第6話 初めまして

アリアが去った後。



(あーっと…ウン)

「昨日会ってから色々ある」

(代弁ありがとう…ウン)


昨日も思ったが、会って早々暴言者やら、綴ビトやら、異常事態だの、自ら

ダイアナを拾ったしそれに関しては後悔していないが色々ありすぎだ。


拾った時点で自業自得だけど…



(…あっ、そうだ、ダイアナ)

「ん」

(さっきアリア…さんと…)

「呼び捨てで良いよ、アリアは」

(そ、そう…アリアとさっきぶつかってたけど、頭…)

「痛かった」


それはそうだろうな…。要するに、自身が言いたい事は

「腫れていないか」ということで、アレだけ勢いに任せて


走ろうとして途端にぶつかれば

結構赤く腫れているはずなのだが。




(あれ、腫れてない…)

「腫れた方がよかった」

(え、ううん、全然!)


ちょっと失礼、とダイアナの額を覗くも、そこには腫れたたんこぶの

「た」の字もないほど綺麗だった。ケガをする前の状態だ。

「綴リビトは、暴言者以外の攻撃は効かないからすぐに治る」

(そうなの?)

「ん。暴言者以外からの攻撃やケガはすぐに治るけど、暴言者から

受けた傷は普通の人間の半分の期間、治るまでに時間がかかる」


でも、それは外傷だけで、髪とかはどちらであっても切れたりすれば戻らない。

そう付け足したダイアナはサラッと言っていたが、さすが不老不死、だろうか。


「普通の人間なら致命傷ちめいしょう・即死の攻撃でも

耐えられるけど戦闘不能になる」

(そういう暴言者と戦ったこととあるの…?)


戦ったのだろうか。もしくは、“あの人”に教えられたのだろうか。

生みの親ならば、1から10まで知っていてもおかしくはない。


「…一度だけ、ある」

(一度?)

「すごく、手強かった。綴リビト10人で、やっと倒せた。」


10人で。暴言者の強さは未だよくわからないが、10人も必要だったということは、

そうとうな強さだったのだろう。


「“あの人”の言霊が奪われて、それを喰べた。だから強かった」

(“あの人”、一度だけじゃ…ない?)


思えば朝陽の手紙には、アリアが「危ない理由」を話していたことについて

書かれていた。一度あったのならば、詳しく知っていてもおかしくないだろ。


「あの時は、10人で倒せた。…でも、もしまた同じことだったら、

また10人倒せるか分からない」


もし、強かったら、どうしよう…と落ち込んだようなダイアナに、

結翔は声をかけようとした。


ー自分も手伝うよ


と。しかし、ダイアナは不老不死、自分は人間だ。ただ単に足を引っ張る事に

なるかもしれない。一度負った大怪我おおけがは治らない。


そして、まだ知り合って2日目なのだ。果たして今、そうやって

声をかけていいのだろうか。


ただ一度聞かされた言葉を数年も引きずっている自分には、その資格が、

言って出来る覚悟はあるのだろうか。


それでも、やってみるしかない。


(…ダイアナ、)


先程飲み込みかけたモノを、言葉として外に出した。



ーー翌日。



(これ思ったけど、アリアがワープで迎えに来てくれる、っていう

手はなかったのかなぁ…。)

