悪役令嬢の妹ですが幸せは来るのでしょうか？

第20話

「トレニア様、起きて下さい。朝です。遅刻しますよ」

まだ眠いわ。布団をしっかりと被ろうとするがローサは容赦なく起こしてくる。… 仕方がない。私はぼんやりしているうちにローサは私の着替えや髪型を整えていく。

「トレニア様、しっかり起きないとスープを溢していますよ」

はっ、気がつけば準備が全て終わって食事も半分くらいボーっとしながら食べていたわ。ローサに送り出されて学院へ登校する。変わらないクラスメイト。でも、どこか緊張している。

何故…？

そういえば、長期休み前の試験があったわ！危ない所だった。就職試験に全力を傾け過ぎて忘れていたわ。帰ったら勉強しないと。最近、忙しくて時間が過ぎるのが早い。

私は試験に向けてまた勉強を始める。今はローサが料理や身の回りのお世話をしてくれているので余裕がある。明日は王宮よね。私は勉強をそこそこに早めにベッドに入って眠りについた。お休みなさい。

「トレニアお嬢様、心の準備は出来ましたか？」

「ローサ、変じゃない？あー緊張するわ」

私が立っているのは謁見室の扉の前。就職にあたっての手続きだけかと思っていたらどうやら急遽陛下との謁見がセッティングされたらしい。開かれた扉を進むとそこには国王陛下と宰相、ファーム薬師長が立っていた。私は赤絨毯を歩いて一礼をし、口上を述べる。

「よい。トレニアと言ったな。ガーランド侯爵の娘か。噂は聞いておる。第二王子ディランのせいで迷惑をかけたな。今日、呼んだのは明日からファーム薬師長の補助に入って欲しいと思ってな。どうじゃ？」

えっと、明日から？学院は？

「明日から働くのは構いません。ですが私、現在学院の寮に住んでおりますゆえ、新たに住む所を探さなくてはなりませんし、学院の方はまだ卒業しておりません。退学となるのでしょうか？」

「そうであったな。何分トレニアは歴代でも一二を争うほど優秀だとファームが騒ぎ立てていてな。早く欲しいと急かしてくるのだ」

ファーム薬師長。私、感動で涙が出そうです。

「学院は飛び級制度がある。幸いにもトレニアは3年生も半分以上過ぎているから授業も殆ど無い。復習を兼ねた試験をいくつか受ければ卒業出来そうだな。寮については王宮の寮を使いなさい。

平民枠だが、薬師の部屋となると個室が与えられる。学院の貴族寮と同じ位だろう。すぐに越して来れるように手配しよう。ファーム、それで良いだろう？」

宰相が陛下の代わりにテキパキと指示をしているわ。

「流石宰相だな。助かる。トレニア、という事だ。明日には無理でも、そうだな、引っ越しが済んだ3日後から出勤するように。学院の試験日が楽しみだなっ」

はははと笑うファーム薬師長。私には拒否権は無いらしい。でも思っていたよりも早くに王宮で仕事が出来る様になったのは正直ありがたいわ。

まさか飛び級制度を最後に使うとは思っていなかったけれど。これが1年生の時だったなら卒業までは無理だったと思うわ。けれど、3年生の後半に差し掛かろうとしているこの時期からは就職活動し始めるので必要な勉強は終わっていて後は楽なものばかりなのよね。

なんとかなりそう。

　私は陛下に礼をして謁見室を出てからローサを連れて薬師の棟へ向かった。ファーム薬師長から詳しい話をきくためだ。薬師長の執務室をノックして部屋に入ると既にお茶を用意して私が来るのを待っていたみたい。

「それにしても急かしてすまんかったな。運が悪い事に先日、王宮薬師が1人親の介護の為に領地に帰ると辞めてしまったんだ。少数精鋭でやってきていたんだが、1人居なくなると途端に業務がこなせなくてな。

薬の知識が無い者を手伝わせる事も出来ずに本当に困っていたのだ。ちょうどトレニアが試験に合格してくれていたので助かった。今すぐにでも仕事を回したい位だが、とりあえず引っ越ししてくるまでは皆に頑張ってもらうしか無いな」

そう言ってファーム薬師長はのほほんとお茶を飲んでいる。私は用意された契約書を読んでサインをしていく。薬師の給料って凄く良いのね。ローサを4、5人軽く養えてしまうほど。沢山美味しい物が食べれるわ。

ちょっとドキドキしながら夢を描いていく。

私は明日からの引っ越しの準備があるため、ファーム薬師長に書類を渡して寮に急いで戻った。

「トレニア様、おめでとうございます！明日からの引っ越し作業は任せて下さい」

ローサはニコニコしながら準備に取り掛かろうとしている。

「ローサ、その事なんだけど、お願いがあるの。私は働きだして給料を貰う。ローサが良ければ私の侍女として来月から王宮の寮に一緒に来て欲しいんだけど、駄目かな？」

私の言葉を聞いたローサの手は止まり、震えている。

「トレニアお嬢様、私はお嬢様にお仕えしてもよろしいのですか？」

「勿論よ。是非、ローサにお願いしたいわ。あ、でもお父様に今から手紙を書くわ。お父様の許可が降りたらすぐにでも来て欲しいくらいよ？」

「そういう事でしたらすぐに書いて下さい。直ぐに侯爵家へ手紙を持って行きます！」

そうして私はローサに追い立てられるようにお父様に手紙を書き、翌日は朝から引っ越しで沢山の荷物を運ぶ事になった。