第16話 侵入
アビスがヴィータの対応に悩んでいた正にその頃、町の東南にある山の中で望遠鏡を
レンズには丘の上の
しかし、微動だにしない彼とは裏腹に、その心は強い残り火にあぶられていた。
(観察開始から5日目、未だに対象を確認出来ず……。日ももう少しで落ちる。今日も収穫無しか、クソっ)
(クソか……本当にクソったれだ。大体なんなんだこの町は。あれは、あの光は、炎じゃない。火の
(それにこの辺りの動物は、やたら精霊に
(だが、それなりの収穫はあった。カラス達によれば、あの小高い丘の一軒家がアビスの家で間違いないようだ。これは来る前から聞いていた情報でもある。まさかあんな質素な家に魔王が住んでいるなんてな。だが、対象を未だ直接確認出来ない。何日も家に
(アビス……魔王の1人。『科学のため』と言って、何でもするらしい。誰かが言ってたっけ『最弱の魔王は誰か』そいつは、アビスがそうだって言ってた。本当だろうか?本当なら、どうして負けてんだよ、
(
(その悪い精霊ってのは、魔王も含めて言ってたんだよなあ。魔王が暴走した時、オレ達が止めるんだって、そう言ってたじゃないか。だったらなに負けてんだよ。あんたは全てを浄火する
(どんな勝負だったのかは知らないけど、
(――ッ!!)
少年の肩がピクリと動く。レンズの中には、この5日間望んでいた物が映っていた。
扉を開け、外に出る黒いローブを着た変人の姿。それが丘をゆっくりと下って、町の方へ向かっていく。
(あれがアビス……。聞いていた通り、
瞬間、少年は駆けだした。
(いつアビスが帰ってくるか分からない。速やかに対処しないと――)
町の反対側から丘に上がり、ベランダに向かう。
家の海側は壁がなく、水の張られた大きな浴槽。
(風呂ってやつか?ガラスがある訳じゃない。変な造りの家……。ここから入るか?いや……)
その先に見えるベランダ。そこには大きなガラス戸がある。カーテンが閉まっていて、中は見えない。
(様子を探ろう。戸の
(……そう言えば、猫やカラスが多い割に、この家の付近にはいなかったな。理由があるのか?仕事がしやすくて良いけど――)
少しの間、ガラス戸に耳を当てる。何も聞こえない。中に人の気配を感じない。
同時に青年は一瞬体勢を崩した。顔を当てていたガラス戸が動いたのだ。
(鍵が掛かっていない?おいおいおい、アビスってのは、とんでもなく間抜けなのか?)
右手を腰に差し
(対象は……確認出来ず)
今入ったガラス戸と、正面の玄関を除いて、扉は残り3つ。2つはベランダ側にある。
静かに、慎重に、確認していく。
(こっちは外からも見えていた、浴室に続く脱衣所……。もう片方はトイレか。それで、最後は……)
何も
棚や引き出しにいちいちラベルがあるくらいだ。つまり、ただの物置だ。
(几帳面な奴。なのに戸締りはしない。変な奴だ。まあ今はどうでもいい。部屋はこれで全部。対象はどこだ?)
少年は元の部屋に戻った。
(隠れているような気配もない。いや、生活している気配すらない?)
たった一つだけ置かれているテーブルに指を走らせる。手には、ざらついた感触。目で確認すれば、もっとはっきり分かる。ホコリだ。
(どういうことだ。アビスは間違いなくここから出て来た。なのに、家自体は何日も放置していたような感じだ……)
(ん?
少年は床をジッと見つめた。
(ホコリが溜まるくらいここにいなかったなら、今アビスが出て行った痕跡が残っているはずだ。キッチンやベッドでなく……もっと不自然な方向への痕跡が……)
更に姿勢を低くし、床に残る
(ん?足跡の先の壁に……手の痕?壁に手をついたって感じじゃない。皮脂がこびり付いて、シミになってるんだ。ここか――)
少年はそのシミに触れてみる。
するとすぐに、床が沈み込み、階段が出来上がった。
(さっきまで……ただの床だったのに。動き出すまで全く分からなかった……。変な家だ。だが、目標は近い)
地下の
少年は決意を固め、足音を殺し、階段を下る。
(これより、精霊ヴィータの排除を行う――)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます