武器練習編

第16話 双子の妹

翌日、16時。


今日も今日とて話しかけられるたびに狸寝入りで過ごした学校生活だが、

家に帰ったとたん暴言者が出てきたものの、スパンとダイアナが反論したことで


あっけなく消え去った。綴リビト、絶対討論で敵に回すしたくない。

敵に回してしまえばきっと暴言者と同じく消え去るだろう。反論の気力が。


今日は部活がなかったものの、明日はある。それだけは朝陽に伝えとかないとな、

そう思いながら朝陽の家へ行く準備をする。


(ダイアナ、もう出発できる?)

「いつでも。」


そう言ったダイアナは昨日と服装が変わっていない。どちらかというと、

出会った(拾った)当初ぼさぼさだった髪がツヤツヤになった。…多分。

シャンプーの用途を考えたら。…多分。


自身がダイアナにその場しのぎで着せた上着はともかく、ワンピースは朝早めに

起きて他の洗い物と一緒に洗濯機で回してめちゃめちゃ天日干しをしていたので


あっさり乾いた。しかし朝陽の家にこれはなぁ…と裸足のダイアナを見て、

もういっそバイトするか…そう考え始めながら家を出た。


まだ朝陽の家へ行ったのは昨日の一度きりで道を覚えきれていないため、例の地図を

持って家へと歩いていく。周りの視線が痛い。時給良いとこないかな…。


「…来た」


朝陽の家の門に付けられたインターホンを押せば、昨日と同じようにすぐさま

アリアが出迎えてくれた。


「…?ダイアナ、服、昨日、一緒」

(いや、実は…。)


お金があまりなかったりすることを伝えると。ああ、とでもいうように小さく

頷いてくれた。そして門をくぐり、庭を通り、ドアを通り玄関へ。


「朝陽、頼む、頼みます」

(んえ?!い、いいです!いいですよぉ!!)


時給の良いバイトすごく掛け持ちしますからぁ!と叫んでみるも、それは即座に、

2階へと連れていかれる直前の1階で、使用人さんたちのにぎやかな声によって

虚しくもかき消されることとなった。


「朝陽、結翔、ダイアナ、来る、来ました」


そう言って通されたのは昨日と同じ応接間。今日は昨日よりも少し冷え込んだので

暖炉の火がとても暖かい。


「あ!いらっしゃーぁー…」


来たことに笑顔を浮かべ席を立ち…。立ったところで朝陽の動きが止まった。


「ダ、ダイアナちゃん?!どうしたの昨日と服装が!!!!」


すると突然ダイアナの場所まで瞬間(速度で)移動し、

肩を掴みながら激しく揺さぶった。


「朝陽…」


アリアが朝陽を止めると、途切れ途切れの口調で説明をした。


「だから、朝陽、何着か、服」

「な、なるほど…、」

(いや、その、大丈夫ですって…。)


自分帰ったらすぐにバイトを掛け持ちするんで…。疲労なんてどこ吹く風…なハズ。

というか、朝陽は男だから、いくら可愛い物好きでも男用の服しかないはず。

そう思っていると。



「んー、じゃぁ!」


朝陽が突然手を叩く。すると応接間のドアがガチャッと開き、中から9歳ぐらいの

可愛らしい女の子が二人現れた。あ、変な意味はないです。昨日の一件があるから

先に言いますけれど。


「おにーさま、なぁに?」

「お兄様、何か用ですか?」


そう言って部屋の中に入ってきた二人はそっくりな顔立ちをしていた。双子だ。

姉妹…だよね、多分。イザベルとジョシュアの一件からちょっと疑ってしまう…。


「入ってきていいよ」


そう朝陽が手招きすると二人は顔を見合わせた後トコトコと歩いて来た。


「この子たちはね、僕の双子の妹!」


あ、妹。どっちも女の子。よかった…。そう謎に安堵する自身とは裏腹に、朝陽は

ニッコリ笑って、アリアにするみたいに頭を撫でていた。


「はい、自己紹介して!」


そう言って朝陽が二人を自分とダイアナの方にと向ける。


羽衣石昼望ういしひのです!9才です!好きな食べ物はチーズです!」

羽衣石伽宮夜ういしかぐやです。9才です。いつもお兄様がお世話に…」


深々と頭を下げる伽宮夜を見て、慌てて自身も頭を下げる昼望。

え、賢い。礼儀正しい。え。


「こらー、僕「いつも」はお世話になってないぞー、昨日だけだぞー」

「まずお世話になるな」


昨日と同じ席についた朝陽からツッコミが、蓮からさらにツッコミが聞こえた。


「昼望、伽宮夜」


朝陽が呼ぶと二人は同じタイミングで振り返った。


「そこの“ダイアナ”っていうお姉さんがね、着る服ないんだって。

だから親愛なる二人にコーディネイトを頼もうと思って…。」

(コーディネイト?!)


