第15話 レイピア

(弓矢と、爆弾…?)


武器とは、「戦いに使う道具」のことだ。だから爆弾が合っても

おかしくないのだが、武器と言えば剣や銃のイメージがぬぐえない。


「あら、出来てるじゃない」


ニコッと笑うイザベルの隣で、わー、と小さくジョシュアがパチパチ、拍手をした。

気付けばシャーロットとアリアもそれぞれの武器を手にしている。

綴リビトと同じ種類の武器、というのはどうやら本当のようだ。


「…えーっと、朝陽くん?それ…」


ふと、ジョシュアが朝陽の弓矢を指した。弓は黄色で先端が渦巻き状になっている。

そして矢の先端は、ハート型だった。


(ん?ハート…?)

「ふっふっふー!コレはねぇ!」


なんかおとぎ話のキューピッドのようだな…。


「キューピッドの弓矢です!」


あ、当たってた。


「あ、あらそう…。」


若干ひきつった笑顔でイザベルは返事をした。自信満々に告げられたら少し反応に

困るのは共感できるが…引いてる?もしかして。


「朝陽、可愛い物、好き。寝室、ピンク、一色」


あー…なるほど…。ファンシーなもの好きだったのか…。まぁ見た目可愛いけど…。


「結翔、また心に出てる。そして引いた」

(引かないで?!察したから言うけど性的な意味じゃないから!

容姿を見た時の感想ですから!!!)


ダイアナと自身の会話を聞いたのは綴リビトだけだ。何せ心の声は綴リビトにしか

聞こえない。そのため聞いてクスクス微笑ましそうに聞いている綴リビトを見て、

朝陽は三本目、蓮は二本目の疑問符を頭の上に増やすこととなった。


「キューピッドの弓矢!ふぁんしーでしょ!可愛い!!」

「俺のは爆弾なんだが…、アレだな、栓を引っ張って爆破させる物だ。」


スリスリと自身の武器に頬すりを始めた朝陽を置いといて、蓮が喋る。

漫画とかに出てくるアレか…。


(アリアのは…)


寄り添いビトの武器に注目していて綴リビトの武器を見ていなかったため、視線を

ずらしてアリアの武器をまずは見る。


アリアの武器はもちろん朝陽と同じ弓矢だったが、普通、

矢を構える部分に凹凸が出来ていた。



「これ、アーチェリーの、弓。」


結翔の言葉に気が付いたアリアは、弓を持ち上げて上下に揺らしながら答えた。


「的、当てる、良い、音、する、します。」

「アリアはアーチェリー上手だよー」


そう言って朝陽はアリアが矢を持っていた片手をつかんで上にあげた。

アーチェリーって運動競技の一つだから戦闘には向いてないはず。


アーチェリーについてはあまり詳しく知らないからわからないものの、

戦えるのかな?テレビでなら世界大会とかで的に射る姿は見たことあるけど…。


アーチェリーが的に射る運動競技なら、矢は戦闘向きではないのでは?

でも的に当てるから殺傷力、あるかもしれない…。


「蓮と私は同じ爆弾なんです」


一人もんもんと考えていたところ、思考をふさぐように

シャーロットの声が耳に入った。


確かによく見ればシャーロットのも蓮のもピン、と栓を外すだけで爆発する爆弾だ。

色が緑帯びているのは、さっきの光のせいだろうか。

いや、朝陽の弓にマゼンタ色はなかった。多分違う。


「…あれ、結翔くんのは?」


自身が何も持ってない、むしろダイアナと手を重ねることすらしていないのに

気付いた朝陽が質問してきた。


「まだ寄り添い始めて3日目。そこまで時間なかった」


心の声が聞こえないため、ダイアナが代弁してくれた。

すると朝陽は「そっか~」と言い、


「じゃぁ今ココでやっちゃおう!」


そう言いだした。


(え、ちょ、)

