第13話 小さくなってたのは

「結局、なんで小さくなってたの~?」


シャーロットをジトッと見つめたままのアリアの頭を未だ撫でる朝陽は、

アリアのほうを見ながら明るくそう言った。


「えーっと、それは…」

「暴言者の力によるもの」

「そうそれよ!」

「イザベル…。」


何度目かの記憶忘れをするイザベルをジョシュアが心配そうに見る。

若干引いているように見えるが。言葉を濁らせたイザベルにダイアナが答えると、

イザベルはダイアナをビシッと指した。


「人に指を指してはいけませんよ~」

「まぁいいじゃないの。…何かしらね、最近物忘れが…」

「…歳」

「違うわよ!少なくとも綴リビトでは最年少だもん!」


もし綴リビトが人間だったのなら不老になった歳では、という意味だろうが、

作られたという観点では身長・外見年齢問わず最年少なのだろう。


「また暴言者か…。」

「まぁまぁ蓮。“あの人”は何度も言う通り、言葉の化身。言葉そのもの。言霊とは

言葉に宿る。だから言霊を奪われれば言葉という名の体を、力を失うんですよ。」

「それにあわせて縮んだって言ってましたね。」



『じゃぁスモック仕舞いますn『待って』アリアさん?』

『“あの人”、その中。』

『え?!』


モゾモゾ…。


『ぷは!やっとこさ出られたわ~…』

『ホントだ…。』

『え、え、なんでココに?!』

『相変わらず私服が地味ですわ!』

『サングラスとマフラー健在するな!燃えろ!』

『うわぁ暴言の数々…。親になんてことを…。』

『“アンタ”を親と思ったことはない。』

『噓泣きがワザらしいなぁ~』

『うっ、エルヴィスの反抗期が悲しいのはホンマやしぃ!そしてフィオナに

言われたないわぁ。…まぁ、暴言者に言霊盗られてしもて。そしたら身体が

小さくなった~てワケやねん。いや~ホンマビックリ!』



「…て、ケタケタ笑ってました。」

「自分の身体のことなのに良いご身分でしたわ。」

(慕われてるのかいないのか…。)

「慕ってない。」

「な~んか違うんですよねぇ。近くて遠いような感情です」


それにしてもダイアナきっぱり言ったな。即答したよ。

“あの人”についての謎が深まっていく…。


「そういえば。朝陽さん、蓮さん、結翔さん。」


あははは…と(しかし失声症のため声は出ていないが)苦笑していると、

思い出したようにジョシュアが喋りだした。


「…あなた方は、本当に、良いのですか?巻き込んで、しまいますよ…。」

「そうねぇ。傷を負えば二度と治らないし、死ぬ場所もあるわよ。」


…!まだ、気にしていてくれたんだ。


「大丈夫だよ」


すると、ジョシュアの問いかけに朝陽が答えた。アリアを撫でるのはやめ、

ジョシュアのほうへと振り向く。


「傷を負わなければいいんでしょ?避けるのはカンタン!」

「巻き込まれるのは日常茶飯事だからな。」


気楽そうに笑う朝陽を見ながら蓮が言った。二人は同級生だそうだから、

蓮は朝陽に巻き込まれている、と言ったところだろうか。


「でも!相手はきっと強力です。避けれるものではないかも…!」


未だ心配するジョシュアに、朝陽は言った。


「大丈夫!僕が大丈夫って言ったんだから、絶対大丈夫!」


ニコッ!と笑い続ける朝陽は、言葉を嫌う破ルモノとは真反対だ。



「朝陽はこう言ったら曲げないぞ。」

「人の役に立ちたい!」

「あらあら、それだけではまだダメですよ。」


フッと笑う蓮の隣で、シャーロットも笑った。


「まぁ、いいじゃないですか。それもあって朝陽君は

このお茶会に呼んだのですから。」

「シャーロット、でも…!」

「ジョシュ、心配しすぎ。しつこい」

「し、しつこ…!」

「でも、本当に大変ですわよ?寄り添いビトと言えど普通の人間。

綴リビトというがそばにいるだけの人間ですわ。」


この双子はどこまでも心配してくれるらしい。それは喜ばしい限りだが。


ふと、ダイアナがこちらを見た。…加勢しろ、ということだろうか。

まぁ、ダイアナに「僕が手伝う」なんて言っちゃったからなぁ…。


やっぱり資格があってから言ったほうがよかっただろうか。

いや、そうなってしまえば、こんな自分じゃ永遠にその資格はとれないだろう。

でも、助けたい。


『人に温情をかけるな』


…人に温情などいらないと、亡き父に言われたけれど。


(普通の人間だから、助けたくなる)


気付けばそう心の声を出していた。


(…僕は、確かに言ノ葉破ルモノ。)


言葉が嫌いな証。故に暴言者に心の中へと巣みつかれた。


(確かに、綴リビトっていう存在がそばにいるけど。)


不老不死の…がいるけど。


(それでも助けたいって思うのは、人間だからだと思う。)


嫌い、助けたい、感情があるのは、人間である証。


「…それだけで、ですの?」


イザベルが聞いてきた。朝陽は大きく頷き、蓮と自分は小さく頷いた。

朝陽のは多分元気がありすぎる故の大きな頷き…だろう。


(みなさんと出会ってまだ1日でも。)


ダイアナと出会ってまだ4日でも。


「アリスは綴リビト以前に、友達でもあるんだ。友達を

助けたいと思ったっていいでしょ?」

「いっつもからかってくるムカツクやつだがな。温情をかけてやらんでもない。」

(もう一度、言葉を好きにさせてくれる未来の恩人だから。)


絶対に、手伝いたい。


“あの人”探しを。

暴言者との戦いを。

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