ー if story ー レコルト薬師

 ある日の午後。


「トレニア、これを試して欲しい」


レコルト薬師から渡されたいくつかの小袋。


「これはポプリですか?不思議な香りがしますね」


「これは洗い粉というものだ。これで洗顔や体を洗ってみてほしい」


「分かりました」


 私は不思議に思いながらも家に帰ってから教えられた通り入浴時に体を洗ったり、顔を洗ってみた。ふむふむ、普通の石鹸は泡が立つけれど、これはないのね。香りは凄く上品な香りだわ。お風呂から上がって気づいたの。


肌が今までになくしっとりしている。


「ローサ!これ、凄いわ!ローサも使ってみて!」


私はローサにも渡して使ってもらう。


「お嬢様!凄いですね。しっとりすべすべです。常用したいですね」


ローサも効果に大満足みたい。私も続けたいと思ったわ。明日レコルト薬師に詳しい作り方を聞いてみなくちゃ。そう思いながらベッドへ入る。


翌日。


「レコルト薬師、昨日頂いた洗い粉。とっても良かったです。お肌がすべすべになるし、良い香りでした」


トレニアはレコルト薬師を呼び止めた。するとレコルト薬師はトレニアの首元に顔を寄せる。


「あっ、あの。レコルト薬師?」


「良い香りだ。トレニアから上品な香りがする」


そして私の手首を掴むとくんくんと香りを嗅いでいる。


「レコルト薬師!?」


「あぁ。トレニアは甘い香りがする。ちょっと待ってろ」


そう言ってレコルト薬師は薬草を粉にしている。そして徐に小袋を取り出して詰めている。


「待たせた。今度はこれを使うと良い」 


そう言って新しい洗い粉を私に渡す。


「レコルト薬師、作り方を教えてくれれば自分で作ります」


「あぁ、トレニアは俺の被験者だから気にしなくて良い。うん、肌も保湿されている」


そう言って私の頬を撫でてから席に戻る。 


 レコルト薬師は基本的に無口だけど、よく私に被験者だと言いながら化粧水を作ってくれたり、保湿クリーム等くれるの。それがまた効果が絶大で私はレコルト薬師の作る物が手放せない。食べ物で胃を掴むとは言うけれど、私もしっかりレコルト薬師に美容で肌を掴まれている気がするわ。そして無口だけど、そっと手を差し伸べてくれる感じがキュンとしてしまう。


歳上なんだけど。


「はぁ、レコルト薬師の彼女になった人は幸せ者ね」


 私は呟いたつもりだったけれどレコルト薬師はどうやら聞き逃さなかったみたい。レコルト薬師は振り返り私の手を取る。


「なら、トレニアは今日から俺の恋人だ」


「えっ」


「嫌か?」


「… 嫌じゃないです。… 嬉しいです。むしろレコルト薬師、私でいいのですか?」


「もちろんだ。そのための餌付けだ」


はっ!自ら甘い罠に掛かってしまったわ。でも、嫌じゃないの。ずっと私の事を考えてくれていたと思うと、むしろ嬉しくて気恥ずかしい。




 それから何度もレコルト様とデートに行ったわ。王都の植物園や美術館、劇場にも。


 レコルト様は普段あまり話をしない人だけれど、私が欲しい言葉をくれたり、ギュッと抱きしめて安心させてくれるの。レコルト様と恋人となってから甘い時間が過ぎて行く。




 そんなある日のデート終わり、私達は手を繋いで王都の広場を歩いていだけれど、ふと立ち止まる。


「レコルト様?」


「トレニア、俺は子爵だが今度伯爵へと陞爵になる。俺と結婚して欲しい」


突然のプロポーズ。そして目の前にそっと差し出された指輪。


「… 涙でよく見えないのです。どうか、私に指輪をはめて欲しい、です」


ふっとレコルト様は微笑み指輪をはめてくれたの。


 周りの人達は私が涙している様子を見て一瞬静まり返ったけれど、指輪をする様子を見て波紋のように拍手され祝福の言葉を送ってくれたの。



薬指にはめられた指輪はキラリと光り、祝福しているようだった。


【完】

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