精霊の星 ~丘の魔王の研究所~

月見 カラス

第1章 ヴィータ編

第0話 プロローグ

「わたしは……死ぬの?」

 少女はベッドの上にいた。薄暗い部屋の中で、どこを見ているかも分からぬようにおぼろげで、その声は誰かに訴えているようにも、ただのうわ言のようにも聞こえた。

 そんな少女を見下ろしていたのは、白熱電球と、黒いローブを身にまとった青年。

「君の能力も、私の能力も、今の君を救えるものではない。少なくとも私はその方法を知らない」

 青年は少女の脈を測りながら、淡々と返した。

「そう……」

 少し間を置いて、しかし答えは分かっていたかのように、少女は呟く。

「アビス、私、ワガママだったよね……。ごめんね、分かってる。全部、わたしのせいだよね。でも……」

 少女は絞り出すように、息も絶え絶えに、か細く願った。

「わたし、生きたい……」


 この後、彼女は死ぬのか?少なくとも言えるのは、転生して奇抜な能力を得て異世界へ、なんて展開にはならない。彼女達は既に特別な力を持っているし、地球と交わりが無いという意味では、異世界と言っても差し支えはないだろう。今のところは。

 なぜそんな事が言えるのか。なぜそんな事を知っているのか。それは私がどこにでも居て、どこかには居ないから。私は空間、又は次元、あるいはそれに近い概念を持つ者。私は精霊、この物語の主人公たる彼女達と同様に。

 これは、地球と似たような進化を辿り、文明を持ち、しかし精霊という奇妙な存在がいる星の話。

 では、物語に戻ろうか。精霊の住むあの星に。


 事の始まりは、少し前にさかのぼる――。

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