第40話
王宮や貴族の庭園はシンメトリーを意識した庭が多い。けれど、ターナ様に案内されて向かった中庭には妖精が住んでいそうな色とりどりの花が咲いている。よく見ると、草花の背の高さや配色など全てが計算し尽くされた素晴らしい庭園だった。
「ターナ様、なんて素敵な庭なのでしょう」
「トレニア、気に入ってくれたかな?この足元に咲いている花はよく知っているよね?」
ターナ様は庭の植物の話をガゼボでお茶を飲みながら話してくれた。この庭園は素晴らしいわ。目に焼き付けて帰らないと。
「トレニア、結婚すれば毎日この庭でお茶が出来るよ」
「まさか初デートで結婚の話が出るとは思わなかったです」
「トレニアにとっては驚いただろうね。でも俺は1年以上も待っていたんだ。君を是非妻に迎えたい。生涯君だけを愛する事を誓う」
ターナ様はそう言って私の指にキスを一つした。急転直下、世界が一変するとはこの事なのね。
妖精の森に迷い込み、王子様からのプロポーズ。もう一生無いと思っていたの。私には縁が無いと。
誰もが姉妹を優先する。
苦しい思い出が、蓋をしていた黒い感情が暴れ始め、涙が出てくる。
「トレニア?嫌だった?」
心配そうにターナ様は顔を覗き込み聞いてくれた。
「…いいえ。私は幸せになっても良いのかなって、こんなにも人に想われていた事がなくて、また姉や妹に大事な人を取られてしまうのかなって…。怖くて、不安で。上手く言えなくてごめんなさい」
ターナ様はそっと私を抱きしめた。
「大丈夫だ。俺はトレニアしか見ていない。どんな美女もトレニアには敵わない。この2年トレニアの事をしっかりと見てきたつもりだ。俺はトレニアが好きだ。それでは駄目か?」
「… ターナ様、嬉しいです」
「トレニア、今度の休みに復籍届を侯爵家に出しに行こう?俺も一緒に行くから。何も心配しなくていい」
「…分かりました」
そうして私は婚約のための書類や手紙を受け取り、ターナ様に送られて寮へと帰った。
初デートでまさかのプロポーズにローサはとても驚いていたけれど、流石はお嬢様!チョロイン過ぎますけどね。あぁ、すぐに侯爵家へ知らせを出さないといけないですね!と上機嫌で夕食を作っていた。
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