマフラー?)


心の中でそう問いかけると、そばにいたアリアがこそっと教えてくれた。


「“あの人”、言霊、いっぱい、持ってる、持ってます。だから、ちょっとする、

ちょっとした、会話、それでも、言葉、中に、言霊、たくさん、含まれる。

言霊、いわば、魔法、言葉、呪文。すると、言ったこと、ホントに、

起こる、起こります」


つまり、言霊は呪文(言葉)で起こる魔法。それで、“あの人”は言霊をいっぱい

持っているから、ちょっとした会話での言葉にも言霊が多量含まれるらしい。

いちごが」って言っただけで苺が現れたりするのかな…


「“あの人”、言葉、化身、だから、会話での、言霊、調整、出来る、出来ます。

けれど、たまに、出る、出てしまう。言霊、多量、出る、ない、出

すぎない、ために、サングラス、マフラー、必要。以上。」

(あ、ありがとうございます…?)


おそらくマフラーは口元を隠すためだろう。…でも、言霊は言葉に含まれるから、

喋っている以上意味ないんじゃ…。



(サングラスやマフラーで防げるのかな…)

「心配はいりませんわ。その二つは“あの人”が言霊で作り出したものですから。」

「言霊に言霊をぶつけると、互いの打ち消されるんですよ。風船のようにね。」


確かに、風船と風船は思いっきりぶつかったら割れる…。


(でもそれでサングラスとマフラーって…)

「あ、やっぱりそう思います?」

「サングラスはわかるんですけどね…。目を防ぐのなら

眼鏡よりサングラスですから」

「だけどマフラーって!マスクするとサングラスと合わせて不審者っぽく

なっちゃうっていう考えはわかりますわ!でもほかにないんですの?!」


イザベルがやけくそ(?)でいつの間にかアリアが出してくれた紅茶を

がぶ飲みしながら叫んでいるあたり、“あの人”は多分、綴リビトに


迷惑をかけてるんだろうな…。シャーロットの話から、

自由奔放じゆうほんぽうで手土産持ってきてくれるみたいだから…


自由人、マイペース…といったところだろうか。生みの親っていうから逆に

綴リビトの面倒見てそうだったけど…。


「僕はアリアからマフラーの理由聞いてるけどサングラスって…なんで?」


ハイハーイ、と朝陽が相変わらず袖の余った左手で挙手をする。


「同感だ。俺もシャーロットからマフラーについては聞いているが、

サングラスなんて初めて聞いたぞ。」


朝陽の隣でこちらも相変わらず腕を組んだまま、蓮も賛同した。

確かに今聞いたアリアの説明でもなかった。


「あれは…はい…。」


するとジョシュアが気まずそうな顔をした。説明をしなかったあたり、

サングラスはマフラーと同じ理由ではないのだろう。


「あー、あれはですねぇ、サングラス外すと老若男女問わずみんなさんが

“あの人”にキュン♡ってなっちゃうからですね!」

「…きゅん?」

「きゅんってなんだ?」


それは多分恋愛的な…キュンカナァ…。


「“あの人”の目にも言霊があるんですよ。普通は心にしか宿っていなくて、

心から口へと出されるものなんですがねぇ…。」

「…言葉の化身と言うだけあって、心からどこにでも行く。」

「手とかに言霊が行く。そうすると言霊出してしまえば具現化して物を

出したり出来るのですわ。もう魔法使いですわよ。」


“あの人”は今まで何人連れてきたか…。そう言いながらため息をつく

イザベルに、心の中で手を合わせておいた。



「…まぁ、そういう服装でしたね。そうそう、スモックの件なんですけど…」

「………」

「イザベル、忘れてたような顔をしないでください…」


シャーロットが切り出した瞬間、ちょうど紅茶を飲もうとカップを口元に

持って行ったイザベルがピシッ、と効果音が付きそうなほどキレイに固まった。


(スモックの中にどうやってくるまっていたんだ…)

「小さくなってた」

(え?)

「ん?」

「は?」


心の中で、現実のため息とともにそう発すると、ダイアナが再びぽつりと

一言だけ言った。思わずそれに返してしまったのは、自分だけじゃないようだ。


「小さく、なってましたね…」

「小さくなってたわ」

「おチビな蓮よりおチビさんでしたよ♪」


もうさすがに3回目は疲れたのか蓮は震えるだけでシャーロットに何も

言わなかったが、「誰がチビだ…」とブツブツ言っているのが聞こえたので


多分シャーロットに聞こえているだろう。隣の席だし。その証拠にほら、

シャーロットすごくニコニコしてる。朝陽のほうが身長低いけどなぁ。


「頑張って、気配、探した。そしたら、中に、いた。

今までの、努力、集中力、時間、返して、ほしい。」


そう言ってさすがに立っているのが疲れたのか、しゃがみはじめた。

すると朝陽が「よしよし頑張ったね~」と撫で始める。


「まぁ、スモックはタンスの中に閉まっていたので…。」

「むしろ閉まっていたのにどうやって入ったのかしらって、

あの時は思いましたわ。」

「結局努力が実ったのフィオナさんだけですね。」


そうシャーロットが言うとアリアがジト、とシャーロットを見たので、

「あ、ディスってないですよ~」と右手をひらひらさせていた。

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