1話 俺の夢と小さな一歩。


 いきなりこんな事言うのもどうかと思うが、俺はモテる。


 小学、中学と、今まで過ごしてきた学校生活で飽きるほど告白されてきた。周りからは羨ましい、とよく言われるが最早ここまでモテすぎるとめんどくさい。


 特に、バレンタインの日なんて地獄だ。


 あんな大量のチョコレートどうやって持って帰ればいいのよ?まぁ、頑張って持ち帰って全部食べたんですけどね。


 おっと、自慢話が過ぎましたね笑。


 そんなイケメン長身高校生、伊川優生は高校でもモテモテだ。


 「きゃー、伊川くん!かっこいい!」


 「今日もかっこいいよ!最高!」


 今だって友達と廊下を歩いているだけなのに女子からの黄色い歓声が廊下いっぱいに響いている。


 おいおい、俺はアイドルじゃねぇぞ?まぁ、そこらのアイドルよりもルックスいいのは認めるが。


 「やっぱすげーな。優生って。歩いてるだけでコレだもんなー。もうアイドルになったら?学校辞めて」


 なんて、隣で言ってくるのは親友の、浅井圭。


 小、中、高と同じ高校に通っている幼馴染だ。


 「ばーか。アイドルって握手会とかあるだろ?忘れたか?」


 「いーや。忘れてないよ。ちょっと羨ましくて意地悪してみただけさ」


 そして、俺の秘密を知っている唯一の存在。


 「でも本当に意外だよな。あの男女問わず人気者の優生がまさか……」


 「おっと。それは秘密の筈だぜ?マイフレンド。誰が聞いてるかわからないからな」


 俺の秘密をバラそうとする悪い口に慌てて人差し指で封をする。


 「あの地味男……伊川くんと近すぎなのよ……」


 「同性なのをいいことに……」


 「足の骨でも折っとけばしばらく歩けないわよね……」


 ……女子って、まじで怖い。


 小柄な友人が小刻みに震えているのが人差し指から感じられた。


 うお、寒気が……。


 春の陽気な暖かさとは対照的に悪寒が俺を襲った。


――――


 昼休みも終わって授業が始まった。


 進学校ということもあり結構なペースで授業は進む。


 しかし、全国模試三位の俺からしたら余裕だ。軽く先生の話を聞きノートをしっかりとっていれば遅れることはない。


 「うーん?どゆこと?なんでこうなるのよ……」


 唸りながら数字と睨めっこしているのは隣の席の、暁月美優。


 少し長めのボブカットは窓から刺す陽光を柔らかく受け止めていて、彼女が前後に揺れるたび、艶のある髪質がより一層強調されていた。


 彼女の人望は厚く、いつも友人に囲まれていてみんなに笑顔を咲かせてる。


 だからこうして悩んでいる彼女の姿は意外だった。


 「……何よ」


 「いや、別に……」


 大きな目を細め警戒している彼女。いつも友達に向けてる笑顔をしてくれてもいいじゃない……。


 「別に、こんな問題余裕なんだから。勘違いしないでよね」


 「はあ、そうですか……」


 何を勘違いするんだ?さっき思いっきり悩んでたよな?


 美優のノートに書かれた式をチラリと一瞥。簡単に間違いが見つかった為、取り敢えず指摘しとくことにした。


 「そこ、間違ってるぞ」


 「はぁ?聞いてないんですけど」


 「そですか」


 この子ってこんなにツンツンしてたのかよ。せっかく俺が教えてやったのに。人によっては嬉しさのあまりに、窓から飛び降りるぞ?多分。


 「言われなくても分かってたわよ……ありがと」


 微かに聞こえたお礼の言葉に思わず口角が上がってしまった。何だよ。結構素直じゃん。


 ペンを勢いよくノートに投げると手汗をかいていることに気づいた。


 あんな一面も悪くない。そう思ってしまった。



ーーーー


 帰り道、幼馴染の圭と雑談を交わしながら歩く。


 「そーいえば見てたよー」


 「何を?」


 「数学の授業」


 こいつとは席離れるんだが。そしてお前より席後ろなんだが。

 お前はエスパーか何かか?お前こそ学校やめて探偵にでもなった方がいいんじゃないのか?


 その偵察力を使ってさ。


 「まったく。美優にもうちょっと優しく接しなよ。優生のあの態度じゃツンツンされても仕方ないと思うけど」


 「けどお前は知ってるだろ」


 「分かった上で言ってるんだよ!そろそろ直せ!」


 圭に秘密を教えてしまったことを少し後悔してる。いや、コイツには気付かれたって言った方が正しいが。


 「はぁ。そもそも俺の秘密がお前となんの関係があるんだ?」


 「単純にムカつくんだよ!モテるくせに、重度の女苦手っていうのがさ!何がモテモテだよ!童貞の癖に!お前が一番なのはその学力でもなく、運動神経でもなく、ルックスでもなく童貞力だよ!」


 くっ、コイツ言ってくれるな……!


 しかし、事実のため強く出れない。


 「この童貞野郎!」


 この幼馴染容赦なさすぎる。


 「とにかく、圭は何が言いたいんだ?」


 少し興奮気味な圭を落ち着かせるために質問してみる。


 「ああ?あ、話がズレてた。俺はお前に幸せになって欲しいんだ」


 「ズレてた、じゃねぇよ!」


 話が全く結びつかないよ!本当はただ暴言吐きたかっただけじゃ?


 童貞から幸せになって欲しいは脱線レベルじゃねえぞ。  


 全く話がつながらない。意味不明だ。


 「要するに、将来家族を持って幸せに暮らして欲しいんだよ。だって、たった一人の幼馴染じゃんか」


 「圭……」


 最初からそう言ってくれれば良いものを……。


 しかし、思ったことをはっきりと言ってくれる人は大事にすべきである。


 これからもズッ友だぜ!多分。


 「お前のその極度の女苦手じゃ、彼女なんて一生できないぞ。それが心配って話だ」


 「やっぱり心配してくれてたのか」


 これが友達……。胸の奥がほのかに温かい。


 「お前が誰かと付き合えば今日みたいに怖い目に遭わなくなるかならな!」


 「やっぱクズだ!コイツ!」


 少しでもグッとしてしまった俺がバカだったよ!


 ちくしょう!やっぱり圭はいつまで経っても圭だ!


 「けど昔、俺に話してくれたよな。大学生活でハーレムするのが夢だって」


 いつしたかわからないような話を持ち上げてきた。


 どうやら圭は俺のくだらない夢を覚えていたらしい。


 良い大学に入って、地元を離れて一人暮らし。


 俺のスペックをフル活用し、可愛い子との夢のキャンパスライフ。


 いかにも思春期男子の妄想全開だが、女子と話すので精一杯な俺にとっては昔からの夢であった。


 「だったら直さないとな。その悪癖」


 「うん」


 華の大学生活。


 その為に俺は勉強も運動もそれなりに頑張ってきたんだ。


 だから俺は、克服する。これまでも、「いつか直す」を続けてきた。しかし、何も変わりはしなかったのだ。


 俺は完璧でいたい。


 全ては夢の為に。胸に思い描く理想を力に変えて。


 俺は一歩、大きめに踏み出した。

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