第2話 命を奪う者

「――それで、その精霊はどうしてこんなところに?」

 青年は森の中を歩く。おしゃべりなカラスを連れて。


「ニンゲンしんだ。セーレイ、のりうつった」

「実にありふれた話だねえ」


「イシャ、おどろいてセーレイさわった。イシャはたおれて、セーレイにげた」

「医者が倒れた?外傷は?」

「ん-ん、さわっただけ」


「見てたのか?」

「もちろんヨ!」

「事実なら能力持ちか。それも少し特殊な……。実にいいね」

 青年の顔が笑みで歪む。


「アンナイしたら、ごほーびチョウダイ!」

「どんぐりで良いかい?」

「あれ、飽きた!クッキーがいい!」

「いいだろう。契約成立だねえ」




「アレだよ!アレ!」

 青年の瞳に、確かに倒れている人間が移り込んだ。うつ伏せの姿勢で、力尽きてそのまま倒れたといった感じだ。


「ん-……大分痩せているね。見た目は女性、十代中頃。元々色白なのだろうが、血色も良くない」

「しんでるー?」


 青年は、その人間の口元に指を滑り込ませる

「息はしている。意識は無さそうだねえ」


 次に仰向けにして、脈を測った。

「少し弱くて、速いか。それにこの感じ――」

 青年の表情が少し曇った。


「よくないカンジー?」

「栄養失調だろうな」

「えいよーしっちょー?」

「腹が減り過ぎて倒れたってことだよ」


「にんげんって、ばかー?」

「精霊だろ?」

「そーだった、セーレイ、バカ!」


「さて、とりあえず運ぶか」

 青年が、少女の体を持ち上げた時だった。青年の視線は、その下にあった草に集中していた。


「んー!」

 青年が好奇の声を上げると、カラスも気付いた。


「そのクサ、かれてるー?」

「枯れているようだねえ」


 青年は注意深く周囲を確認した。特に気にしていたのは、草が健康であるかだ。

「倒れていた場所は明らかに枯れている。周囲の草は、わずかだが変色が確認できる。5m先の草は健康そのもの……」


 青年は楽し気に笑った。

「医者は体に触れて失神か。いやはや――」


「シニガミみたい!」

 ズバリなカラスの一言に、アビスは更に大きく笑った。

「そうだねえ。お仲間にも伝えておくれ。この子の側に行っちゃダメだよ」


「シニガミ!シニガミ!」

 青年はその精霊が来たであろう方向に目をやった。そこには枯れて変色した草が、一本の道のように伸びていた。


「本当に厄介そうな能力だねえ――」

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