14話 俺の憧れはお前なんだよ


「この、クソ野郎が!!!」


 圭の叫びが屋上に響き渡った。


「お前は、暁月さんを好きって言ってたじゃないか……なのに、どうして!」

「色々あるって言っただろ」


 いつしかの会話の続きだ。


 あの時は誤魔化した。嘘をついたんだ。


 夕暮れに自分も燃えてしまえと願いながら。


 けど、その嘘はさっき圭にバレた。


 深く息を吸い込むと、口の中は血の味がした。


「だからって、こんなのはないだろう!人の気持ちを踏み躙って……暁月さんが、どんな気持ちだったと思ってるんだよ!?」

「うるせぇよ……」


 熱弁する圭に俺はただ冷たく言い放った。


 そんなの、俺だって何回も考えたさ。


 この関係が偽物じゃなかったら、彼女の笑顔も本物に見えたのかなって。


 彼女と一緒にいる時間を素直に幸せだと思えたのかなって。


 何回、何十回、何百回って考えたさ。


 その度に、彼女の笑顔が脳裏に浮かんで離れなかったんだ。


 それにどれだけ胸を締め付けられたか。


「人の気持ちを――――」


 そして、同じように俺も圭の左頬を思いっきり殴った。


「これは、俺たちの問題だ」


 圭はすぐに立ち上がって、俺に怒鳴った。


「お前は、お前はぁ!」


 そして、真っ直ぐに俺に殴りかかってきた。


 右フック、左ジャブ、そして、大ぶりの右拳。


 俺は右、左、右、と打撃をいなす。


 圭の連撃が尽きたことを見透かし、右回し蹴りを腹に思いっきりお見舞いしてやった。


「かはっ!」


 苦しそうな声と共に、圭は数メートル吹っ飛んだ。


 数秒後、フェンスに勢いよくぶつかる。


 これで終わりだろ。もう、立ち上がれるはずがない。


「これは、俺と美優との問題なんだよ。だから圭は――」   

「親友が、悪いことしてんなら辞めさせる。そこに僕が関係なくても、メチャクチャにしてでも、辞めさせる」

「なっ……!」


 嘘だろ?思いっきり体重も乗せて、急所狙いだぞ?


 普通だったら病院送りでもおかしくない……。


 なんで何もなかったように立ってんだよ?


「諦めるかよ!」


 またしても、大ぶりなパンチ。


しかし、俺はその大ぶりはフェイントだと予測。


 俺の読みは当たった。


 パンチ、フェイント、ここだ。


 タイミングを合わせて圭が攻撃するよりも早く、俺は右で顔面にスマッシュ。


 俺の全力に、圭は膝から崩れ落ちた。


 さぁ、諦めろよ。倒れろよ。


 しかし、そう願っても、圭はすぐに立ち上がって俺には向かってくる。


「どうして!?どうしてだ!」


 少し怖かった。こんなにボコボコにされても立ち上がってくる圭が怖かった。


 またしても、俺の蹴りが圭の脇腹にヒットする。


 しかし、それに動じることなく、圭は止まった俺に一撃を決めてくる。


「そんなの決まってんだろ!!優生は、僕の主人公なんだよ!憧れなんだよ!主人公になりたいと願ってる僕の、1番の主人公なんだよ!」

「……止めろよ…………」

「全てがカッコよくて、出来ないことは何でもできて!憧れてたんだよ!」

「止めろ!止めろぉ!」


 聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない。


 俺は最低なんだよ。クズなんだよ。自分は天才だと思い込んで、ずっと人に迷惑かけてきたんだ。美優だって。圭にだって。


 俺はそんな立派なやつじゃない。だから、辞めてくれ。


「だから、好きだった暁月さんと、優生が付き合うって決まった時、どうしようもなく苦しかったけど、応援しようって思ったんだよ!」

「っ!?」

「優生の隣にいたかったから、ずっと親友で、いたかったから!それなのに、それなのに!」


 圭の右ストレートが俺の顔に直撃。その衝撃に視界がゆらぐ。


 朧げな視界に酔いつつ、俺は叫んだ。


「俺が主人公?そんなわけあるかよ!俺はいつだって圭みたくなりたかった!いつも、人を笑顔にさせる方法を考えられるお前に憧れてたんだよ!」


 圭はいつだって、誰かが笑顔になれる方法を考える。


 そんなお前に俺は憧れてたんだよ。


 今度は俺の左ストレートが圭の溝にヒット。


 しかし、圭は倒れずにそのまま頭突き。


 フラつく体を何とか立て直し、最後の力を振り絞って大ぶりで突っ込む。


「うぉぉぉぉ!!!!」

「はぁぁぁぁぁ!!!」


 どうやら、圭も同じことを考えたらしい。まるで鏡のように同じ姿で殴り合う。


「もうやめてよ!!!」


 美優の叫び声が聞こえる。


 そして同時に、


 俺らの拳がクロスした。


 

  

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