「いいですわね。他の寄り添いビトが初めて武器を作るシーン。

それを見られるなんて珍しいことですわ。」


自身が止めに入る前に、即座にイザベルが承諾した。拒否する時間をください。


「武器は、イメージが大事。」


一人思考の中でわたわたしていると、隣に居たダイアナが言った。


「私は短剣。だから剣に関するものならば武器にできる。双剣でも、ダガーでも。」


そう言いながらダイアナは右手を差し出した。ちょうど“Key”は自分が

持っていたままだったので、ためらいつつも右手の上に“Key”を置き、


自身の手に重ね合わせて“Key”を包み込んだ。そして互いに目を閉じる。

目を閉じていても、光はまぶたを通り抜けて入ってくる。


光の色は、出会った日に見た光と同じ、紫色だ。“Key”が光と共に形を

変えていくのがわかる。ここで何の武器がいいのか決めるのだと、

不思議と分かった。


自分の武器は、何が良いだろうか。暴言者から身を守るための武器。

身を守るために、攻撃する武器。


それであれば、自身にとって扱いやすい武器が良いだろう。何があるだろうか。

「物の文字化」現象の張本人であるどこかの暴言者と戦うとき、


不便であってはダメだ。扱いなれない武器を取っても、心の中から育って出てきた

暴言者は、綴リビトの仕事としてきっとダイアナが切ってくれる。けれど、


戦いではそうはいかない。自身も戦力の一つとなるのだ。だから、不便じゃなくて、

扱いやすい、扱いなれたもの。剣の中で…。


ーこれしかない。



そう思った瞬間、まぶた越しの光が強くなった。目を瞑っているのでいくら光自体が

まぶしくても影響はないが、無意識にぎゅっと、きつく目をつむってしまった。

そして徐々に光が止んでいく。それに合わせてそろそろと目を開く。


「おわぁ、カッコイイ…!」

「朝陽、落ち着く、落ち着きます、深呼吸」

「んなっ…!」

「あら~、カッコイイ武器で。」

「そうね、実にカッコイイわ。」

「結翔さん、それは…」


…小4のころから今の今まで、習い事をしていた。小4で読んだ小説に出て

きたもの。それに一瞬で心をつかまれ、母親の杏を必死に説得したのを覚えている。


今思えば、失声症となった自分でも続けられるもので、怒鳴られて泣きながら

何日も説得し続けた過去の自分に感謝しかない。


それは、フェンシングだ。


面をかぶるから、相手の顔が見えない。そして痛くない。小説で出てきた…、

という武器に一目惚れ。


痛くないから怖くない。当時はそれだけで好都合だと思ったが、

相手の顔が見えない。中1以来相手の顔をうかがってばかりだった自分にとっては

これもまた好都合だった。


実際、今行っている高校にもフェンシングの部活があり、

それがその高校へと入る決め手にもなった。


まぁ、当然レイピアは実戦用なので危険だ。フェンシングでは練習用の

「フルーレ」を使う。しかし家ではこっそりレイピアのレプリカで練習をしていた。


母が買ってきてくれたわら性の人形を相手に。学校ではフルーレで守りを

主に練習して、家では攻撃を主に練習した。


そして小4~現在。8年間もやってきた。8年やってきて、すっかり自身の身体は

フェンシングに、そしてレプリカといえどレイピアになじんでいる。


だから、自身の中で一番安全に、便利に、あつかいなれた武器は、レイピアなのだ。


(うーん、でも重いなぁ…。)


武器を決めるにあたってレプリカをイメージしたとき頭をよぎったのは、

本物と偽物の重量の違い。本物は本物というだけあって金属がたくさん

使われている。確か1kg超えのはずだ。


「うーん…まぁ、他の綴リビトにも寄り添いビトにも会えて、武器もお互いのを

見れて!“あの人”についても少し知れたし、今日はもうお開きにしよっか!」


そう言ったのは朝陽だ。席を立ち、「んーーー」と背伸びをする。

時計を確認すれば、9時にココに来たはずなのに、気付けばもう17時だ。


「また明日来てね!まぁ学校あるんだけど!!だから時間は

今日よりすごく少ない。…うん、16時!あ、一時間だけになっちゃう!」

「仕方ないな。」

「じゃあ蓮は今日早く寝ないと起きられませんね♪」

「あーあ、またスモックとかに隠れてないかしら」

「それはさすがにもうないと…いたらいいんですけどね。」


朝陽の言葉に全員が頷き、解散の用意をし始める。


「じゃぁ、一足お先に帰らせていただきますわ!」

「お、お邪魔しました!」


イザベルとジョシュはそのまま自分たちの力を使って、

シャーロットの話で出てきた「部屋」へと帰っていった。


「さて、俺たちも帰るか」

「ええ、そうですね。」

「あ、待ってせめて見送るーー!」

「朝陽、走る、こける、危な「あでっ!」…。」


ドアの方へと向かった蓮たちを慌てて追いかけようと走る朝陽。アリアが

忠告するも、した瞬間に転ぶこととなった。



ドアを開け、階段を降り1階へと行くと、使用人さんと思わしき人があわただしく

働いていた。今は5時のため、きっと夕食の用意だろう。…今日は何にするか。


「…じゃぁ、今日はありがとう!蓮はもちろん、結翔さんもね!」

「親友の頼みだからな。当然だ」

「あらあら蓮くん照れちゃって」

「照れてない!!」

(あ、あはは…。)


玄関で靴を履き、ドアを開け、庭を通って門へ。


(蓮さんとシャーロットさんはどうやって帰るんですか?)


そうシャーロットに尋ねる。


「それは心配ないですよー。こう見えても朝陽と蓮は家近いですから♪」

「帰り道のことか?歩いて来たんだ。このまま徒歩で帰る。貴様らは?」

「私も結翔も徒歩。」

「わぁ、みんな徒歩だねぇ~」


のほほん、といった感じで朝陽が返す。


「じゃぁホントに、また明日!」

「明日、16時だな」

「皆さんさようなら~」

「ん。」


自身は声が出ないため代わりに手を振る。朝陽の家の門が閉じたのを見届けると、

蓮とは逆方向に歩く。


(ダイアナ)

「何?」

(今日の夕飯)

「…カレーライス」

(…気に入ったの?)

「ん。」

(でも残ってないんだよなぁ…。)

「オムレツは」

(あ。なるほど、でも卵ないや…。)

「近くのスーパー」

(…近くのスーパーまで付き合ってください)

「はい。」

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