いや、もう、やめて…バイトしますから。僕が何をしたんだってんだ…。

しかし、そう聞くやいなや二人は


「「コーディネイト?!」」


と目をきらびやかせて言った。え。


「うん!そう、コーディネイト!!バッチリ似合うの、お願いねー。」

「わかった!お兄様!!」

「わかりました。お兄様。」


このやりとりに意外と積極的なんだなーと思っていると。


「えっ」

「はいはいれっつごー!」

「ちょっとした服屋さんまで行きまーす」

(ダ、ダイアナーーー!!!)


ダイアナが双子に誘拐された。ジェシーとシャーロットがクスクス

笑っているけど笑い事じゃない。


「大丈夫だよ、コーディネイトを頼んでもらっただけだから」


ダイアナが連れていかれ、開いたままのドアを眺めてあわあわしていると、

紅茶を優雅に飲んでいる朝陽がそう言った。お金持ちっていいな。


「女性のことは女性に!キレイになって帰ってくるよー」


それはうれしいけど…


(…お金、払いますよ…)

「いらない」

(えっ)

「あの、双子、コーディネイト、好き。」

「そーそー好きだよ!だから喜んでやってくれる!」


決して自身の心の声が聞こえたわけではないが、

朝陽がアリアの言葉に続いて答える。


(いやでもあれ完全にお金いりますよねっ?!)

「いらない」

「お金はいっぱあるからねぇ」


せめて今持ってるお金だけでもと財布を制服のぽっけから取り出す。

弁当忘れたときに購買いけるように。


学校でも常時持ち歩いていたのが役に立った。…ものの、

朝陽とアリアに手をつかまれ、そっと財布をぽっけにしまわれた。



「おサイフは~ポッケにないなぁ~い」

「財布、出す、ダメ。お金、いらない。」

(えぇ…。)


蓮いわく朝陽は一度言うと曲げないらしいので、これはもういくら言っても

聞き入れてくれないだろう。でもせめて何か…、お詫びの品でも?


「さぁて!ダイアナちゃんが帰ってくる前に始めちゃいましょう!」


紅茶がなくなってしまい、新たにアリアから淹れてもらった紅茶。

そこに角砂糖を入れながら朝陽がそう言った。3つぐらい入れてる…。


(今日は何をするんですか?)

「今日はですねぇ、武器の練習をと思いまして!」


自身が聞くと、シャーロットの明るい声が返ってきた。武器の練習…。

暴言者と戦うにあたっては、確かに必要だろう。


「まずは自身の武器をきちんと扱えるか確認しましょう!」

「どこでやるんだ?今日は外、冷え込んでるぞ」


確かに。外でやるとなれば制服がまだ長袖と言えど軽く絶望するだろう。

冬は一番苦手な季節だ。それが未だ残る5月はまだ寒い。


「いやぁ~、実は家の裏に弓道場がありまして」

(弓道場?!)

「そうなのか」


サラッと言われたけど。弓道場て…。そして蓮はあまり驚いていない。

やっぱ金持ちってそういうの普通なの???


「アリアの武器がアーチェリーでしょ?僕も弓矢だし!

扱えなかったら大変だなって作ってもらったんだー」

(作ってもらった)

「まったく。貴様の両親だろう?許可をしたの。甘すぎないか…」


甘いって…過保護かな。過保護って怖い…。


「両親はちゃんと良い人だもん!グレートマザー!」

「朝陽、それは母親しかいないぞ。父親入れてやれ」


父親って大体子供が話すときはぶかれるよね…。小学校の卒業式で両親への手紙を

書いた動画を撮ったけど、ほんとどが「お母さんへ」だった。

僕はまず「お母さん」しかいなかったけど。

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