「アリアのことだから、きっと、ない。」


うわぁ…と謎に途方に暮れた顔をする結翔に、真顔でサラッというダイアナは

現在、地図のとおり、スタート地点である自宅近くのスーパーへと来ていた。


ダイアナはボロボロのワンピースしか持っておらず、かといって男物を

着せるにしても自分は170cmものの服を着る。ダイアナは143cmらしく、


30cmも差のある服を着せてしまってはどうやったって服の裾が地面を

思いっきりこすっていく想像しか出来ない。そのため今自分が持っている中で


一番小さい上着をダイアナに着せたわけだが、ダイアナは思えば拾った時も

裸足だった。さすがに小さい靴はなく、かと言って実家から持ってきてもらうも


遠いし、どう考えても不思議そうにされるであろう。自分の母…古瀬杏ふるせあんは、

幼いころに亡くなった父親の分まで育ててくれたものの、何かと厳しく、

勉強面は辛かったのを覚えている。


父親の名前は確か、古瀬暖ふるせだんと言っただろうか。幼心に母親よりも

厳しかったのを覚えている。ダイアナにも前に話したけれども、父親は本が


大好きで、名前に似つかわしくなく冷酷でほとんど喋らない父親だが、

本のこととなれば表情が緩んでいたその姿に、やっと名前に似つかわしくなったなと

母親はよく思っていたらしい。


けれど失声症となってしまった自分に真摯に向き合い、文字酔いをして

しまうためか国語が苦手教科となってしまったとき、


『他の教科で補っていこうね』


と、文字酔いをしてしまいワークも見れない自分に合った勉強方法を考えてくれて、

誕生日は盛大に祝ってくれた。中学を卒業し義務教育を終えてからは


勉強面についてはもう支える必要がなく、これからは自分で生きなさいと

言ってからは多少過保護で心配性になってしまっていたような気がする。


そんな母親に小さな靴を頼めば、怒涛の質問タイムが待っている。実家は裕福で、

情けなくも仕送りをしてもらっているが当然家の光熱費などの分だけ。


到底ダイアナに靴を買ってあげられるようなお金は自分にない。

デカイ上着で裸足のダイアナに、隣に居る自分。


(…周りの視線が痛い)

「気にすることない。ありのままで。」


うん、それはちょっとありのまますぎだと思う。

人間気にしすぎもよくないってのはわかっているけれども。


(荷物、何も持ってないけど大丈夫かな…)

「財布とスマホと手紙があれば大丈夫だと思う。…多分」

(多分って、自信…)

「あの手紙、日付に荷物に表記が少なすぎる。」


まぁでも、アリアも朝陽が「焦っていた」と言っていたから、やっぱりアリアから

聞いた話で「物の文字化」現象は深刻だなんだととらえたんだろう。


「行こう。今、8時46分。」

(うーん、細かい…)


15分もあるのなら絶対に着くだろう。



(周りの視線…)

「気にしない」



歩くこと10分。意外と早く着いたワケではあるが…


(…本当に此処?)

「此処しかない」


いやそうだけれども…と言いたいがそれを抑えて目の前にある地図上でゴールと

示されていた家を見上げる。スーパーや自身の家がある町から少しはずれた場所。


他の綴リビトや寄り添いビトの家って案外近かったんだな、と思ったのも一瞬。

家が…とてつもなく大きかった。館と言っても過言ではないというかそれしかない。


ゲームや漫画で出てくるような立派な館だったが、ホラーとかで出てきそうな

暗い色ではなく、明るい肌色の壁で出来た館であった。


(これ、押して大丈夫かな、人違いとか…)

「ない。あってもまぁ…大丈夫」


どこに根拠があるんだ、と叫びたい衝動に駆られる前に、ダイアナが一寸の躊躇いも

なく相変わらずの真顔のまま門のインターホンを押した。押しても音はなかったが、


きっと家の中で聞こえる仕組みなのだろう。家のドアが音を立てて開けられた。

焦茶こげちゃ色のドアが開いて出てきたのは…


(あっ)

「アリア」


アリアだ。一昨日初めて出会った時と変わらない服装で出てきたアリアはテテテ、と

小走りで庭を駆け抜け、門を開けてくれた。


「…ダイアナ、その、恰好、何、何ですか」

「ワンピース、ボロボロだったし着るものなかった。しょうがない」

(すみませんねこっちはお金がないんですよ…)


チラッとこちらを見た二人に言いつつ、なんだか悲しくなってきた。

実家が(以下略)だからって自分も裕福とは限らないんだ…。


「朝陽、待つ、待っています、他、もう、来る、来てる。早く」


朝陽さんと…“他”は言うまでもなく別の綴リビトと寄り添いビトのことだろう。


「全員、来てる?」


ダイアナが一昨日と同じ質問を問う。


「…バージル、エルヴィス、フィオナ、ギャリー、ヘレナ、来る、ない、来ない。」

「バージルとエルヴィスはともかく…フィオナと、ギャリー、ヘレナも?」


少し驚いたような声でダイアナが返すため、多分今挙げられた中で、

「来ない」ことに予想外の人物が居たのだろう。綴リビトは言葉のカウンセラー。


寄り添いビトに何かあったり、何かの事情があれば緊急事態といえど来れないと

いうことはあっても不思議ではない…と自分は考えているが。


ダイアナが言っていた通り、海外にいる、という綴リビトもきっといるのだろう。

門を通って、庭を歩いて、ドアから中へ入る。玄関は自分の家のキッチンほど


あって、目の前に2階へと繋がる木製の階段があった。階段前の1階の左右には

ドアがあり、左に2つ、右に2つだ。こういう館の階段には赤い絨毯が敷いてある

イメージがあるが、敷いていない。その階段を踏んで2階へとアリアへ案内される。


(ここって…使用人さんとかいないんですか?)

「居る。でも、招待客、全員、来る、来るまで、静か、している、よう、

朝陽、言う、言った、使用人、言われている。貴方達、最後。」


うわぁ、やっぱいるんだ…と思う自分をよそに、

だから、もうすぐ、また、騒がしい、騒がしくくなる。そう言ったアリアは

上がった先にある一際大きなドアを開けた。そしてアリアとダイアナと入ったとき、


1階が騒がしくなるのが、ドアが閉じられる瞬間に聞こえた気がした。



「お邪魔s「わぁー!」はうっ」

(んえ?!)


ドアが閉じ、ダイアナが礼儀よく「お邪魔します」と言おうとしたとき。

黒い“何か”が飛んできた。一瞬暴言者かと思ったが、ココには綴リビトが

いるためない…はず。


「朝陽、危険。危ない」


ドアにダイアナの頭が激突する寸前で倒れこみ、ダイアナの上に乗っている

黒い“何か”をアリアは朝陽と呼んだ。…ということは。


「えー?だぁいじょうぶだいじょうぶ!」


明らかに大丈夫ではなく、漫画のようにダイアナが目を回している。

そんな上に乗っかっていた朝陽は顔を上げ、平然と笑った。


肩にギリギリつかない少し白い金髪の髪の毛と二本のアホ毛はそれに合わせて揺れ、

顔は少女のように幼く笑っていた。黒い“何か”は身に着けていた服のようで、


少し大きいのか袖にすっぱり手が入っており、それでもだいぶ袖が

余っている状態だ。


「まったく。そうやって遊ぶからいつまでも成長しないんだ。」

「あら、蓮も成長していないじゃないですか。…身長が」

「アリアの寄り添いビトは元気ねぇ。」

「元気すぎだと思うけどなぁ…。」


ダイアナが倒れているため必然とドアのほうに体ごと目線を向けていたが、

背後から声が聞こえて、他にも客がいることを思い出し振り返る。


振り返れば大きな白いテーブルがあり、その左右の椅子にそれぞれ2人ずつ

座っていた。この部屋のイメージは応接間といった感じで、ドア側に立っている


自身から見て右側に暖炉が置いてある。現在は5月と言えど冷え込んでおり、

火が弱く燃えている。


「なっ…そういうことを言っているんじゃない!俺は精神面の話をしているんだ!」

それに、毎日ちゃんと牛乳を飲んでいるしモゴモゴ…」


右側の席に座って、先ほどの言葉に慌てて反論したのは緑のシャツに

白いセーターが映える、朝陽よりも色の濃い金髪の少年だ。


「あら、でも私から見れば精神面であれど、蓮もすごく子供ですよ?」


うふふ、という華やかに笑うのはその少年の隣の席に座る女性だ。白い無地の

ノースリーブの上に白い暖かそうなカーディガンを羽織り、少年のシャツと同じ


緑色のロングスカートを履き、耳に三日月形の金のイヤリングをつけた女性は

微笑ましそうにその少年を見つめている。


「アリアの寄り添いビトさん、そろそろどいてあげなさい。

ダイアナが苦しそうでしてよ。」


左手でちょいちょいと朝陽に向けてどくように言ったのは左側に座る少女だ。

黒いメイド服を着た少女はおかっぱで、朝陽と同じくその顔に幼さが残っていた。


「そ、そうだよ、どいてあげないと話が進まないし…」


内気そうにそう言ったのはその隣の席に座る少女だ。前の席の少女と同じ

格好をしていて同じ顔をしている。双子だろうか。


「重い…」

「え、僕軽いと思うんだけどなぁ、しょうがないなー」

「貴様お前さっきまでどんだけお菓子を食べていたと思うんだ!

多少すでに太っているはず…!」

「朝陽、太る、太らない、太りません。そういう、性質。」

「…だそうですよ、蓮。」

「あらあらまぁまぁ、うらやましぃ」

「イザベルも太らないじゃないか…というか全員…蓮以外…」

「なんだと?!」


ワー、ギャー、と争い始めた4人をよそにダイアナの上から降りた朝陽は結翔に向って

歩いて来た。未だ苦しそうにするダイアナにアリアが駆け寄ったので、朝陽に目線を

寄越すことにした。…まだ心配であるけれど。


「えーっと…直接会うのはこれが初めてだね!初めまして!」


そう言うと朝陽は手を結翔に向ってその袖が有り余って覆われた手を伸ばした。

そして微笑むと…




「僕が、言ノ葉綴リビトが1番目・Ariaの寄り添いビト、

羽衣石朝陽ういしあさひです♪」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る