第10話

 私達は馬車に乗り込み、海に出る道を行く。馬車から海が見えるにつれ、潮の香りや波の音。私のテンションも高まっていくわ。


 砂浜に入る前に馬車を止めてジョシュア様のエスコートで海辺に降り立つ。ローサは敷物を借りてきたようでささっと広げているわ。


「ジョシュア様、海ってこんなに広いのですね。キラキラ輝いていて凄いです。本で読んだだけではわからない事だらけですわ。潮の香りや風、波の音、海の青さ本当に素敵です。私を連れて来て下さって有難う御座います」


「トレニア嬢、喜んでくれて良かったよ。少しの時間しか取れなくてごめんね」


「ジョシュア様、私はここに来れただけで幸せですわ」


ジョシュア様はふわりと微笑んだ。


 それから私は貝殻を拾って集める事にしたの。貝殻ってたまにアクセサリーに付いているのを見かける位でこんなに海辺に落ちている物とは知らなかったわ。ローサにお願いして拾った貝殻を小瓶一杯に入れて持って帰る事にした。


ローサが後で髪飾りの土台部を用意してくれると言っていたわ。自分でアクセサリーを作る事が出来るだなんて凄い。その様子をジョシュア様は笑顔で見ていた気がする。少しの時間だったけれど、とても楽しめた。



 私達はそのまま馬車に乗り込み、1日目の視察場所に入り見て周る。1日目は保養地に入る手前の農村だった。ここの農村では主に保養地の街の台所を担っているらしく、様々な種類の野菜が育てられており、村自体も貧困には程遠い様子。今回、この農村では村で作っている農産物、困っている事を村役場の一室で住民達の話を聞く。


久々に領主が領地視察に来たという事で村の困り事や要望は多かった。そのいくつかは切実だと必死に訴えられたわ。


 ジョシュア様は嫡男だが、領地視察の経験は浅いらしく戸惑っている部分もあるみたい。辿々しい口調で話をしているわ。私は後ろで観ているだけにしておこうと思っていたのだけれど、ジョシュア様が困っているようだったので後ろでメモを取り、ジョシュア様のフォローをしつつ、住民達に噛み砕いて話をしたり、折衝役を買って出た。


 予定より大幅に遅れたが無事懇談会は終わった。私達は村長宅に泊めて貰う事となったの。ささやかながらと地元で採れた野菜を使った料理を出してくれたので私は村長さん達にお礼を言って美味しく頂いたわ。


 採れたての野菜はやはり美味しい。私は一つ一つ感謝して食べているとふと視線を感じた。視線の方向に顔を向けるとそこにはジョシュア様が微笑みながら野菜を頬張っていた。私は食事に夢中過ぎて顔に『美味しい!幸せ』と出ていたかしら。


 私は小さな頃から領地視察をしていたせいかドレスや宝石よりも領地の住民達と産地の食べ物を食べたりする方が好きだわ。


今食べた料理のレシピを後で下さいって村長さんの奥さんに頼むと、奥さんはあらあらと嬉しそうに作り方を教えて貰う事になった。


「トレニア嬢、君が料理をするのかい?」


「ええ、寮に住むようになってからなるべく自炊をしていますわ。まだまだ料理初心者で失敗ばかりしておりますが、我が家には卒業後も帰る予定はありませんもの。今は市井へ下りる事も視野に入れて1人生きていくための練習をしているのです」


そう話をするとみんなが驚いたように目を見開いている。何か変わった事を言ったかしら?


「こんなに素晴らしいトレニア様が市井へ。なんて勿体無い」


「ふふっ、村長さん有難う御座います。そう言って頂けると嬉しい限りですわ」


そうして美味しい食事を食べた後、ローサに湯浴みを手伝ってもらいベッドへ入る。今日は沢山の事があったわ。帰る前にまた海が見れたらいいな。

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