第9話 過去の記憶

お話、しましょう。過去に何があったかを、細部まで、鮮明に……



始まりは、やはり「物の文字化」現象からでした。人も物も文字化。

こんなことは、初めてだったのです。どこを歩いても、文字、文字、文字だらけ。


文字だけの景色だけが広がっていました。鳥も、草木も、文字。

急遽、綴リビト全員で集まり、話し合うこととなりました。


当時私シャーロットには寄り添いビトがおらず、他の綴リビトにも合わなかったので、私以外の

全員が文字へと化してしまったのかと思いましたが…。


『……シャーロット』

『!アリアさん!よかった、無事で…!』


文字化した景色の中で、唯一物体として残った樹木の下で一人その景色を

眺めていると、目の前に穴が現れ、アリアさんが出てきました。


『迎え、しに来た』

『…迎え?』


私以外の綴リビトも無事残っていたことに安堵と喜びを感じていると、アリアさんが

そうおっしゃいました。迎えが何なのかは、聞いたときは当然わかるはずもなく。


『…この、異常事態、おかしい。だから、綴リビト、、話す、話します』

『全員…!よかった、綴リビトは全員無事なんですね!』


話し合いをするから迎えに来た。途切れ途切れに説明してくれたアリアさんと共に

穴をくぐれば、絢爛豪華けんらんごうかな部屋がありました。


『……皆さん!』


その部屋は…そう、今いるこの朝陽さんのお家の部屋と同じような作りでした。

ただ暖炉がある方向が逆で…っと、まぁ、それは置いといて。


アリアさんは空間に、物体に、穴を開けてワープする力を。

イザベルさんとジョシュさんは、空間に部屋を作ることが出来ます。


その絢爛豪華な部屋には何度もお邪魔したことがありまして。ドアがないのです。

お部屋はお二人が作った異空間にあるので、きっと外があっても真っ黒だったり…


出るにはお二人が手を繋ぐ必要があります。部屋を出たいときにはそのお二人が手を

繋いだ時、一緒に手を繋ぐのです。そして数を数えて気づけば元居た場所なんです。


不思議ですよね…っとと、またお話がズレてしまいましたね…


『シャーロットで、最後』


綴リビトの集まりで最後に来たのは私で、皆さん椅子に座って待っていました。


『これで全員、揃いましたね』

『始めますわよ、皆さん。』


そう言葉を発したのはジョシュさんとイザベラさんです。

イザベラさんが言葉を発すると同時に手を叩く。すると、


『…始めさせてもらうぞ』


ギャリーさんが立ち上がり、説明を始めました。ああ、ギャリーさんとはまだ

皆さん、お会いしたことありませんでしたよね。


焦げ茶色のぼさぼさような髪に黒色の目をしていて高身長なんですよ。

173cmだったような…。確か最後にお会いした時は白いワイシャツに


グレーのメンズズボンでしたね。シンプルな服装の男性です♪

さて、ギャリーさんから受けた説明なのですが…



今、「物の文字化」現象が起こっているということ。

それにより、物や人が文字化していること。


ここまでは私も実際目で見てきました。


これは暴言者の仕業であるということ。

“あの人”が危ないこと。


けれど、それを聞かされた瞬間驚きました。何せ暴言者がこんなに多大な被害を

出すことは今までなかったのですから。そして、“あの人”も暴言者による


危険を避けるために慎重に行動を起こす人です。自分の存在を知られると体内に

宿す大量の言霊が狙われてしまいますからね。


『は?暴言者の仕業ってどういうこと』


そう不機嫌そうに話したのはエルヴィスさんです。黒髪に黒目で端正な

顔立ちなのですが…めんどくさがりで少しキツイ性格なんです。

これ以来未だ会っていないのですが、この時は黒いスーツでした。


『この非常事態。「物が文字化」なんて“あの人”にしか出来ねぇ。

けれど“あの人”はそんなこと絶対にしないだろ。』

『あぁ…。まぁ、アンタみたいにじゃないからね?

