第10話 特定

『どちらにせよ、早々に片をつけなきゃいけない。』


そう強くアリアさんは言いました。いつもは途切れ途切れなのにすらすら

言ってたのでそれはもう驚いて…あ、ディスってないですからね。褒めてます。


その後は、フィオナさんは暴言者の特定を、アリアさんは“あの人”の位置特定を

することになりました。綴リビトの中で特定に長けたのはこの2人だったからです。


私はフィオナさんの手伝いをすることになりました。いちはやくこの非常事態を

収めるために。何もしないのはよくないのですが…。


『おい、テメェ何でトランプしてんだ。手伝え』

『一人トランプって結構頭使うんだよ~?』

『知るか!今は非常事態だ!!』


エルヴィスさんは、その…。たとえ言葉に関するものであってもトラブルに対しては

協力的だったり非協力的だったりするんです。


フィオナさんはジョシュさんの力で、部屋を一つ増やしてもらいました。

特定するには多大な集中力が必要です。今でいう防音の部屋にしてもらったい、

私はなるべく気配を消しながら手伝うべきことをしつつ、見守っていました。


『…あー、やっぱりキツいねぇ、狂った方位磁針のようだよ。』


ふと、フィオナさんが後ろに倒れこんでため息をつきました。短時間と言えど

集中し、ずっと眉間みけんにしわが出来ていたフィオナさんに


休憩用のお茶を渡し、汗を拭くためのタオルも渡します。


『お、ありがと。』

『お疲れ様です、フィオナさん。』

『いやーね、大変だ、コレ。』


お茶を飲みつつ、うわー、とか、ムリー、とか、言っていたような気がします。

まぁ、フィオナさんの発言は七割がた冗談なのですが。


『狂った方位磁針、とさっき言っていましたが…。』

『うーん、というよりか…あー、あれだ。』


そう言うとお茶を床へと置き、(部屋は集中用のため真っ白な空間で、

茶色いドア以外何もありませんでした。)


『ほら、よくあるじゃないか。真後ろから音が聞こえて振り向いたら、

今度は真逆から聞こえるって言う永遠ループ的なやつ。』

『あー…アレですか。』

『そうそう、アーレ。アレがずっと続いててなかなか上手くつかめないんだよなぁ』


すごく逃げられてる、とフィオナさんは再び床にあおむけになりました。

一応新しく作られたばかりなので、綺麗な着物には汚れはつきません。


『長期戦かもなぁコレ…』

『フィオナさん、何か手伝うことありますか?』

『あー、また集中モード入るから、終わったらお茶を…、また出しておくれ…』


すでに死にかけなフィオナさんに「頑張れ」とそっと応援しつつも、

少し笑ってしまいました。



『コレどうかしら』

『…………』

『ダメだって。気配消えてる。』

『あらー…さすがに二百年前の物はないわね…。』


フィオナさんが集中モードに入り始めたので、言われた通り、次また集中モードが

終わったらお茶を出せるように空となったカップにお茶を継ぎ足しに元の部屋へと


戻ると、アリアさんの“あの人”探しを手伝っているイザベルさんとダイアナが

いました。アリアは物から気配を察知し、それでどこにいるかが瞬時にわかります。


失礼ですが、少し犬のような感じです。…失礼ですが。

イザベルさんは“あの人”とよく会っていたらしく、贈り物をもらっていたそうです。


それを使って気配を感じ取れないか、と挑戦していました。アリアさんも勿論もちろん

集中しているため返事は出来ずじまい。ダイアナが通訳をしていました。


ただでさえ無表情なのにそこに無言が乗っかって思考が読み取れないのに

通訳できるのはお互い表情筋肉が…あ、ディスってないですよ。ハイ。


『もっと最近のない』

『ダイアナちゃん人使いがあらくてよ、非常事態だから仕方ないけれど……あ!』


ちょうどお茶を継ぎ足していたところだったのでポットを落としそうになりました。

今だから言いますけどイザベルさん、突然の大声は心臓に悪いです…。


『ジェシー、ジェシー!』

『イザベル、どうしましたか?』

『あの、アレよ、アレ、その…』


再び取っ組み合いを始めたギャリーさんとエルヴィスさん。2人の仲介をしていた

ジョシュさんがイザベラさんに呼ばれて行くと、イザベラさんは何を言おうと

したのか口をモゴモゴとさせていました。



『あの、“あの人”にもらったじゃない、こう、白い…なんだっけ…』

ですか、イザベル?』

『そう!それよそれ!それ持ってきてちょうだい!』


そう言うとジョシュさんは「イザベラも人使いが…」と言っていたような…小声で…

あれ、ジョシュさんこれ言っちゃいけませんでした?


『はい、スモックですよー』

『ありがと!“あの人”に一昨年貰ったものよ、

さぁダイアナ、アリアに渡してちょうだい!』


暖炉から少し離れた場所にあったタンスからジョシュさんがスモックを

持ってくると、イザベルさんは慌ててダイアナに渡しました。


そしてダイアナがアリアに渡し、気配が残っているかどうかを確認します。

そろそろフィオナさんが音をあげそうな時間でしたから、


残ってるかどうかを見終えてからお茶を渡しに行こうと思って、

その様子を見守りました。



『………』

『…ダイアナ、どうかしら』

『アリア、まだ感じとれてないみたい。』


感じとれていないということは、もう残っていないかもしれない…。

多分、誰もがそう思っていたと思います。その時でした。


『みんな!』


ふいに私がさっきまで居た部屋のドアが開き、フィオナさんが現れました。

よほど集中していたのか汗だくで、部屋に置いて行ったタオルを手に持っていました


『フィオナさん!』

『あ、すまないお茶貰うよ!』


ちょうど継ぎ足して手に持っていたカップを奪うとフィオナさんは一気に飲み干し、

息を何回か深呼吸して整えた後、


『暴言者の場所、特定出来たよ!』


そう叫びました。


『…あ、』

『!アリア、何かわかった?』


フィオナの言葉に喜びと驚きで私もみなさんも声が出ない状態でしたが、

ずっと黙っていたアリアさんが喋ったことでダイアナがいちはやく反応を示しました


『見つける、見つけた、“あの人”。気配、ある、あります、ありました』

『!一昨年の物はギリギリセーフだったのね!』

『暴言者と、“あの人”の居場所…説明しろ』


いつの間にか取っ組み合いをやめていたギャリーさんはフィオナさんと

アリアさんに説明を求めました。もちろん二人は頷きました…が。


『アリア途切れ途切れに話すから話長くなりそう…』

『それは、しょうがない、しょうがないです』

『いや冒頭スラスラ喋ってましたけど?!』

『はいはーい、だったら私から行きますよーっと。』


非常事態であるから、あまり話が長いと困る。エルヴィスさんの意見は

もっともなのです。そこで、フィオナさんが先に喋ることとなりました。


『でもこれスモックって…“あの人”何百年前のを今送ってきてるんですか…』

『あら知らなくて、ジェシー?今も服の一つとしてきちんと残っていてよ』

『うーん…新しい物好きのハズなんだけどなぁ、“あの人”…』

『「新しい」カラーが出たからって買ったそうよ』

『でもこれ普通に白…昔からスモックにある色…』

『まぁ良いじゃない。…ジェシー、地図はどこだったかしら?』

『うーんと…暴言者がドコにいるかまだ聞いてないですから…』

『言ってないからね。まとめて言わないと』

『…まずは世界地図を用意しますか』

『そうね、それがいいわ。じゃぁ、ついでにスモックをしまっといて。』

『人使い…』

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