第36話
翌日、ローサに起こしてもらい、ローサに準備してもらい、ローサと共に辻馬車に乗って侯爵家へ向かった。私ってばローサがいないと何にも出来ない子になりそう。
久々の侯爵家。3年ぶりね。
「トレニアお嬢様、お帰りなさい」
侯爵邸の扉を開けると使用人達が総出で迎えてくれた。中には涙してくれている侍女もいてこっちまで涙が出てしまいそうになった。あの時は自分の事だけで精一杯だったなとしみじみ思う。
「お父様は執務室かしら?」
執事に聞くとお父様とルーカス様は執務室に居るらしい。執事の案内で執務室へと入るとあの時より痩せた父とルーカス様がソファに座っていた。
やはりお姉様達に苦労させられっぱなしなのかしら。
「お父様、ルーカス様お久しぶりです。今日は隣国から帰国した報告とお土産を持ってきました」
私はブランデーと葉巻を渡すと父は喜んでいる様子。
「トレニア、有難う。ところで仕事の方はどうだ?辛くはないか?」
「お父様、ファーム薬師長や他の方々からも良くして貰っていてとても楽しく仕事をしています。このブランデーと葉巻もカイロニアのカイン殿下のお勧めだそうですわ。今は仕事をし始めて沢山の人に会って充実していますし、やりがいも感じています。
そうだ、ルーカス様。先日初子が産まれたとローサから聞きました。おめでとうございます。待望の男の子だそうですね。これは少しですが私からのお祝いです。これでガーランド侯爵家も安泰ですね」
私はローサから伝え聞いて慌てて出産祝いの品を買ったの。洋服と小さなぬいぐるみをルーカスに渡す。
「トレニア、有難う。トレニア、ガーランド邸にいつでも帰っておいで。お義父上も寂しがっているからね」
父が寂しがっている?
何の冗談かしら?
あ、母も姉も妹もそういえば居ないのだっけ。まぁ、寂しいかもしれないわね。
「ふふっ。気が向けば邸に寄らせて頂きますね。これからは姉も甥っ子も邸に帰ってくるでしょうし」
ルーカス様は少し困った表情をしている。
「それが、グリシーヌは息子を王都に行かせても自分は別邸から出たくないらしくてね。困ったもんだよ。」
「そうでしたか。甥っ子と乳母だけ来る訳にはいかないでしょうから待つしかないでしょうね」
私が手を出すことは無い。ここは父となったルーカス様や父が頑張っていかないといけない所よね。
「そういえばお父様、ここに来た1番の理由は領地の薬草を数株カイロニア王宮へ送って貰いたいのです」
「そうすると我が家が今まで輸出していた薬草の取引が減るのではないか?」
「実はカイロニアからもここでは入手出来ない薬草を分けて貰ったのです。今、王宮の薬草園に植えていて株をある程度増やしてからガーランド領で栽培をして頂きたいのです。入手した大衆薬の原料なので国内での販売が大幅に見込まれる予定です。
今よりも領地は潤うとお墨付きをファーム公爵から頂いていますわ。そして詳細は陛下の印が付いているこの書類に書いてあるそうです」
サッと私は書類を父に差し出すと父は困惑しながらも領地が潤う事を聞き嫌悪感は無くなったようだ。ルーカス様も一緒に目を通している。
「詳しい話は私には分かりかねるのでファーム公爵から後日連絡があります。その時にお聞き下さい」
「トレニア、有難う。前向きに検討する。薬草の方はしっかりとカイロニアへ送っておくから心配は要らない」
私は用事も済んだのでさっさと邸を出る事にした。父もルーカス様も寂しそうにしていたけれど、私の家はもうここでは無いもの。
私はローサと侯爵家の馬車で寮まで送ってもらい帰ってきた。いつのまにかローサの手には新しいレシピが書かれた紙があったわ。料理長が私のために用意してくれていたらしい。
感謝よね!
勿論ローサはこっそり料理長にお酒を渡していたみたいだけど。
ふふっ。新しい料理も早く食べたいわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます