「義父上、どうしたのですか？急に呼び出して」

ルーカスが心配そうに義父のマルスに話しかける。マルスは苛立つように葉巻を吹かしている。

「グリシーヌはどうだ？上手くやっているか？」

「まぁ、何とも言えないですね。目を離した隙にドレスや宝石を買い漁ろうとしますから」

「我が娘ながら情け無い。早く孫を頼む」

「そうですね。ところで義父上、その事で呼んだのでは無いでしょう？」

「… ああ。実はな、ソニアの事だ。卒業パーティーでトレニアのエスコートをしていた公爵子息に言い寄ったみたいだ。しかも婚約者であるジョシュア君の目の前で、だ。公爵家から苦情が来た」

「… それは全然笑えないですね」

マルスは何度もタバコを吸っては消しを繰り返し、灰皿は満杯になっている。眉間に皺を寄せたルーカスはマルスの言葉を待つ。

「これまで4度の婚約者交代をしているのにも関わらず、皆の前で5度目の交代も厭わないと公言したらしいのだ。ソニアは4度目の婚約破棄ではお茶会の主催者である公爵家からかなり言われていたのに気にも留めていない。

全く鳥頭だな、我が娘ながら。誰に似たのか…。今回は公爵家から『デビュタント前から令嬢が既に男漁りをし、金品を貢がせている。夜会へ本格的に出始めたらそれこそ目も当てられない。侯爵家の為にも最果ての修道院へ入れろ』と言われたのだ。2つの公爵から苦言が呈せられたのだ、周りもこれで黙るだろう」

ルーカスの眉間の皺が更に深くなった。最果ての修道院とは犯罪を犯した令嬢達が入る謂わば牢獄のようなもの。永久凍土もあると言われる寒さ厳しい土地で一度入ると2度と出る事は叶わない。修道女として教会で生涯神に身を捧げる。

逃げ出した所で周りは雪に阻まれていたり、雪が降っていない時期には獣が徘徊し脱走する事は不可能だと言われている。

その教会は暖も満足に取れない程に寒さが厳しく、毎年数名は修道女達も命を落としてしまう者もいると聞く。

「義父上、確かにソニアは美しいが、グリシーヌ以上に奔放で世間を分かっていない。下手をすれば侯爵家は爵位返上もしなければいけなくなる可能性も充分あります。俺も公爵家の言う通り最果ての修道院へ入れた方が良いと思いますね」

「だろうな。ジョシュア君にとっては朗報だろうな」

「そうですね。羨ましい」

ルーカスは素直にそう呟くがマルスはそうだなと返すしか言葉が無い。

「そういえば何故公爵子息がトレニアのエスコートをしていたのですか？」

「それはな、君にもまだ言っていなかったな。トレニアは卒業の半年前から王宮薬師として王宮で働いているんだ。ファーム公爵の愛弟子となり、彼の庇護の元で仕事をしている。

トレニアは半年程だが飛び級制度で先に卒業している。エスコートしてくれた公爵子息は職場の先輩だそうだ。トレニアは職場で可愛がられていると侍女が手紙を寄越してくれた。優秀な娘を自ら捨てるなんてな」

全ては自分達が間違えていたのだから仕方がないと納得するしかない。

ルーカスもマルスもため息を吐くようにタバコを吹かした。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい