第18話

 学院が始まった。3年生という事もあり、授業は少なめなのよね。そしてどういう理由かは分からないけれど、ソニアが入学していたわ。


子供は流れてしまった?


それとも、元々嘘を吐いていた…?  


ソニアならありそうなのよね。とにかく私はソニアには近寄らないわ。


 そうそう、それとは別にローサが休みの日に髪飾りの土台部分を持ってきてくれたの。あの日以来仕舞ったままにしていた貝殻達。ローサと一緒に貝殻で髪飾りを作ったの。とても可愛く出来ていたので普段使いにしているの。


長い髪の毛もローサに肩まで切って貰った。ローサは泣きながら切ってくれた。私に何かあっても良いようにとその髪の毛を鬘にしてくれるらしい。いつもローサには迷惑をかけっぱなしね。でも短くなった髪はとても楽ちん。頭が軽いわ!髪を洗うのも楽だもの。


 クラスメイトも短い髪の私を見て驚いていたわ。そして平民になった事も。もうここまでくると触れてはいけない話題のようにそっとしてくれている。


ジョシュア様も髪を切った事はとても驚いていた。父以外の家族には私が平民になった事を知らせていないのかもしれないわね。話題にも上らないでしょうし。


 さて、しんみりした話はその位にして、王宮の薬師試験まで後2ヶ月。私は朝早くから夜遅くまで勉強に明け暮れる。女を捨てたの?って言われてもおかしくない程身嗜みは最低限の事しかしていないかも。短くなった髪にはローサと作った髪飾りを付けている。ジョシュア様への当て付けではないわよ?物に罪は無いのだから。でも私の女をサボっている様子を見たらローサは絶対怒り狂うわ。


 ローサとは偶に手紙のやり取りをしているのだけど、相変わらずソニアは我儘三昧みたい。どうやら子供は出来ていなかったらしいわ。その事で家族会議をしていたと手紙に書かれてあった。


色々と旧我が家の事情を教えてくれるローサには助かっている。




そんなある日のお昼。


「ジョシュア様!お昼を一緒に食べましょう」


淑女らしからぬ勢いでクラスに入ってきたソニア。


「あら?お姉様と私の婚約者のジョシュア様は同じクラスでしたのね?」


クラス内の和やかな雰囲気がガラリと変わり、緊張の糸が張り詰める。


「ソニア、そんな事をここで言うものではないよ」


ジョシュア様が宥めるように言うが、ソニアは気にしていない様子。喧嘩を売っているのかしら?私はソニアを無視してそっと席を立ち移動しようとしていると、


「何で無視をするの!?そんなにジョシュア様が選んでくれた私が気に食わないの!?」


なんとも的外れな事を大声で言っているわ。それにしても酷いわね。空気も読めない元妹。恥ずかしくて居た堪れないわ。私は振り向いてソニアに答える。


「周りをよく見てご覧なさい。今ここで話す事かしら?ジョシュア様、ソニアの事を宜しくお願いしますね」


私はさっと礼をして教室を出る。ジョシュア様もこれでは辛いわね。でも貴方が選んだ伴侶なのだから最後まで責任持ってとしか言えないわ。


この先もこうやってクラスに突撃してくるのかしら。頭が痛い。


落ち着いてきた残念令嬢としての逸話をまた一つ作ってしまったわ。


その後も何度となくソニアはジョシュア様に会いにクラスに突撃しては場を乱して行くので流石のクラスメイトも担任も事態を重く見て、ソニアは3年生のクラスへの立ち入り禁止。私への接近禁止令も出たわ。もちろん侯爵家に知らせも入ったらしい。





「…という事があったんです」


「はははっ。愉快な話だね」


と笑うのはファーム薬師長。茶菓子とともに話は進んでいく。


「全く酷い話ですよね。妹と会わないようにみんなが気を遣ってくれるので心が痛いです。あ、薬師長。明日から王宮薬師試験に向けて最後の追い込みをするので試験が終わるまで来られないです」


「あーそうだったな。まぁ、試験を頑張ってこい。俺もトレニアが働きに来てくれるのを待っているからな。どれ、推薦の一つも出しておくかな」


「本当ですか!?嬉しい!では頑張ってきますね!」


私は日課の植物の手入れ後、寮に戻った。試験まであと少し、頑張るわ。


 その日から毎日最後の追い込みとばかりに勉強三昧。受験当日はローサが仕事を休んで付いてきてくれたの。やはり1人で大丈夫だと思ってはいても隣に誰か居てくれるだけで気分も違うわ。


 今回の薬師試験には20名も居ない位の参加者だった。文官志望者は別室で試験を受けていたけれど200は超えていたと思う。私は薬師長から教わった事や勉強してきた事がばっちり試験に出ていたので全て回答する事が出来たと思う。


やり切ったわ!


「ローサ!やり切ったわ。全部書けたの。難しかったけれどなんとかなったわ!」


「お疲れ様でした。今日は私が夕食を作ったので沢山召し上がって下さいね。料理長からレシピも貰ったのです。邸の使用人達はみなお嬢様の事を心配しておりました」


「ローサ!有難う」


私はまた涙が出た。苦しかった思い出が美味しい食事と共に消えていくような気がする。


翌日の朝、ローサは仕事へ戻っていった。

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