アナタはともかく“あいつ”がやるわけないかぁ…』

『あ?誰が悪面だ』

『あっれぇ、もしかして自覚ある?反応してんじゃん』

『うぜぇ…ていうか“あいつ”って言うんじゃねぇ“あの人”って呼べ!』


ギャリーさんとエルヴィスさんは…すこぉし仲が悪いんです。

すこぉしというか、殴り合いまでよく発展してました、ハイ。


『あとは…そうだねぇ。暴言者の力が強くなってる』


とうとう机を挟んで取っ組み合いを始めた2人の喧騒を割って入るように、

ふとギャリーさんの隣に座っていたフィオナさんがそう言いました。


フィオナさんは白い髪の毛と青い目が特徴です。本人いわく“アルビノ”だそうで。

前の寄り添いビトから貰った雪結晶を模した髪飾りに青い着物を着ていました。


『ギャリーくんが言ったように、「物の文字化」なんてこと、“あの人”にしか

できない。でもそれは、それほど多大な言霊を持っているからこそ出来うる技だ。』

『…何が言いたいんだ』


不機嫌そうに言うエルヴィスさんは、ギャリーさんとの取っ組み合いをやめて

フィオナさんにそう聞きました。


『つまり、“あの人”ぐらい多大な言霊を宿していれば出来うるってことだよ。逆を

言えば、多大な言霊を持っているのが“あの人”しかいないから“あの人”にしか

出来ない。』


言霊を得る条件については知っているよね?とフィオナさんは全員を見渡して

言いました。言霊を得る条件については全員が承知しています。


言霊の量は変えることが出来ません。だから基本得ることは出来ませんが…

暴言者だけは、心に巣喰うことで得ることが出来る。


普通、一般の人の心にも言霊はありますが、それはほんのわずかで、暴言者は

食べても力を得ることは出来ない。


寄り添いビトの皆さんはこれについて、多分それぞれの綴リビトに

説明を聞いていると思います。


『もし暴言者がそれほどの言霊を宿したのならば…、誰から得たのか、』


想像、つくよね?と、フィオナさんははっきりと言いました。



『まさか…“あの人”から言霊を奪い、力を得たというのですか?!』


驚きのあまりそう言いながら卒倒しそうになったイザベラさんをジェシーさんが

椅子ごと、慌てて支えていたのが印象に残っています。


『ギャリーさんが言った通り、“あの人”は「物を文字化」するなんてことしない…

誰よりも“言葉”に関して真摯に向き合って、“言葉”を守ってきた人だ』

『狂うなんてこと、はまさか、“あいつ”に限ってないよねぇ…』


イザベラさんを支えながら、ジョシュさんは呟きます。そしてエルヴィスさんも

賛同しました。言葉にせずとも、それは綴リビト全員がわかっていることなのです。


『…うん。狂うなんてこと、ない。だったら、

どうして私たちを作ったのか、わからない。』

『そうですね。みなそれぞれ作られた時期は違えど、そのときかけられた言葉は

まさしくことがわかるものでした。』


“あの人”が「物を文字化」するなんてことはない。それは全員の意見でした。


『ではやっぱり、ということになるのでしょうか……』


もしそうだとしたら、イザベルさんが思ったとおり、“あの人”から言霊を奪った

暴言者が起こしたというのでしょうか。


『…確認してみたけれど、文字化した人はみんな、それに気付いていないんだ。

まだ文字化していない人が、文字化した人に普通に話しかけていたから…』


文字化にいち早く気付いたのはフィオナさんだと、アリアさんから聞きました。

私が気付いた時にはすでに全部が文字化していましたが…。


『つまり文字化した人たちにはいつもどおりの日常が見えているんだ。会話も

聞こえる。だから暴言だって聞こえるわけさ。それが破ルモノの心の中に増えれば

暴言者の養分も変わらずあることになる。』

『暴言者だけが得するやつねぇ…。』


フィオナさんが説明する中でエルヴィスさんが椅子をぎこぎこ漕ぎ始めてました。

エルヴィスさんから悪面、とよくからかわれるギャリーさんは意外と礼儀に


厳しいので、礼儀に関しては全然敬語も何も使わないエルヴィスさんを毛嫌い

しているそう。それでも何かと口出しはするので喧嘩が絶えないんですけどね…


『どちらにせよ、早々に片をつけなきゃいけない』

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