第11話

 翌朝、ローサに起こされて寝ぼけ眼でワンピースに着替えて食事をする。あまりにボケボケしていたせいか出発前に村長さんの奥さんから心配されてしまったわ。


「トレニア嬢、朝が弱いんだね。また一つ君を知る事ができた。それと、昨日の住民との懇談会は助かったよ。僕1人では失敗に終わっていたと思う。今日も僕の側でフォローしてくれると助かるのだけれど、いいかな?」


「ふふっ、ジョシュア様なら1人でも充分にやって行けますわ。私のフォローなんて微々たる物でしかないですのよ?私はジョシュア様の側におりますわ」


 そうして視察2日目は森の中の村へ、3日目は海沿いの村へ赴き、視察や懇談会を重ねて保養地へと戻ってきた。


 なんだかんだで忙しく過ぎて行ったわ。1日はゆっくりしたいわ。そう思いローサとジョシュア様の邸でのんびりしていると執事と思われる人が1着のドレスを持ってきた。


「トレニア様、ジョシュア様からの贈り物です。今晩は保養地で行われる夜会がありますので是非参加して欲しいとの事です。夕刻にお出迎えに上がりますのでご用意をお願い致します」


渡されたドレスは深紅の色でゴールドのレースをあしらったAラインのドレスだった。


「ローサ、見て!なんて素敵なの」


「お嬢様、良かったですねっ。今夜はばっちりお化粧しましょうね!」


ゆっくり過ごせたのも束の間。昼過ぎからきっちりローサに湯浴みとマッサージ、ドレスを着せられてばっちり化粧に髪のセットをしてもらった。夜会に出るまでに疲れたわ。


「ローサ、疲れたわ。もう夜会行かなくてもいいんじゃないかしら」


「お嬢様、なりません。ほら、ジョシュア様が来られましたよ」


ローサはそう言って扉を開けるとそこには黒のフロックコートを来たジョシュア様が立っていた。


「トレニア嬢、とても綺麗だよ。さぁ、お姫様。私の手をお取り下さい」


私は普段とは違うジョシュア様にドキドキしながら手を差し出す。


「ジョシュア様、有難う御座います。今夜のジョシュア様も素敵ですわ」


 ジョシュア様にエスコートされて向かった夜会の会場。華やかな音楽に包まれ、煌びやかな会場はドレスアップした貴族達が楽しそうに踊ったり、談笑したりしているわ。私はもちろん夜会なんて出た事が無いの。姉はいつも出ていたけれど。姉や妹のように美しく無い私。


少しだけジョシュア様に申し訳なく思う。


「トレニア嬢、せっかく来たのだから僕達も踊ろう」


私はジョシュア様に手を引かれダンスホールの中央まで行き踊り出す。


「ジョシュア様、私ダンスはとても久しぶりですわ」


ジョシュア様はダンスをリードしてくれているのでとても踊りやすかった。私はなんて幸せ者なの。


「ふふっ。あちらの方でジョシュア様を待つご令嬢が沢山いますわ。学院でも保養地でもジョシュア様は大人気ですわね」


「トレニア嬢、このまま2曲目も踊って良いだろうか?ずっと考えていたんだ。君を生涯のパートナーにしたいと。結婚して欲しい」


思わず踊っていたのを忘れて立ち止まる。


「わ、私でよいのですか?」


「ああ、勿論さ。明日には保養地を出るけれど、学院の寮に入る前に君の家に寄って婚約のお願いに伺おう」


「… 嬉しい」


 私達はそのまま2曲目も踊り、周囲の人々は私達を祝福してくれたわ。私は幸せになって良いのかな。


嘘では無いのよ、ね?


ふわふわな気分で夜会の夜は更けていく。


 翌日はまた寝ぼけ眼で馬車に乗り込み王都へと帰る。ローサは今朝1番に父宛に侯爵家に寄ると手紙を送ってくれたので先触れ位の速さでお父様に届くと思うわ。


私とジョシュア様は行きと同じように馬車の中で雑談しながら王都へと向かった。

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