ー if story ー カイン1
「トレニア、陛下がお呼びだそうだ。すぐに第二謁見室へ向かうように」
陛下に呼ばれる事を何かしたかしら。色々と考えてみたが何にも思い浮かばない。
「今回は何で呼ばれたかワシも分からん。ワシが同席しても良いとの話だったから一緒に出よう」
私を安心させるようにファーム薬師長はそう言ってくれた。
「是非、お願いします」
私はファーム薬師長と一緒に第二謁見室へと向かう。
第二謁見室は大勢が謁見出来るように広々とした部屋なのだが、第二謁見室は少人数の謁見が主で部屋も執務室程度の広さである。そして私達が第二謁見室へ入るとそこには陛下、そしてカイロニア国の第三王子であるカイン殿下と従者の方、他2名が立っていた。
「ファーム、それにトレニア。待っていたぞ」
私は礼をすると挨拶はいいからと止められた。
「トレニア、今回そなたを呼んだ理由は横にいるカイロニア国第三王子のカイン王子を2週間ほど客人として迎える事となった。そして君に約2週間の案内役を務めて欲しい。カイン王子からの指名でもある。カイン王子と一緒に来た薬師2名はファーム、任せた」
「私が案内役?わ、分かりました。カイン殿下、これから2週間の間宜しくお願いします」
ファーム薬師長は辞令に渋い顔をしていたけれど、こればかりは仕方がないので口を出す事はなかった。
「カイン殿下、ではご案内致します」
「トレニア、宜しく頼む」
ファーム薬師長は陛下とまだ話があるらしく、私とカイン殿下だけで先に謁見室を出た。もちろん後ろにはカイン殿下の従者はしっかりといる。
「まず、王宮内を案内した方がよろしいですか?」
「今日は移動で疲れたし、お茶をゆっくりしたいな」
「分かりました。来賓客専用のテラスに参りましょう」
私はそうしてカイン殿下をテラスへと案内した。王宮の従者がお茶を淹れてくれるので私達は席に座りお茶を飲み始める。
「明日はどこへ行こう?王宮の案内してくれるかな」
「ええ、分かりました。王宮ですね」
私とカイン殿下は明日の話をしていると1人の令嬢が声を掛けてきた。ここは賓客の為の場所なので許可した者以外は入れないのだけれど。
さて、どうしたものかしら。
お茶を淹れてくれた従者は入ってきた令嬢に礼をしているわ。彼女を知っているのね。
「あの、カイン・カイロニア第三王子殿下、ですよね?」
「ええ、そうですが、貴女は誰です?」
「あぁ、良かった!私、サロニア国宰相の娘、サラ・コナーと言います」
宰相の娘か。宰相の力でこの場所に入ってきたのね。
「コナー侯爵令嬢様、このテラスに入る許可はしておりません。どうぞお帰り下さい」
私は立ち上がり、カイン殿下の前に庇うように立ち令嬢に話しかける。
「貴女には関係ないわ。下がりなさい。私は父にお願いしてここへ来ているのです。殿下、平民に代わり私が案内役を務めさせて頂きます」
令嬢はキッと目を吊り上げ私を敵視するように睨みつける。私はその視線をカイン殿下に見せないように立っていたのだけれど、カイン殿下はそっと立ち上がり、私を引き寄せ口を開いた。
「ははっ。君が案内役だって?酷い冗談だ。僕の案内役はトレニアだよ。僕が指名し、陛下からも許可を得ている」
「ですが、平民である彼女より、教養を身につけた侯爵家の私の方が相応しいですわ」
「君、本気で言っているの?トレニアは元侯爵令嬢だし、現在はファーム公爵が後ろ盾になっている。淑女としてのマナーも完璧で薬師としても一流だ。君とは比べ物にならないよ。わざわざ隣国からトレニアを口説く為に来ているのに他の令嬢と一緒にいる馬鹿が何処にいるんだ?」
そう言ってカイン殿下は私を後ろから抱きしめて見せつけるように首元にキスを落とす。私は当然の事ながらびっくりしている。顔には出さなかった事を褒めて欲しい。
だって、あのご令嬢達が群がる中を楽しそうに過ごしていた殿下が令嬢を冷たくあしらっているんだもの。それにこんなに密着しているわ。そう思っていると、カイン殿下の従者が素早くコナー侯爵令嬢をテラスから連れ出した。
「… カイン殿下、よろしかったのですか?」
「ん?何をだい?」
「ご令嬢達に囲まれる事を是としていたのにコナー侯爵令嬢を冷たくされて」
カイン殿下は私と向き合う。
「トレニア、僕は君を妻に迎えるために隣国にやってきた。君がカイロニアから発った後、後悔ばかりしていたんだ。もう後悔はしたくないと思ってカイロニアで君を悩ませる芽を全て摘み、サロニアへ来た。もちろん陛下も知っているし、君の父上にも話は通してある」
私の知らない所でいつのまにか外堀が少しずつ埋められている気がするわ。
「カイン殿下、私は一つも聞いていませんでした」
「ごめんね。先程の令嬢が居なければ言うつもりは無かった。トレニアに今の僕を見てほしい。僕はトレニアといた短い期間でそれまで当たり前だった事柄全てがおかしいと思えるようになった。サロニアで君を妻に迎えたいと話をすると、皆がトレニアの意志を尊重して欲しいと言っていたし、もちろん僕も無理に連れて帰るつもりはない。トレニア、僕と結婚して下さい」
「カイン殿下、嬉しいです。ですが…お返事はもう少し後でも良いですか?もっとカイン殿下の事を知りたいです」
本来なら隣国であっても王家からの申し出は断れないけれど、カイン殿下は私に無理強する事はなかった。誠実であろうとしてくれるカイン殿下に私も誠実でありたい。
私は翌日また迎えに上がりますとカイン殿下を部屋まで送り、家に戻った。
「ローサ、聞いて。今日、カイロニア国からの客人でカイン殿下が来たの。2週間程の滞在で私は案内役を務める事になったわ」
「それはおめでとうございます。カイン殿下とは知らない間柄では無いですし、お嬢様が案内役なら大丈夫ですね」
「それがね、サロニアに来た理由は私を妻に迎える為に来たって告げられたわ」
「あの女好きの殿下が?大丈夫なのですか?」
「分からないの。こっちへ来るために全て清算してきたらしいの。今日だって宰相の娘がカイン殿下に取り入ろうとして拒否されていたわ」
「様子を見るのが良さそうですね。私はお嬢様がどんな選択をしようとも付いて行きますからご心配なさらずに」
ローサはにっこりと微笑んでいる。
「有難うローサ!」
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