第4話
翌日、父は学院へ連絡し急遽寮へ入る手続きを取る事になったようだ。父なりに気まずいと思ったのだろうか。私の願いを聞こうと思ったのかは分からないけれど。
その日以降、慌ただしく私の荷物が学院の寮へと運ばれていく。寮では侍女を1人付ける事ができるが基本的には自分1人で全ての事をしなければならない。
私は貴族令嬢だから一人で身支度が出来ないの、という事は無い。むしろ何年も領地で1人過ごし、領地を回る為に常に一人で身の回りの事をしていたのだから苦ではないの。
「トレニアお嬢様、旦那様がお呼びです」
荷造りを終え、出発直前に執事に呼ばれて私は執務室へと入る。
「お父様、お呼びでしょうか?」
父はソファに座っており、私は向かいにそっと座ると父の専属執事がお茶を淹れてくれる。父は黙ってお茶を飲み、私も合わせて口を付ける。
何を言われるのだろう。
沈黙が部屋を息苦しくさせる。
あの日から私は家族と一度も食事も話も顔を合わせる事もしていない。もういい、私は誰も信用出来ない。誰も私の事なんて見ていないじゃない。
「… お父様。お話とは何でしょう」
少し眉間に皺を寄せた父が口を開く。
「あぁ、そうだな。トレニア、あの時はグリシーヌの事で気が立っていたとはいえ、トレニアの気持ちを全く考えていなかった。… すまなかった。すぐに新たな婚約者を充てがう」
「謝罪など要りませんわ。それに新たな婚約者を探そうとしても私の歳にあった良い方々は既にみな婚約者がおります。婚約者をすげ替えられる程の無能な私を引き取る方なんて年老いた方の後妻位ではありませんか。
姉に振り回された私は何処まで我慢すれば良いのですか?少しでも悪かったと思うのなら私に学院卒業後、自由を下さい。私は家族から離れたい。貴族籍も抜いて平民にして貰うのが私の希望ですわ」
父は私が反論するとは思わなかったようで目を見開き、驚いている。そして父は暫く考えた後、口を開いた。
「… そこまでトレニアを苦しめていたのか。分かった。学院卒業後は働きに出ても構わない。ある程度の自由は許す。だが、我が家から籍を抜く事を許す事は出来ない」
「分かりましたわ。ではお父様、私はこれから学院の寮へと向かいますので失礼しますわ」
「トレニア、グリシーヌ達の事は気にせずいつでも邸に帰って来なさい」
父は部屋を出ようとする私に声を掛ける。
「気が向いたら帰りますわ。では行ってきます」
私は父にそう告げ、学院の寮へと向かった。
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